Rouxious
カップに残ったコーヒーを流しに捨てる。
新たに開封したゴールドブレンドに湯を注ぎ、恐る恐るススル。
恐る恐るススっても下唇と上顎の粘膜はベロベロに破壊される。が、しかし、アタシはこの、唯一とも言えるウィークポイントを誇りに思っている。
実はあのヒトも猫舌なのよ、これがまた。
あのヒトとの符号点がアタシの宝。口腔粘膜の破壊と再生に、モチベーションもあがるってなモンよ。
猫舌のくせに、コーヒーもラーメンもアツアツでなければ許さない、ハードボイルドな彼の、……猫舌で猫背な彼を思い浮かべまた、70Dカップの胸が切なくなる。……はっ、いかんいかん、アタシとしたことが、またやってしまった。
そう、ルシャスについてだったわね。
ルシャス……。
いまさら調べるまでもないわ。
アイツらの生い立ちから前科、前歴家族構成。キズの数からハナ毛の本数まで分かってるっつーのよ!
この街に住み着いてからというもの、あのヒトの命令で、随分あのバカガキ共の面倒見させられたからね。
ああっ! ムナクソ悪い! あっつぅ! 熱いわっ! このコォヒィがっ!
ーーRouxious=ルシャスーー
リーダー兼ドラムス、猛田武士=タケダタケシ(25歳)
実家は、地元三ツ巴商店街で不動産業を営む。三人兄弟の長男。
三ツ巴保育園から三ツ巴小学校、蓮華市立第一中学校を卒業し、陸上自衛隊高等工科学校に入隊。それなりに努力したとみえ、幹部試験にパス。異例の出世で三等陸尉まで駆け上がり、PKOに志願。東ティモールへと派遣されたのだが、そこで軍律というか、人の道を踏み外し除隊。軍律違反は国家権力によって揉み消されたらしい。
過去にアタシの助手として、いくつか仕事をさせた事もある、まぁ、わりと使えるヤツ。
酔っぱらうと、あらゆる免許を全てロハで取得した事を自慢する癖がある。
次、ベーシスト。桜井仁=サクライヒトシ(20歳)
実家は古くから地元で建設業を営んでいる。
一人息子のボンボンだが、バンドとオンナの事しかアタマにない親不孝者。
学歴についてはメンバー全員、中学までは同じなので省かせてもらうわね。
工業高校をなんとか卒業後、親が裏から手を回して入学した大学の海洋学部海洋土木科に籍を置いてはいるが、置いているだけ。
ガキの頃からどうしょうもないワルで、傷害事件はアサ飯前。公然猥褻、強制猥褻、猥褻物陳列、薬物乱用、恐喝、窃盗、スピード違反に駐停車違反、etc……
アタシも幾度となく更正を試み、鉄拳制裁を下したものだったが、反社会的な性根はなかなかのスジ金入りだったわね。でも、兄貴と慕う武士にシメられて、無理矢理ベースギターを持たされてからは、目標みたいなもんが出来たからか、ちょっとだけ真面目になったようだ。
長身で手足も長く、ロックバンドのベーシストにはうってつけの素材。ここら辺のグルーピー気取りのビッチ達にはちょっとしたアイドルでもあるらしい。
続いてギタリスト。南那実=ミナミナミ(16歳、高一)
……なんていうか、あたしの敬愛するあのヒトの愛娘。さすがにあのヒトの血を引くだけあって、才知煌めくニュータイプ。見た目は可愛いのだけれど、頭がキレる分、性格にやや難アリ。学校では敵が多く、交友範囲は極狭小。幼少の頃から放浪癖アリ。アタシも何度か、捜索に駆り出されたり、身元引き受けに行ったりしたものよ。……ギターの腕前? そうね、まぁまぁなんじゃないの、よくわかんないけど……
そんでもって最後。ヴォーカリスト。
鈴木須美子=スズキスミコ。(18歳、高三)愛称スージー。
容姿端麗にして頭脳明晰なナルシスト。楽曲の殆どが彼女の手によるものである。バンドの運営に於けるリーダーシップはあくまでドラムの武士が執るが、バンドの精神的支柱はこの娘みたい。
商店街裏手の住宅街に棲息。父親はUSCに駐留する外交官だが、外国生活に馴染めぬ母親の要望で、生まれ育ったこの街での母子生活を送っている。
母子家庭とはいっても、666坪の敷地にある豪邸で執事と5人のメイドを雇い、屈強な5人のSPと5頭のドーベルマンに護られてんだから、アタシら庶民には全く以て接点を見いだせない人種だわね。
そんな特権階級の暮らしをしながらも、ご令嬢を公立の教育機関に通わせているのも理解に苦しむところだけれど……
なんでも、スージーの父親とアタシの敬愛するあのヒトが旧知の仲らしく(さすがにその件に関して深いところまでにはタッチできなかった)、家族同然の間柄で、あのヒトにしてもスージーのことを現在に至るまで、実の娘のように可愛がっているようだが、……違う! 違うわ。アタシにはわかる。スージーのあのヒトに寄せる感情が、無邪気に父性を求めるファザコンから、徐々に強い雄の遺伝子を求める雌の本能にシフトしているのが。
虎視眈々とあのヒトを籠絡しようと計略を謀る狡猾なメギツネのフェロモンに彩られているのがヒシヒシと伝わるのよ!
アタシが敬愛して止まないあのヒトの寵愛を一身に受けようと、きっと、幼少の頃より媚態の限りを尽くし、アタシが味わった事の無い喜びを与えられていたのでしょうね! 多分。
嗚呼! 口惜しや! うらめしや! ……はっ! ……またアタシったら。
……あ、コーヒーが丁度いい温度。……
さて、とにもかくにもなんだか面倒臭そうな予感がして来たわ。
どちらを立てるのかは言わずもがなだけど、あの馬鹿共には内密に動いた方が良さそうだわね。相手の真意を探る必要もあるし。三日なんてあっという間。
まずはDNAレコードの膿んだハラワタにメスを入れるとするか…………




