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第2話 ムラサキ寮

「ユウ君、着いたよ。起きて」


 寮へ向かう途中、いつの間にか寝ていたらしく、雫に肩をゆすられて雄介は目を覚ました。


 車から降りると、寝ていて目をしばらく閉じていたせいで太陽がまぶしく、雄介は目をつぶってしまった。


「ほらユウ君、ここが寮だって」


 少し時間をおいて目を開けると、そこには少し古い感じのする二階建ての木造建築物があった。


 門のところにはかつて寮の名前が書いてあったのだろう木の板がかけられているがが、雨風に当たりすぎたのかもはや原型がなく読むことができない。


 玄関では和服を着た綺麗な女性が竹箒で玄関前を掃除している。


「あら、あなた達が連絡をくださった白山さんと、織原さんかしら?」


 女性はこちらに気付いてくれたらしく、掃除をしていた手を止めてこちらへと歩いてくる。


「ようこそ、ムラサキ寮へ。私はここの管理人をやっております、喜田畑(きたばた)夕々子(ゆゆこ)と申します」


「あ、どうも。ボクは織原雫です。ほら、ユウ君も」


「お、おう。白山雄介です。よろしくお願いします」


 雫に促されて、雄介も自己紹介をする。


「はい。よろしくお願いしますね」


 やわらかい笑顔で対応してくれる管理人の夕々子。


 雄介はその笑顔に照れてしまい、つい顔を赤くしてしまう。それを隣の雫は面白くなさそうに見ていたが、我慢できずつい口を出してしまう。


「ユウ君、ボクというものがありながら、デレデレしないで」


「なっ、変なこと言うなよ!」


 そんな二人のやり取りを夕々子は笑って見守る。


「ふふ、お二人は仲がいいんですね」


「な、そんなことないっすよ!」


 夕々子にそう言われ、雄介は慌てて否定する。もちろん否定された雫の表情は語るまでもないだろう。


「ではお二人のお部屋に案内しながら、寮の説明をさせていただきますね」


 そんな二人を微笑ましく見ながら、夕々子は寮の中へと案内する。


 雄介たちは車からいくつか荷物を降ろして、管理人さんの後に付いて行く。


 玄関にはポストが何個かと、少し大きい靴箱がある。


「こちらのポストには後でお二人の名前を書いておきますので、それを使ってくださいね。それと靴はできれば二足、多くても三足までにして、使わない靴は下駄箱へ入れておくようにしてください」


こちらへどうぞ、と夕々子の案内の元、廊下を進んで行く。


 結構古い建物なだけあって、床からギシッ、ギシッ、と軋む音がする。


 だが、隙間風などは一切ないようなので、もしかしたら古く見せるための演出なのかもしれない。


「このムラサキ寮は二階建てで、一階と二階に各四部屋ずつあって、二階には物置というか倉庫が一部屋と、一階に皆さんが集まれる少し大きなリビングが一つあります。色んな人が使うのであまり騒がないようにお願いしますね」


 こちらがそうです、と夕々子に一階にあるリビングを案内してもらう。その部屋はそこそこ広く、皆が座るであろう机の前に置いてある大きなテレビが結構目立っている。


「朝と夕の二回、ご飯をださせていただきますので、その時はここで召し上がっていただくんです。リビングの横が台所になっているので、そこの冷蔵庫を使う際は入れる物に名前を書いておいてくださいね」


 リビングと台所の説明を受け終わると、次は二人の部屋へ案内される。


「お二人のお部屋は、ここの二部屋となります」


 案内された部屋は一階の奥から二番目と三番目の部屋だった。


「トイレは一階で共用となります。お風呂は離れの小屋になりますが後で言う決まった時間内に入ってくださいね。ここまでに何か質問はありますか?」


「俺は特に…」


「ボクは、まずゴミ出しについてなんですけど…」


 一通り寮の説明を終えた夕々子にそう聞かれて、雄介は特に聞くことはなかったが、雫は聞くことが結構あるみたいで、夕々子に色々と質問をしている。


 ニ・三分で雫が質問を終えると、二人は夕々子に鍵を渡される。


「それでは、雄介君、雫ちゃん。今日からよろしくお願いしますね」


 また夕々子の笑顔に気を取られた雄介を、隣にいる雫がわき腹をつねることで意識を戻させる。


「いって! なにすんだよ!」


「喜田畑さん、こちらこそよろしくお願いしますね」


 隣の雄介を無視して、挨拶を返す雫。


「喜田畑さん、なんて固いわ。夕々子って呼んでくれると嬉しいわ」


「よ、よろしくお願いします。夕々子…さん」


 これには雫も少し照れてしまうものの、なんとか返事をする。


「はい、よくできました」


 そう言って夕々子は満足そうな笑顔で雫の頭をなでる。


「大丈夫よ。愛しの彼は取らないから、頑張ってね」


 夕々子にささやかれ、珍しく雫の顔は赤く染まった。


「それじゃあ、掃除の続きがあるから行くけど、なにかあれば遠慮なく訪ねてくださいね」


 そう言って夕々子は玄関の方へ戻って行った。


「そ、それじゃあ、荷物を片付けよっか!」


「お、おう…」


 まだ少し顔が赤いままの雫が、気を紛らわすかのように大声で言い出し、雄介はその迫力に驚きつつもなんとか返事を返し、荷物を持って部屋に入っていく。


 部屋は布団が三組敷けるほどの広さで、あとは押入れがあるくらいのシンプルなものである。


 押し入れの中の下段へ、衣服の入ったチェストを父親に手伝ってもらいながら片付けていく。なお、雫の方は母親が手伝っている。


「よし、あとの細かいのは自分でできるな」


 あらかた片づけを終えて部屋を出ると、雫たちも丁度出てきた。


「それじゃ、僕たちは帰るけど、もう大丈夫かい?」


「はい、大丈夫です」


「雄介も、雫ちゃんに迷惑かけちゃダメよ」


「分かってるよ」


 二人の手伝いを終えた両親はもう家に帰るので、雄介と雫はそれを見送りに行く。


「それじゃ、雫ちゃん。うちの雄介のこと、頼んだよ」


「任せてください!」


「なにか失礼をしたら、遠慮なく、ひっぱたいちゃいなさい」


「はい! 遠慮なんてしません!」


「おい、少しは遠慮しろや」


 体に気を付けるようにと、雄介の両親は言い残して帰っていった。


「どうする? 飯の時間までまだだけど?」


「うん、ちょっと買い物に行きたいから、ユウ君付き合ってくれる?」


「おう。俺も欲しいもんあったしな」


 二人は一旦部屋へ戻って準備をし、玄関で合流する。


「どこに行くか決まってんのか?」


「うん。ここから少し行った所にデパートがあるから、そこに行こう」


 そう言って雫は雄介と手をつなぐ。


「手をつなぐ必要はあるのかよ?」


「別にいいじゃん。気分だよ」


 雫は嬉しそうに、雄介はあきれた顔をしながら、デパートへ歩いて行くのだった。

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