この世界では、きっと自分らの恋は報われない。
ーああ、待ってよ葵、私はまだ君に言えてないよ!
お願い、わがままだってわかってる、でも!!
隠さないでよ‼、話してよ!
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6月の最初、早めに梅雨が明け、
しっとりとし、ジメジメと続く、日本特有のいやな暑さの始まりのとき、
数少ない休日に、私は幼馴染と男友達で勉強である。
ー私、森本茜の幼馴染である、橘葵とは、
幼稚園から高校二年の今でも関係が続いている。
きっかけとしては、幼稚園の入園式で私が、キラキラしてて、きれいな葵を見つけて
そのまま手を引いて葵を家に持ち帰ろうとしたのだと。
もちろん私は全く覚えてなどいない!
ーピコン、
ふとラインから連絡が届く
男友達の雄太からだ。
『わりい‼クラスの女子から誘われた‼
卿は勉強会パス!』
「あんにゃろー…」
こいつは最近いつもこうである。
中学校の初めの頃ぐらいに知り合い、当時世間を大きく巻き込んだゲームの話で意気投合しそれから必死に勉強して入ったのはいいが、どうも小学生のころからは下ネタを友というほどに大好きであり、
おまけに無類の女好き。
ーまあ、最近はこいつの対応にもすっかり慣れてはいるため、まあ問題はないのだが…
(まあでも、葵は落ち込むだろうなぁ…)
ーピンポーン
そんなことを考えていると、葵は早速来た。
「茜、来たよ~」
「葵~!」
私は勢いよく葵に抱きつく。
相変わらず葵からは、いい匂いがして、しかし余りに線の細い体で少しだけ心配になる。
「こらこら茜、女の子がはしたないよ~」
「フッフッフ~、よいではないかよいではないか~!!」
「そっか、雄太は今日はクラスの女の子とデートか…」
ウッ…!!
「まあ、どうせ雄太のことだし、すぐに涙声で明日あたりで『振られた~!!』て言いに来るよ」
この通り、私の幼馴染はわかりやすいぐらい、雄太のことが好きである。
特に最近はひどくお熱で、肩に触れただけで裏でひとりでニヤつき
わかりやすいぐらいに頬を赤らめている姿を見ると、やはり少し妬く。
それなのに、雄太は葵に関してはただの友人としてしか見ないから。
あんまりにも報われない恋には少しこちらも悲しくなるというものだ。
この瞬間も表面はにこにことしているが、
幼馴染歴何年だと思ってんのよ!…
「…、ヨーシ‼葵!」
あんまりにも暗い顔をする葵の手を握る。
葵は一瞬驚き、目を大きく開き、目を私の瞳に合わせる。
「今回はいっぱい勉強しよう‼、そしてあいつの順位下がってるのを見て私たちのテスト見せて『ザマァ!』て笑ってやろうよ」
「あ、茜??」
いきなりの勢いに追いつけていない葵はキョトンと鳩が豆鉄砲を受けた顔をする。
「全く、私だけじゃそんなに不満かい葵?」
私はそう言い、にやりと笑うと早速葵を上の自室に連れていく。
「そのあとに!!ゲームやって盛り上がろう‼せっかくならコイバナとかやったりね~♪」
葵はその言葉を聞き、思わず笑みを浮かべ、プハッと笑いをこぼす。
「そうしよっかな!」
ーさすがは私の幼馴染だ!そう来なくては!
それからの数時間
「葵~!この数式教えて~!!」
「茜~!この文法なんだっけ?」
ー苦手なところを教えてもらい、特異なところを教えあい。
「あー!!そこ右右‼」
「えっ!?ここかな?これでいいよね‼??」
ー久しぶりにあのころドはまりしていたゲームをした。
「いや~!!やっぱり対戦ゲーム後はファンタグレープに限るね!!氷入れたグラスに入れてさ!」
「いいや、やっぱり三ツ矢だよ。あとやっぱボトルで飲みたいな…」
「何を~!」
いつもはよく意見が一致する葵とも、これだけは一致しなかった。
「…そういえば茜さ」
「なーにぃ?」
「…最初のほうでコイバナでもしようって言ったじゃん?
……。茜はさ… 」
…プシュッ
「…雄太のこと好き?」
ーカランッ
グラスに注いだ瞬間、入れたばかりの氷が割れることがする。
「…何で??」
私は何とか内心の戸惑いを隠し、
何とか口からいろいろ飛び出したい言葉をぐっとこらえてそう絞り出す。
「…だって最近茜、めちゃくちゃきれいになってきてんじゃん。
なんとなくだよ」
ーいやいや、雄太が好きなのは君でしょう?
