Loveless
怒号とともに投げられたはずの、ラブレスのシースナイフは、なぜか放った本人、梶木の喉元におしあてられている。
状況を理解してるのはアタシだけだ。褐色のマッチョ共は彫像のように呆然と立ち尽くすだけ……
DNTレコード社長室の温度が2℃程上がり、それを受けてアタシの活性もグンと上がる。
時代遅れのキンパツとダボシャツのオジサンが、マッチョ共を視線で刺し、かったるそうに毒づく。
「おめぇらじゃそのオンナを性的に満足させられねぇよ。クソカス共が!」
「ア、アンタ! 一体ドコから?……」
押し当てられたブレードの舌なめずりは、表皮を切り開き、真皮から皮下組織にまで達していた。
梶木はズボンの前を黒々と濡らしつつ涙を流している。
「ひぃいい、……いた、いたいですぅう。助けて下さいぃ」
「……、つーか、アザミてめ、コラ! いつまでヤラれたフリしてんだコノヤロー」
ハルオさんの言葉に不貞腐れたフリをしつつ、アタシは深呼吸ひとつして立ち上がる。
「もぉおお、これからって時にぃ……」
ーー月例14.8。今夜はアタシのパワーがスーパーマキシマムデラックスでジャンジャンバリバリ無制限解放のスペシャル感謝DAY。獣人化したアタシは、月のパワーとハルオさんの愛のパワーで、与えられた全てのダメージが瞬く間に回復した。ーー
「いやぁ〜、もののついでに性欲の方も満たしておこうかなぁ。な〜んちゃって」
おもむろに、丸めた指先を頭上にかざすあのポーズをとる。
「ふっるぅ〜」
ハルオさんは、もンの凄い不快な表情をアタシ向けた。
マッチョ達がいまだ石化したままなのは、獣人化したアタシの姿のせいであって、古いギャグのせいではないだろう。勿体ないけど、スタンガンで眠ってもらいましょ。
小便の匂いの方に向き、顔面蒼白の梶木を指差す。梶木のカラダが電気ショックを受けたように硬直する。
「アンタ! さっきの素敵な動画のデータ、ハードディスクごと渡しなさい」
「それと、お前さんとこの、裏のシノギの商品と顧客リスト。大日本帝国レコードの裏帳簿も全部だ」
ネタは全部アガってると謂わんばかりのハルオさんの物言い。だがウラなんてとれてるわけが無い。アタシは笑いを圧し殺す。
「そ、そんな! ……ウチにゃウラのシノギなんてぁあありませんよぉ、ウチはまっとうに、未来ある若い才能をですねぇ……」
この期に及んで見苦しい嘘が平気で口を衝く梶木にキレたのか、ハルオさんの指が梶木の舌ベラを思いっきりつまみ出す。
「! あ、がぁえぁあぉ……」
「ペラペラと良く動くなぁ。このベロ。邪魔くせぇから切り落としちまうか」
「!☆△※◎!」
奇妙な声というか、音を発しながらまたもや失禁。
「ハルオさん、喋れなくなったらコッチも、何かと不便なんでカラダに聞いていきましょう」
アタシは軽く梶木の小指をつまみ、軽く破壊しながら呟く。
「アタシを三回もメス豚呼ばわりした罪はこのくらいじゃ消えないけどね……」
大袈裟に転げ回る梶木の鳩尾に軽くトゥキックで黙らせる。
「めんどくセェから10本まとめていったれぁ!」
苛ついた口調でハルオさんが、梶木の耳を掴んで引き起こす。
アタシは梶木の手をそっと握り、優しく微笑む。もっとも、獣人化したアタシの顔じゃあ、微笑んだつもりでも、威嚇してるようにしか見えないかもね。
「わあああ! 出します出します! 何でも包み隠さず出しますから! 命だけは!」
「臭!」
恐怖のあまり、脱糞しやがったコイツ!
当然嗅覚もマキシマムなアタシには先刻の痛みよりもキツいわ。
「ゥグッ、出さなくていいモンまで出すなよな……」
「ス、スンマセン……」
言うまでもないが、この梶木の様子は最高画質で残しておく。




