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エピローグ

 クルマの窓を開け、風を入れる。

 雨上がりの夜空を流れる雲に、この世の毒素すべてが吸い取られたのかと思う程、都会にしてはやけに澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込む。

 晴男さんは憮然とした表情でハンドルを握っている。

 気まずい空気に堪り兼ね、ちょっと抗議してみる。

「さっきから、なに怒ってるんですか! アタシのやり方にナニか文句でも……」

「大アリだ! バッキャロゥ!」

 前を向いたまま怒鳴るハルオさんの怒気が、まだ完全に治りきらぬ傷を撫でる。

 それだけでアタシは激しい愛撫を全身に受けている気分になれる。

「譬え月が満ちていたとしても、一歩間違えば死ぬんだぞ! てめぇ! 第一からして、侮るなっつー、俺の言いつけ破ってっし!」

 ああ! もうダメ! ガマンできないわ。一刻も早くリアルな交接がしたい。

 先刻の件でカラダの芯に火が点いたままのアタシは、矢も楯もたまらず、またもや獣人化していた。

「ハルオさぁん、ゴメンニャー。もう無茶はしニャいニャ〜。ゴロゴロ……」

「わ、わかりゃいいんだよ。わかりゃあ……」

 晴男さんはそう言いながら、左の手でアタシの腰の辺りをワシワシと揉むように撫ででくれた。

 

 濡れた路面に照り映える色とりどりの都会の灯りは、黒い川に浮かぶ灯籠のよう、無数の亡者を冥府へと誘っているようだ。

 街の灯をメタリックパープルのボディに受け、晴男さんのメリバン(VC110型スカイライン)は黒い川を渡って行く。

 ミッドナイトモンスターさながら、身をよじらせ、ズ太いエグゾーストノートを吐き出し、黒い川に浮かぶ無数のともしびを蹴散らしながら、澄み切った夜を紫のマーブルに染めて行く。

 白金に輝く月は妖しくアタシ達を導いていた。…………

 ………………

 …………

 ……


 斯くして、我が国のエンターテインメントの一角を、長年裏で支えて来た組織のひとつが闇に葬られ、寂れた地方商店街の振興組合が、めでたくもその空いたポストを埋める事とあいなったわけなのだが、……

 そこまで段取るには、各市区町村自治会に商工会、行政までも巻き込み、南晴男氏をはじめとしたお仲間達が、たいそう骨を折ったそうよ。勿論、アタシもコキ使われたわ。

 売れ残りのマンションや建て売り分譲住宅は、会社で買い上げて社宅とし、商店街の空きテナントには飲食店や、流行ブランドを扱うセレクトショップなどが入り、ヒトの流れは大きく変わった。

 契約タレントを招いてのイベントは、企画さえすればいずれも大当たり。常楽町商店街はじめ、蓮華市はバブル期並の賑わいを取り戻した。

 ……のも束の間。……

 煩雑な業界のしがらみだとか、急激な経済成長に付随しきれないインフラの供給不足からくる地域住民の苦情。多種多様な人間の出入り等々、膨大な情報量の処理を受け持つ機関を持たないイナカ者の組織は、外部からの参画者(出資者)とも如才なく折り合いをつけることも儘ならぬ村意識により、折角手に入れた宝を持て余すカタチとなってしまったのね。

 結局は、大手メジャー企業に全権を譲渡してしまったんですって。

 ……彼らの理想郷って、いったいいつ実現するのかしら?


 ルシャスはどうしたかって? ……あいつらは相変わらずマイペースでインディーズやってるわよ。

 ただひとつ変わった事と言えば、活動の舞台が蓮華市に加えて、コンチネンタルサーカスになった。ってことくらいかしらね。ま、アタシには興味ない事だわよ。


 ……世間はクリスマス気分だっちゅーのに、相も変わらずしみったれたこの街に、いつも通りの朝が来て、どうってことのない日常が幕を開ける。

 アタシは今日も時間通り、事務所に灯を入れ、クライアントからの依頼を待つ。

 飾り付けたモミの木を眺め、アツアツのコーヒーを啜りながら…………



               

                            ーー了ーー



 お疲れ様です。

 拙作、最後までお読みいただきありがとうございました。

 それではまたお会い出来る時まで……

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