そんな言葉がすぐさま頭の中で組み立てられる。
「……。びっくりした。まさかそんな風にみられてたんだ‼
自分でも気づかなかったや…。でも!私は本当に違うから‼
誰があんな年がら年中女の子と付き合ってはビンタされる男に惚れるもんですか!」
そんな風に私は身振り手振りを使い、少々大げさすぎるぐらいに反応し否定する。
「…プッ!それもそうか」
葵はクスリと笑みを浮かべながら、
私の言うことを信じたのかホッと安心したように目元を緩め和やかな笑みを浮かべる。
やれやれ、
そんなわかりやすいが過ぎる葵さんは、きっと私のことに関してはそんな顔は見せないんでしょうねー!
「全くもう…」
まさかそんなことを考えられていたとは…。
さすがの私でも気づかなかったことで驚きと同時に少し葵に呆れる。
それと同時に、私はもう吹っ切れた。
ーこの機会を使い、葵から雄太への思いを聞き出す‼
答えが決まりきったことだが、葵はそんなコイバナとかの雰囲気は一切漂わせない。
共通の友人に話すのは少し気まずいとかあるかもしれないが、知るか!
こちらとしてははっきりさせてほしいこの頃であるんだからー!
「あっ!そろそろ六時じゃん、ごめん茜!そろそろ帰るわ」
ーへっ??
そんな突然ここまできといて帰るだとと、張り付いた笑顔が戻らなくても、葵はそれに気づかずにせっせと帰りの支度を整える。
「ー葵、ありがと今日はすっごく楽しかった」
え…と…。
やばいこんな時って…。
「また次の休みもさ、一緒に勉強しよう」
そういい扉のドアノブに手をかけ葵はゆっくり振り向く。
やさしさと、何処か暖かみを孕んだ瞳は、私に安心感でなく、心を乱すヒンヤリとした緊迫感を感じさせる。
体から一気に熱が引いていく感覚は嫌いだ。自分が動揺していることをいやというほどに自覚させられるこの感覚。
体感20秒ぐらいに感じれるその時間。
「、、もちろん!当たり前じゃんか!むしろいつでもオーケー!」
いつものように自慢の笑みを向け、親指を立てて葵に向ける。
「アハハ、バイバイ茜、また学校で~」
ーガチャ
扉は無情にも閉まり、部屋にぽつりと、私を一人ぼっちにする。
まあ、でも別にいいのだ。
今日聞けなくとも、明日聞ける。
明日聞けなくとも、明後日がある。
別にすぐでなくてもいい…
…本当に??
私の思い込みなら?)(別に葵が雄太を好きだなんて私には関係なくない⁇)(雄太は何やかんや優しいし、万が一ダメでも)(葵はいつもいつもこういう大切な話は私にしてくれない)(どーせ聞いても逸らされるだけ)(前も好きな人がいた時も結局私に話してくれなかった)(葵はしっかり者だから大丈夫、別に私が介入する必要はない。)(もしも葵が本当は私が雄太のこと好きだと思ってたらどうしよう)(どうして話してくれないの⁉︎どうして私を信用してないよ)(葵にとって私は信用できないんだ)(幼稚園から一緒だったのに、もしかして葵…)(雄太のこと本当は好きじゃないし私の勘違い⁇)(でもならあんなにも本人の前でデレデレしたりなんかしない‼︎)(そういえば葵は私に今まで一度も恋愛相談してくれなかったな…)(雄太は葵のことどう思ってるんだろう…)(聞いて関係悪化したらどうするの⁇)(そもそもどうして私もこんなに考えすぎているんだろう⁇)(私だって葵の気持ち聞いたら、アドバイスや手伝いとかできるつもりだし…)(人には話したくないことなんてたくさんある)(聞かないのが一番、辞めとこう)(でも葵はすぐ一人で追い込む)(何でもない何でもない…大丈夫大丈夫大丈夫…‼︎)(あーもー‼︎勝手に気になる質問だけしといて帰らないでよ)(どーせ雄太が好きだから聞いたんでしょ!?)(どうでもいい‼︎葵は大丈夫‼︎……
…葵ッ‼︎)
扉を勢いよく開け、壁にガンッと当たると少しリバウンドしてこっちに戻る前に私は階段を駆け下りる。
どうしても今じゃないと駄目なわけでない。
むしろこんな質問ならいっそ墓場まで持って行った方がましだ。
階段を駆け下りて最初に見えた葵の後ろ姿は、
すでに靴を履き終えドアノブに手を伸ばしている。
なのに、口がやけに締め付けられているかのように、声が出ない。
ーああ、くそ!
ーああ、待ってよ葵、私はまだ君に言えてないよ!
お願い、わがままだってわかってる、でも!!
