ゴールデンハンマー
B班の隊員から無線が入る。
「サンドヴァイパーよりナイトバード。ブラボー班、マル害と見られる女子12名確保。これより救護班とともに護送車に搬送します」
首肯した瞬間、負のヴィジョンが浮かぶ。
12名だと? やけに多くないか?……
「ナイトバードよりサンドヴァイパー。マル害の容態はどうか?」
「サンドヴァイパーよりナイトバード。12名のうち7名の日本人若しくは東洋人については、やや憔悴してるが、意識、体力ともに、概ね正常。5名の白人についても、歩行に支障はない模様」
「白人女性?」
アタシの迂闊な応答が悲劇を生んだ。
訝しむアタシの、疑念のイントネイションを汲み取ってか、白人女の一人が電光石火、SAT隊員の喉笛にダマスカス鋼のブレードを滑り込ませる。
無線機の向こうで女達の悲鳴がサイレンのように響く。
「サンドヴァイパー! どうした? サンドヴァイパー! 応答せよ!」
必死の問いかけも虚しく、悲鳴と聞き慣れぬ言語が無線機のスピーカーから聞こえてくるだけ……
後悔が憤怒に変わる。
アタシは全力でB班のもとに向かう。
ーージェノサイダーズが女だとは聞いていない。兵士と聞いて勝手に男だと思い込んでいた。
完全にアタシの失策。ーー
現場では、B班の隊員に取り囲まれた白人女達が被害者達を人質に取り何かを喚いていた。
隊員の喉笛を搔き切ったと見られるナイフを、今度は人質に押し当てる白人女はアタシの存在を認めるや否や、コチラに向かって何かを要求していたようだが、知った事ではない。ダマスカス鋼のナイフが人質の喉を搔き切るよりも早くグロックのトリガーを引き絞り、白人女の眉間に9mmパラベラム弾をブチ込んでやった。
ホローポイントの弾頭が頭蓋骨にめり込んだところで、その運動エネルギーを拡散させる。
白人女の頭部が熟れ落ちたザクロのようになる。人質の女は血しぶきを浴び、失禁して失神。
ついで、狂ったようにアタシに飛びかかる残りの4人の膝皿を破壊し、戦闘不能にしてやる。しかし、なぜか負のヴィジョンは払拭されはしない。
やにわ自動小銃の銃声が轟く。先刻居た撮影ルームからだ。
何処に潜んでいたのか分からないが、本命はやはりあの部屋にいたのだ! 女達はデコイだったのだ、クソッタレ!
ホゾを噛みながらアタシはもと来た道を辿る。
「落ち着け! 落ち着くんだ」
自分に言い聞かせながら一歩一歩踏みしめるごとに更にアタシは冷酷なオーラを纏う。
恐怖も怒りも無い。全ての感情は拭い去られ、ひたすら対象を破壊するのみの、自走式殺戮兵器と化す。
しかし、そこで絶望的な体験をすることとなる。
これまで生きて来て、体験はおろか、想像さえした事の無い程の凶暴なオーラに、魂が握り潰されるような感覚に呼吸を止められた。身動き一つできない。
ーーニンゲンじゃない! どんなカイブツなのだ……どうあがいても勝ち目は無い。逃げる事もおそらく不可能。……どうする!
一発でもいい。ブチ込んでやる! 八つ裂きにされようが目玉のヒトツも抉り取ってやる! ーー
とにかく立ち向かおうと、肚をくくるまでの時間は気の遠くなるような刹那であった。
2丁のグロックを両の掌に握りしめ、一歩踏み出したその時、背後からその凶暴なオーラの主が声を掛ける。
「おい、オマエ。ハジキしまっていいよ。もう終ったから」
何が起こっているのだ?……まるで、さっぱりわからない。気が狂ってしまったのかと思った。心臓を直接鷲掴みされているような不快感でモドしそうだ。言葉も出ない。
「なかなか出来る決断じゃねぇが、オマエさんのは、悲壮な蛮勇だ。あんまし褒められたモンじゃねぇな」
その男の悲しくも優しい声のトーンにアタシは我にかえる。
目の前には大きな肉の塊が5つ、いや、正確には、見るからに鍛え上げられた屈強な兵士が転がっている。
多分全員絶命している。見れば、5人ともしっかりとガスマスクを装着しているではないか。アタシは瞬時に理解する。内通者はダブルスパイ……。
しかし、銃声がしてからまだ1分と経っていない(はずだ)。物理的に不可能だろ! 5名のプロを殺害するなど、有り得ない! だいいちガスマスクもなしに……この男、一体…………
アタシはふと気付く。このバケモノじみたオーラ。凶暴な怒りに満ちてはいるが、凶悪ではない。むしろ慈悲深い、深い優しさ満ちており、そのあまりの深さに畏れを抱いてしまったのだ。
「貴方いったい何者?」
振り仰いだアタシの視界には金色のオーラに包まれた(アタシにはそのように見えた)ボサボサのオジサン。ダボシャツに腹巻き、ニッカボッカ。しかしただの現場作業員でないだろう、きっと管理職だ。でなければこんな存在感というか、表現し難いオーラなぞ醸し出せるはずがないもの。
「オレか? オレは通りすがりの私立探偵だ。拉致られてたヤツらは俺の仲間が保護しているはずだ。……早いとこ殉職したお前さんの部下を弔ってやんな」
「し、私立探偵って、……ドコの?」
「え、今それ重要?」
「自分を、貴方のもとで一から鍛えていただけないでしょうか!」
アタシはオジサンに対して精一杯の敬礼をした。




