第0話 始まり
春、と言えばどんな季節であろうか? 人によっては春と言う季節は別れと出会いを象徴する季節であると答えるかもしれない。
まぁ、学生にとっては学校に入ったり出て行ったり、新しい学年にドキドキが隠せなかったりと皆それぞれ色んな思いを胸に抱くのであろう季節である。
そして今、ここにも三年間通った中学校の卒業式で、別れの悲しみと同時にこれからの高校生の生活に様々な夢が膨らみ、胸を高鳴らせている学生がいた。
彼の名は白山雄介、特に特徴はない、いたって普通の学生である。
長い校長先生の話を含めた卒業式も終わり。今日はこれで解散なのだが、さっさと帰ろうと準備している途中で彼は呼び止められてしまった。
「あ、まってユウ君」
彼を呼び止めたその子はちゃんと飯を食ってるのか不安になるほど線が細く、肌は足跡ひとつない雪原のように白い、そして大きくクリッとした目と首にかかるかかからないか位の髪を持っている。十人見れば十人が可愛いと言うような恵まれた容姿の持ち主は、雄介の幼馴染である織原雫という。
「おう、どうした?」
「ちょっと……時間ある?」
特に帰ってもすることがないので、雄介は頷いた。
雄介は雫に付いて行き、校庭に唯一咲いている桜の木の下へ向かった。もう式も終わってみんな思い思いに過ごしているのでそこには誰もいなかった。
「で、こんな所に呼び出してどうしたんだ?」
雄介にそう聞かれて、雫は自分を落ち着かせるためにか、何度か深呼吸を行う。そして
「好き、ずっと前からユウ君のことが好きだったの!」
桜舞い散る木の下で今、雄介は目の前の雫から告白された。
普通は先ほどのような告白を幼馴染から、それも可愛い子から告白されれば喜んで受けるだろうが、雫にはとても大きな問題がある。と言っても、雄介には付き合っている彼女がいるとか、雫の容姿が好みじゃないとかではない。生まれてから今まで雄介に彼女がいたことはないし、誰かに片思いをしているわけでもない。当然雄介だってこの子は可愛いと思っている。
では問題とはなにか。それはいたって単純であり、一つしかない。それは雄介の幼馴染、織原雫は『女』ではなく『男』であるという点である。