隠さないでよ‼、話してよ!
「ーーーッ‼、葵‼」
ー心臓が、いまにも爆散してしまいそうな声量が出たー。
腹の奥から声を出す。ーというのはこういうことだと思った。
あんまりにも大げさすぎるほど出して、のどが痛いぐらいだ。
そのおかげか、葵はキョトンとした顔でこちらを振り向くと、すぐに心配そうな顔を私に見せる。
「あ、茜?どうしたの、なんか忘れ物」
葵は、息することすらも忘れている私に気を使っているのか。
普段よりもゆっくりと話しかける。
ー大きく息を吸う。
頭が混乱し、ちゃんと言いたいことを、しっかり伝えれるかが、灰を冷たく感じさせるほどに怖い。
でもー。
「葵、雄太のことが好きなの?」
その瞬間私に先ほど向けてくれた優しい笑みが消え、何かに怯えた様に目を見開きこちらを見る。
その目は答えを物語るには十分だ。
何だか私が恐ろしい対象物にでもなった様な気持ちである。
ああ…でもそうか、そりゃそうか…最悪この親友関係がバラバラになってしまうのかもしれないんだから…。
「…、どうして、そう思ったの?茜はー、」
帰ってきた言葉は、予想外の言葉だ。
答えすら帰ってこず。その場で逃げられるのも覚悟してたし、
何なら葵ならば、いきなりどうしたの?とかすっとぼけることもできただろうにー。
でも私の覚悟もまた決まっている。
「………知ってた、からかな…」
そう言うと、葵は更に大きく目を開き、今にも信じられないと言いたげに私を見る。
「…葵はさ、実は雄太の話してる時、ニヤついてたり、なんか私から見て、雄太が好きだって気持ちが溢れてるんだよね、話の内容もどこか照れてたりさ…」
「何でー‼」
突如、葵は大きい声を出す。とても葵からは出るとは思えないほどの声量に、私は思わず体をビクッと震わす。
「だって…‼‼、俺はぁ‼」
ー葵は力強く、自分の胸をたたく
「男の俺がぁッ‼男の雄太を好きなんだぞぉ!?」
葵の勢いはすさまじかった。言い終えるとふらふらと玄関で座り込む。
「…どう考えても、おかしいだろ‼男が同姓好きなんてさぁ…」
ーそうだ。葵は男の子である。
しかし私は別に
男の人が男の人を愛そうが、
女の人が女の人を愛そうが
葵以外は、
どちらでも自由だと感じていた。
しかし、私がどんなにそう思おうと、当の本人や周りにとっては別の話だ。
この反応をするだなんて、どれほど思いつめられていたのかは、私は知らない。
それでも、私は大切な幼馴染を捨てたりなんて絶対しない。
「私はね、葵、ただ君が本当に雄太が好きならさ、
ー普通に恋バナしたいだけだよ」
「…え?」
葵はゆっくりと顔を上げる。どうやら葵にとっては、私がこう言うのは意外だったらしい。
「だってさ。今は自由に恋をしてもさなにも文句ない、自由な世界なんだよ。
男の子が好きな女の子と、男の子、何が違うの葵?
ーもちろん絶対その恋が叶うだなんて言えない。私はそんな無責任なことは言えないけどね」
私はあくまでも、葵に言うのは、雄太が好きだということに気付いたということだ。
本当は、
ーー葵の恋愛対象は、男性なんだとも、
とっくの前から気づいてた……。
何となく、葵が目で追いかけているのは男子ばっかりだったし、
この前部屋に行った時に落ちてたファッション雑誌は
葵は「洋服何しようかな〜って」と言ったけど
どう見ても葵の好みではないファッション雑誌もあった。
「…因みにさ、葵は男の子も女の子も好きなの?」
そういうと葵はゆっくり首を横に振る。
「…………男の子?」
そう言い、葵は少し固まるが、
今度はゆっくりと小さく
首を縦に、一振りした。
「私は、葵が雄太を好きであれ、男の子が好きであれ、私は葵を応援するし、嫌悪なんかしないよ…」
そういうと葵はチラリとだけ私を見る
私はゆっくり慎重に、歩み寄ると、
そっと葵の手を握る。
「雄太が好きなの?葵?」
葵は改めて、私の瞳を覗き込む。
その瞳には涙をため込んでいる。
…うん
僕は雄太が好き」
ああ……………
ああーやっと言ってくれた。
やっと確認できた。
葵はその瞬間、啖呵を切った様に涙を流しその場で崩れる。
「こ”め”ん”‼︎ごわがったッ‼︎茜ッ‼︎……あ”り”がと”う”、、、
…ちゃんと、見て”く”れて、聞いて”くれて…ッ‼︎」
私はそのまま、同じ様に、葵の元にしゃがみ込み、
ずっとずっとー
涙が枯れるまで背中を撫でた。
その時は、
やけに頭がはっきりとした様な
ぼんやりした様な…
あまりにも矛盾がすぎた気持ちを抱えた。
ーーー
「ありがとう茜、ごめんね
思い切り泣いちゃって…恥ずかしいや…」
葵は泣き止むと
少し恥ずかしそうに笑いながらそう言った。
「ううん、だって幼稚園からの仲でしょ?
