第1話 新しい朝…に向けて
「ほらユウ君、起きて? もう朝だよ」
雄介の一日はまず、幼馴染の雫に起こされることろから始まる。それが例え休日であったとしてもだ。雫はいつも同じ時間に来るのだが、それより先に雄介が起きれたことなど一度もない。
雄介は被っていた布団からモソモソと体を出す。
「分かったから揺らすな…」
雄介が顔を出して言うと雫は満足そうな笑顔になる。
「じゃあ先に下に降りて待ってるね」
雫が部屋を出ていくと雄介も少しずつ布団からはい出て、完全に布団から出ると思いっきり体を伸ばす。伸ばすことで体をほぐした雄介が自分の部屋がある二階から降りてまず向かうのは洗面所である。朝起きてまず顔を洗わないとスッキリしないのだ。ついでに歯をみがくことも忘れない。
その後にやっと幼馴染がいるのであろうリビングへと行くのだ。
「あら、やっと起きたの? たまには早起きしてみなさいよ」
母親がとやかく言ってくるが、できるものならとっくにしているであろう。分かり切ったいつものやり取りなので雄介は「できたらな」と返し、席に座る
「それに今日は下宿先の寮へ行くんでしょ? 速く食べて準備しなさいよ」
母親に言われて雄介は思いだす。
地元の高校は一番近くてもここから数駅離れている所にしかないので、学校から遠い学生は主に下宿か電車での通学という手段をとるしかない。
そこで雄介は一人暮らしにあこがれがあったので、両親に頼んで下宿による通学をさせてもらったのである。
もちろん、両親は中学を卒業したばかりである雄介の一人暮らしを渋っていたが、とある理由から一人暮らしの許可を出したのであった。
「雄介のこと頼んだわよ、雫ちゃん」
「はい、任せてください!」
そう、その理由こそ幼馴染の織原雫ある。生活リズムがしっかりしている雫が毎日起こしに来ているおかげで雄介の両親からの信頼は厚く、家事もたまに手伝っているので雫がいるのなら雄介が一人暮らししても規則正しい生活ができるだろうと思い、雄介は寮生活を許されたのだ。
「雫ちゃんがいれば、心配いらんな」
「っていうか、よく雫の親が一人暮らしを許したよな?」
「うん、実はボクのお父さん、仕事で海外に行かなくちゃいけなくなったの」
初めて聞かされた内容に雄介は驚きを隠せない。
「初めて聞いたぞ、そんなこと」
「うん、ボクは海外に行かないから別にいいかなって。お父さんもお母さんもユウ君と一緒にいたいからって言ったら納得してくれたし」
納得したのかよ、と雄介は 呆れながらも朝食を食べ進めていく。
「それでね、電車通学は危ないから寮生活にしたらってことで、ユウ君の両親と話を進めてたの」
「って、父さんと母さんもグルかよ! 聞いてなかったぞ!」
すでに外堀は埋められていたらしい。
「ほら、もう食い終わったんなら、さっさと荷物を持ってこい。みんなお前待ちだぞ」
「分かったよ…」
なんかもう色々と納得できないが皆を待たせても悪かったので、雄介は部屋に戻り準備していた服に着替えて、これからの着替えや私物といった荷物を持って降りた。
「お待たせ」
「よし、じゃあ行くか」
下宿先は当然遠いので、雄介達は父親の運転する車に乗って向かう。
「あれ、雫の両親は?」
「海外へ行く準備があるらしくてな。代わりに僕たちが送ることになった」
父親がそう説明しながら、雫と雄介の荷物を車に乗せていき、雄介も自分の荷物を慌てて乗せる。
「よし、じゃあ行くぞ」
荷物を乗せ終わり、父と母を合わせた四人が車に乗る。
前の運転席に父親、助手席に母親が座るので雄介と雫が後ろの席に座ることとなった。
「楽しみだね、ユウ君」
「おう…」
これから一人暮らし。緊張もするがやっぱり楽しみでもあるようだ。
ちなみに、これから向かう寮は少し特殊な寮である。というのも、高校の近くの寮はだいたい抑えられており、自宅からの電車通学しかないと諦めかけた時、ワケありの寮であれば空いているとのことなので、なんとか入れてもらえたのである。そのワケは教えてくれなかったが。
「で、なんでしれっと俺の手を握ってるの?」
隣に座る雫が頬を少し赤く染めながら、雄介の手をキュッと握ってきていた。
「ん~、なんとなく」
少しの不安も含みながらも二人を乗せた車は進むのであった。