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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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【箱入り】シリーズ

箱入り令息と騎士の初対面

掲載日:2026/10/30

恋愛――それは自分でも驚く瞬間から始まるのかもしれない

 青緑(せいりょく)の生垣が迷宮を象(かたど)る庭園には、彫刻をあしらった石造りの噴水が清冽(せいれつ)な音を奏でていた。


 午後の陽光が差し込む公爵邸の応接室では、銀糸の刺繍(ししゅう)が施された純白の騎士服に身を包んだ男と、艶(つや)やかな黒髪の男が、木製の長机を挟んで向かい合っていた。


「専属騎士?」


 アルテは首を傾げ、隣に座る父親へ視線を向けた。


「そうだ。アルテ、お前も社交界へ顔を出す機会が増えたろう。だが、私がいつまでも付き添うわけにもいかない。そこで、騎士団長から推薦された彼に、お前の専属護衛を務めてもらうことにした」


 アルテの父親に促され、向かいに座っていた男はソファから立ち上がった。


「お初にお目にかかります。フェデーレと申します。至らぬ身ではございますが、アルテ様の身辺をお守りする役目、誠心誠意、務めさせていただきます」


 深々と頭を下げる所作には無駄がなく、背筋はまっすぐに伸びていた。


 純白の騎士服には一点の乱れもない。

 姿勢を正すと、マントの肩口に留められた花柄のブローチが日差しに照らされた。


 大貴族二人に穏やかな笑みを向けるフェデーレという男は、超エリートだった。

 平民出身の十九歳にして、王国騎士団の副騎士団長に就任した、智勇兼備(ちゆうけんび)の騎士である。


 そんな彼がこれから仕えるのは、目の前にいる小柄な青年――王家の次に権力を持つ公爵家の令息だった。


「アルテだ。こちらこそ、よろしく頼む」


 アルテも立ち上がり、淡々と応じながらフェデーレと握手を交わした。


 十七歳になったばかりのアルテにとって、専属騎士がつくという話は、特別に心躍る出来事ではなかった。


 これまでも外出の際には、父親に付き添う騎士が護衛を務めていた。馬車の手配や訪問先への連絡も、執事に頼めば滞りなく済んでいた。


 専属騎士がついたからといって、日々の暮らしが大きく変わるわけではない。

 せいぜい、外出のたびに顔を合わせる相手が決まった――アルテにとっての認識はその程度だった。


「何かございましたら、ご遠慮なくお申しつけください」


「分かった。……とりあえず、今後の予定の調整は、お前に任せればいいのか?」


「はい。私が手配いたします」


「そうか。では、明後日の公務から頼む」


 フェデーレはまた深々と頭を下げた。


 なんてことはない、短いやり取りだった。


 しかし、フェデーレにとっては、最初からそうではなかったようだ。


 顔を上げた彼は、目の前の青年を見つめながら、内心で激しく動揺していた。


 「(……落ち着け。俺は王族の前でさえ、ここまで心を乱したことはない。ではなぜ、これほど胸が締め付けられる? 分からない……いや、認めろ。俺は今、目の前の青年が気になっている。彼が何を考え、何を好み、どんな時に笑うのか、何もかもを知りたいと願っている)」


 フェデーレは平静を装いながら、必死に自問自答を繰り返した。


 その間も、噴水のしぶきが緑に触れるたび、色とりどりの花々が咲き乱れる――そんな情景が消えては浮かんでいった。


 彼は、自分の身に何が起きているのか理解するまでに、数秒を要した。


「フェデーレ?」


「はっ!」


 アルテの父親に名を呼ばれ、フェデーレは即座に背筋を正した。


「どうかしたか?」


「いえ。何もございません」


 騎士としての訓練はこういう時に役立つらしく、内心でどれほど嵐が吹き荒れようと、その佇まいに変化はない。


 アルテの父親は、数回の瞬きをした後で言った。


「では、これから息子のことを頼んだ。護衛にかかる費用はこちらで負担する。何かあれば執事を通して伝えてくれ」


「承知いたしました。旦那様」


 アルテはそれで話が済んだと判断したらしく、傍らに置いていた予定が書かれた書類を手に取った。



 〇 〇 〇



 王宮にある騎士団の詰所へ戻る馬車の中で、フェデーレは窓外を眺めていた。

 いつもと変わらぬ昼下がりの街並みが、民たちの声と共に流れていく。


「……はぁ」


 不意に、深い溜息が口から漏れた。


 フェデーレは考え込むように、両手で顔を覆った。

 視界を遮られた暗闇の中、応接室で交わしたアルテのほんのりと冷たい手の感触が蘇る。


 たった一度、触れただけだというのに、ひとたび灯った熱は引くことを知らず、指の隙間から覗く耳の後ろまでを真っ赤に染め上げていった。


「……アルテ、様」


 フェデーレは、口の中でその名をそっと反芻(はんすう)した。掠れた声が、ぽつりと誰に発したでもなく馬車の中に落ちる。少し遅れて付け足した敬称は、ひどく名残惜しそうだった。


 間を置いてから、フェデーレは自身の膝の上に手を置き、改まったように背筋を伸ばした。


 その顔はもう、どこも赤くなどなかった。


 次にアルテに会えるのは、明後日だ。


 むろん、明日も騎士団の任務がある。どれも重要なものばかりだ。怠るわけにはいかない。


 それでも、まぎれもなく、その日が待ち遠しい――それはもう、否定のしようのない事実だった。


 しかし、この時のフェデーレには、その気持ちを誰かに打ち明けるつもりなど、まだなかった。

【箱入り令息と騎士の初対面】

最後まで読んでくださり、ありがとうございました

気が向いたときにでもブックマークや星(☆)で応援してやってください

※すごく喜びます!



【補足】

■アルテ

前世で300年以上を生きた魔法使い 転生後は人間の貴族になった 17歳

若いが両親の仕事を手伝っている 趣味はモノ作り

フェデーレに好意を向けられているが上手く応えられない


■フェデーレ

アルテに一目惚れした王国騎士団の副騎士団長 19歳

アルテに前世の記憶があることを知っている数少ない存在

趣味はアルテのことを調べる(ストーカーはまだしていない)、日記を書く


■アルテの父親

公爵家の当主 46歳 6つ下の弟がいる

アルテに前世の記憶があることは知らない

好きなものは家族 趣味は乗馬

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