こんぐらい大丈夫大丈夫!」
そう言うと私は笑顔でグットサインを立てる。
葵はフフっと笑いながら玄関のドアを開けて
手を振る。
「バイバイ、茜」
「バイバイ、葵」
そう言い葵は家を出て、ドアはバタンと大きな音を出しながらゆっくりしまった。
そして私は、ゆっくりと部屋に戻ると、何故今思い出したかわからないが、一つの大きなぬいぐるみを一回の押し入れから取り出す、とっても大きなペンギンのぬいぐるみ、
枕の様に使えるが何だか可哀想だし、
ベッドに乗せても
結局は落ちてしまうから、
押し入れに入れていたが、取り出してしまった。
このぬいぐるみは
高一の頃に、私と葵と雄太での三人で、
ゲームセンターに行った時に
クレーンゲームで葵がとって、私にくれたものだ。
葵はクレーンゲームで取ったのはいい物の、
「可愛いから取ったけど、
部屋にスペースなかったわ」と言い、
私も雄太も欲しがった。
きっとその頃から
葵は雄太の事が好きだったであろうに、
それでも
誕生日が近いからという理由で、
葵は私にくれた。
何となくの気まぐれかなんかだと思うが、私はそれがとにかく嬉しかった。
勘違いだとはわかっているが
葵が私に特別扱いしてくれた気がした。
そう、葵は本当に優しい。
小学校高学年になって周りの男子から付き合っているんだと揶揄われたが、正直どこか嬉しかった。
そんな時になってようやく私は自分が葵をただのー
ー幼馴染
ー親友
として見ていないと勘づいたが、気付かないふりした。
しかし、運命というのは残酷で、
細くて白くも、その裏でしっかりついている筋肉の付き方。
失恋して泣いているときにそっとそばに座って慰めてくれるそのやさしさー。
ーああ、なぁんだ。
何もかも簡単な話だったのだ。
私が彼が本当に雄太が好きなのか確認したかったのも、
異様に彼と一緒にいる時間が早く感じたのも全部全部そうだったんだー。
私は
ぽつりと一言一言、噛みしめるように言う。
「私は…
私って、葵が好きなんだ……。」
その瞬間だ。一気に啖呵を切ったように涙があふれ始める。
「ウ…!ウゥ…ウワァ…‼」
最初はうめき声のようだった鳴き声は、だんだんとはっきりと感情をむき出しにしていく。
「アァ……、ウわあああぁん…‼」
何度も涙を止めようとしているのに、ずっとあふれてくる。
あらためて思い知る。
ー覚悟はしてた。していたけれど…!!
こんなにも辛いというものなのだ。失恋というものは、
叶えたかった。それぐらい本気で葵が好きだ。
いやだよぉ…。いやだよぉぉ…‼
少なくとも、私の初恋を、こんな形では終わらせたくはなかった!
でも…もう叶う事は無いッ‼︎
彼が本心から私を好きになってくれる日は来ない‼︎
葵が雄太を好きなる以前に
葵は女で無く、男が好きなんだ‼︎
私から葵への想いというのは、初恋なのだろうか
初恋なんだろうな…
もう二度と、この恋は決して叶いはしないと自覚する瞬間
人はどうやって立ち上がるのだろう…。
いっそ、この恋なんてなかったことにしてよ。
そしたらちゃんと幼馴染を純な心で応援できたのに…。
ねえ葵…。
いつか私たちが大きくなったらこの恋を笑ってしまう大人になってしまうのかな。
絶対いやだな…。こっちは今こんなにも辛いのに、新しい恋する自分なんて考えたくなんかないよ。
ああ、でも、
ーいつかは言うんだろうな。
私は、橘葵が好きだった。
ねえ葵、ごめんね。こんなこと今考えるべきじゃないとは思ってるよ。けどね。
雄太は女の子が好きー
葵は男の子が好きー
私は葵が好きー。
だからきっと…
きっと、
君も、私も…
きっと私たちの恋は、報われないー。
ー失恋少女。
もしも将来、他に好きな人ができるとしても、似たような経験した人とかにしか、
なびかなさそうでしょうねー。




