Heartbreak Hotel
その日、俺達のホームグラウンド『ハートブレイクホテル』では『Rouxious凱旋ギグ』なるイベントがハコ主催で大々的に開催されたわけよ。
『トウキョウ急襲ツアー3デイズ』を大成功のうちに終え、その熱も冷めやらぬままにメンバー皆グッドなフィーリングで臨むホームゲーム。
対バンも【凄腕スティックマスター】【ソルトシュガーペッパー警部】【ザ・パルプンテ】【マジカルミステリーハンドガール】と皆それぞれがメインアクトを張れる程のツワモノ揃いで、いやがうえにも脳汁ドックドクな祭りだったね。
いやぁ、もう、あんなイベント二度と無理なんじゃねーの! っつーくらいマジヤバかったね。……燃えたね、燃えまくったね。燃え尽きたよ、真っ白に。
特に仁のヤロー、気合い入りまくりで、前日にまで夜通しのリハに付き合わされちまったよ、俺ぁ。
ま、俺達リズム隊、いうなればバンドのボトムゾーンがリレーションシップを高めるのは非常に良い事なんだけれども、なんつーか、このヤローの急速な覚醒が、嬉しくもあり、チョーウザくもあり……
……「ヒトシ、もう朝6時。ねみぃから帰るぞ」
「え、マジ? じゃ、ウチ泊まってけば?」
「ざけんなっ! 徒歩3分なのになんで泊まんなきゃならねーんだよ!」
「いやぁ、起きたらもう一回通せるかな。と……」
「もう、ジュウブンだ! つーか、マジメかっ!」
「ええ〜、だってさぁ……」
「エテ公のセンズリじゃねーんだから。本番前に疲れてどうすんだよ。……リハ3時だから、1時半に迎えにくっからな。ちゃんと休んどけよ」
「オッケー。タケシ君こそ寝坊しねーでくれよな」……
……凱旋ライブに際し、ヒトシがここまで入れ込む理由は、勿論、対バンのメンツや、ハートブレイクホテルのオーナー、海野航平氏の心意気に対する感謝からでもある。
だが、それにもましてヤツのマインドをアゲているのは、ツアー中に出会ったDNTレコードの、なんつったかな。……カジキだかマグロだかいう、チョー怪し気なオッサンの言葉だな。きっと。
「いやぁ! スゲーいいバンドだよ。キミら! いい! いいよ! いいネ! 是非ともウチと契約して欲しい。一緒に世界目指そうよ! テッペン穫ろうぜ!」とかなんとか、スゲー調子コキまくりだったな。
そんで、ヒトシのヤロー、すっかりその気になっちまって、……そりゃまぁ、俺も悪い気はしねぇけどね。
だが、しかし、肝心のフロントマン、つーか、ウーマン。スージーとナミは全く興味ナシ。といった反応だった。
あのオッサンを生理的に受け付けないというのもあるのだろうが、『インディペンデントで世界穫ったる!』が信条のスージーだし、スージーを巧くコントロール出来るのはナミだけだし……
俺達皆で力を合わせて盛り上げて行きたいとは思う。本気で思ってる。
でも、俺とヒトシは、特に俺はもう、近い将来を考えねばなんねぇ年頃。
情けないが、レコード会社と契約出来れば、ミュージシャンとしての未来に希望の光が差すってなもんでしょう。
オヤジには悪いけど、こんな寂れた田舎で家業を継ぐ気なんてさらさら無いからね。
ヒトシの場合、さしずめアイドルの女の子とかが目当てなんだろうけど……
ともあれ、その日俺も含めメンバー全員、凄ぇコンセントレイションだったぜ。
ギアがガッチリ噛み合って、どんだけパワーかけまくってもズレないカンジ。
そういうのって、なかなかないんだよね。
気合いのオーラが対バンの猛者共を圧倒しまくってたよ。まだリハだっつーのに。
そんな俺らに触発されてか、対バンの連中も鬼気迫るステージを展開しまくりでさ、その夜のハートブレイクホテルは嵐の海みたくうウネってたね。ロックンロールの神が降臨してたね。世界中で一番熱い夜だったぜ。
勿論、トリである俺達がどこよりもブっ飛んでたのはいうまでもねーけど。
えぇっと、そんで、問題はその後なんだよ。
DNTのプロデューサー? 社長? カジキだかマグロだかいうオッサン。その日のイベントをどこで嗅ぎ付けたのか観に来たんだよ。そんで、ウゼェことに楽屋まで来ちゃってさ。
ウチのスージーとナミに、イヤミなメガネの奥からネッチョリ絡み付くようなエロいやらしい視線を向けまくりながら、契約を勧めて来きやがったってわけよ。
トウキョウのハコで会った時にゃ、バンドごとメンドーみてやるくらいの事唱ってたくせに、今回はスージーとナミしかハナシのテーブルに上がっていない。
つまりは、ヤローにゃ興味ナシって態度ムキ出しにしまくってきたってわけよ。
ウチの歌姫。つーか、ウラ番。スージー。男前過ぎるくらい男前なもんだから、ものすげぇ覇王色のつよい覇気出しまくりで、カジキだかマグロだかにカマしちゃったんだよね。モロに。
大体がして、燃えに燃えたステージの後だからね、そんな無粋なオッサンに聖域穢されたとあっちゃぁ、カンベンならねぇってなモンだよ。そりゃそーだ!
「胡散臭ぇオッサンに売ってもらわなくても、ウチら最高のバンドなんだよ! コラァッ!! いいかオラ! よく覚えときな。アタシはロック王になる女なんだよ!」
「え? なにそれ……」
「世界一のロックキングにアタシはなぁるぁあ!」
とかなんとか言って大暴れ。俺らまで巻き添え食って、全治一週間だったぜ。
「それをいうなら、女王なんじゃない?』
とかツッコミを入れる余裕も無かったわけよ、誰にも。
ハコ主の海野さんは、楽屋メッチャクチャにされてんのに、なんか嬉しそうだったね。
「てめぇら、しばらく出禁だ、バカヤロゥ!」とか言いながらも。……
勿論ハナシはそれで片付いたワケじゃなく、翌日からメンバー各位の家に、恫喝と脅迫めいた電話とFAXによる怪文書等の嫌がらせが始まったんだ。
メンバーの中で最も与し易しと見られたのか、実は一番厄介なナミの家=スナックディアマンテにDNTの事務所の若いモンが出向いて行って、調子良くフカシまくったらしい。そんでナミの親父さん、晴男さんをチョイとブチ切れさせちまって、全員病院送りだったって、その時ちょうど居合わせたウチの親父が言ってたぜ。
輝世ママと長男の晴輝が、なんとか事態を収束させたからヒト死ににまでは至らなかったみたいだけど、DNTのヤツら、相当な地獄をみたんじゃねーの? くわばらくわばら。
詳しい事はわかんねーけど、早速次の夜、ディアマンテにおいて、商店街振興組合幹部会議が臨時召集されたらしいぜ。
ウチのオヤジとヒトシんちのオヤジ、そして晴男さんが音頭を取り、対DNT部隊を組織。交渉というか、抗争の段取りを算段していたようだよ。
なんか、どうも、DNTレコードの、ド腐れたキンタマ握り潰して、大日本帝国レコード自体、既得権ごとこっちにいただいちまうとかなんとか、そういうおっそろしい画図を描いたらしいぜ。
あ、いっけねぇ。ウチの親父に、この事は他言無用って言われてたんだっけ。……
つーかさ、大人ってコエェ………… …… ……




