砂糖漬けとジャムとプリザーヴ
ルーシー・モード・モンゴメリの『赤毛のアン』シリーズを読んだことがある人は多いと思う。私も御多分に漏れず、子供の頃にシリーズ(村岡花子訳のもの)を読破した。
当時読んでいた本の中に印象的な食事のシーンが数多くあったことは、前置きでも述べたが、この『赤毛のアン』シリーズはそういうものの宝庫である。食事のシーンを読み返しては、想像を何度も巡らせたものだった。
この作品の中で私が気になったものの中に、果物の砂糖漬けがあった。リンゴやさくらんぼなど、材料は様々で、おやつやデザートになる。例によって、どんなものなのかと考えずにはいられなかった。
ところで、私は九州育ちである。九州にはザボン漬けというお菓子がある。オレンジピールと同じようなやり方で、ザボンの皮をシロップで煮て乾燥させたものだ。私の中の砂糖漬けのイメージは、これに近かった。でも、リンゴやさくらんぼの砂糖漬けというのは売られていない。本を開く度、私の頭の中には、ザボン漬けと同じような姿になったリンゴはさくらんぼがちらついた。だが、現物にお目にかかったことはなかった。
この「砂糖漬け」とは一体何だったのか。『赤毛のアン』は著作権が切れており、ネット上の電子図書館、プロジェクト・グーテンベルクに収録されている。ここにアクセスして、該当の部分を探してみる。それによれば、砂糖漬けの原語はプリザーヴであった。
このプリザーヴというのは、果物を砂糖で煮た保存食である。幸い、持っている別の系列の料理の本に、プリザーヴについて書かれていた。ジャムとほぼ同じようなものだが、プリザーヴの場合は、濃いシロップに果物が浸かっているものを指すらしい。もっとも、最近は混同されてきて、境目はどんどん曖昧になっているようだ。長い間疑問に思っていた「砂糖漬け」は、周りに乾いた砂糖が付着したお菓子ではなく、シロップに浸かったジャム状のものだったのだ。
真実がわかって嬉しいような残念なような、そんな気持ちである。
さて、私は何年か前に出版された、ルーシー・モード・モンゴメリのレシピブックを持っている。様々な料理が載っているが、ジャム類は「プラムのジャム」のみなのが残念なところだ。
なお、この本には、アンがダイアナを酔っ払わせてしまった「赤スグリのワイン」の作り方が載っている。もともとはモードの祖母の得意レシピだったのだそうだ。実際に作ってみたいところだが、日本でこれを作ると法律に引っかかってしまう。レシピを見ながら、つくづく残念に思ってしまう。
ついでなので、ジャムに加える砂糖の話をしよう。つい先ほど、「別の系統の本」と書いたが、その本というのは、ローラ・インガルス・ワイルダーの著作『大草原の小さな家』シリーズに登場する料理について書かれた本である。この本にはイチゴのジャムやプラムのプリザーヴなどの作り方が掲載されている。これらで気になるのが、砂糖の量である。
どちらの本も、基本的には果物と砂糖の量が同量なのである。五百グラムのイチゴでジャムを煮る場合、五百グラムの砂糖を入れろと書いてあるのだ。しかも、ローラの方の本では、料理そのものの歴史についても多少触れられているのだが、この本によれば、それ以前の時代は、その倍以上の砂糖を使っていたらしい。私は一度だけ、好奇心にかられて、同じ量の砂糖でジャムを煮てみたが、甘すぎて食べられたものではなかった(捨てるわけにも行かないので、甘みのないビスケットに挟むなどの工夫をして、何とか消費した)それ以上の甘さのジャム……考えただけで気が遠くなる。だが砂糖が貴重品だった時代の人には、それでもきっと美味しく感じられるのだろう。
ちなみに、現在日本で売られている料理本では、ジャムに入れる砂糖の量は、果物の重量の三分の一、というのが一般的である。当時の人が今の日本のジャムを食べたら、逆に「全然甘くないわ!」と思うのかもしれない。