表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

エピローグ 幸せのかたち



 ──それから、半年後。


「リーナ、今日の分だ」


「ありがとう、アルヴィン。棚に並べておいてくれる?」


「ああ」


 アルヴィンが運んできたのは、森の奥で採れた希少薬草の束だ。

 彼は竜騎士団長の職務と並行して、「辺境薬草資源調査」という名目で定期的にミレーヌの森に滞在している。


 もちろん、本当の目的は別にある。


「いってらっしゃい、のキスは?」

「ないです」

「……」

「……ぷっ、冗談ですよ」


 頬にそっと唇を寄せると、アルヴィンの耳が真っ赤になった。

 半年経っても、この人のこういうところは変わらない。可愛い。


「きゅう♪」


 フィルが私の肩の上でご満悦だ。


 ◇ ◇ ◇


 小屋は、もう「小屋」とは呼べないくらい大きくなっていた。


 アルヴィンが王都から職人を呼んで増築してくれたのだ。

 調合室は以前の三倍の広さになり、薬草の保管庫も完備。

 ルーンベルの町からの依頼が増え続けているから、設備の拡充は助かる。


「リーナさん、今月の納品分です!」


「ありがとう、クレア。……最近、依頼が増えたわね」


「当然よ! 『森の薬師リーナ』の名前は、もう周辺の町にも広まってるんだから。隣の領地からも問い合わせが来てるわ」


 宮廷を追放された薬師が、辺境で名を上げる。

 皮肉な話だけれど──これが、私の選んだ道だ。


「あ、それとね。王都から手紙が来てたわ」


「王都?」


 クレアから受け取った手紙には、王弟殿下の署名があった。


 ──リーナ・フェルト殿。このたび、貴殿の功績を讃え、王国特別薬師の称号を授与する。宮廷薬師団への復帰は求めないが、有事の際には協力を仰ぎたい。また、辺境における薬草研究および医療活動への支援金として、年間金貨五百枚を拠出する。


「金貨五百枚!?」


「すごいじゃない、リーナさん!」


「いや、これは……多すぎるでしょう……」


 王国特別薬師。宮廷に属さず、独立した立場で活動する薬師に与えられる最高の称号。

 これがあれば、薬草の採取も研究も、王国の全面的な支援のもとで行える。


「……アルヴィンが裏で動いたわね、きっと」


「まあ、団長殿が王弟殿下と仲がいいのは有名だからねぇ」


 今度、ちゃんとお礼を言わなくちゃ。


 ◇ ◇ ◇


 午後。

 薬草園で作業をしていると、空から影が降りてきた。


 ノワールに乗ったアルヴィンだ。


「早かったわね。巡回はもう終わり?」


「ああ。異常なしだ」


 ノワールが空き地に着地すると、精霊獣たちが一斉に駆け寄る。


「きゅう♪」「もきゅ♪」「ぴぃ♪」「きゅる♪」


 ノワールがふすんと鼻を鳴らし、大きな翼の下で精霊獣たちがもふもふと転がる。

 黒竜ともふもふの共存。もはや日常の風景だ。


「アルヴィン。王弟殿下から手紙が来たわ」


「そうか」


「……あなたが動いてくれたんでしょう」


「俺は事実を報告しただけだ。あんたの功績を正当に評価すべきだとな」


「ありがとう」


「礼はいらない。──それより」


 アルヴィンが、背中に隠していたものを差し出した。


 小さな木箱。中には──細い銀の指輪が入っていた。

 控えめだけれど、月の光を閉じ込めたような淡い輝きを放っている。


「これ──」


「月光石だ。この森で採れる。……あんたに似合うと思った」


 【万物鑑定】が自動的に起動する。


 ──月光石の指輪。素材:天然月光石(最高品質)、銀。加工:ルーンベルの職人による手作り。発注者が石の選定に三日かけた模様。


 三日かけて石を選んだ。


「……アルヴィン」


「……なんだ」


「鑑定しちゃった」


「……何が視えた」


「石を選ぶのに三日かけたって」


「…………鑑定禁止だ」


 真っ赤になったアルヴィンが顔を背ける。


 ──ああ、もう。好き。大好き。


「ありがとう。大切にする」


 指輪をはめると、ぴったりだった。


「きゅうー!!」


 フィルが歓喜の声を上げ、精霊獣たちが私の周りでお祝いのダンスを始めた。

 ノワールまで翼をばさばさ振っている。


「……騒がしいな」


「嬉しいのよ、みんな」


「……俺もだ」


 ぼそっと言ったアルヴィンの手を、そっと握り返す。


 ◇ ◇ ◇


 夕暮れの森。


 小屋の前のベンチに並んで座り、沈む夕日を眺める。


 フィルが私の膝の上で丸くなり、ルルがアルヴィンの足元で眠っている。

 ソラが屋根の上で夕暮れの歌を歌い、ミドが庭の石の上でひなたぼっこをしている。

 ノワールは森の木にもたれて、大きなあくびをした。


「ねぇ、アルヴィン」


「ん」


「追放されたとき、正直に言うと──悔しかった。五年間頑張ってきたのに、スキルだけで全部否定されたのが」


「……ああ」


「でも、今は思うの。あの追放がなかったら、この森には来なかった。フィルにもルルにも出会えなかった。この町の人たちとも──」


 アルヴィンの顔を見上げる。


「──あなたにも」


「……」


 アルヴィンの腕が、そっと私の肩に回された。


「だから──ハズレスキルで追放されて、よかった」


「ハズレじゃない。何度でも言うが、あんたのスキルは──」


「わかってる。でもね、もし本当にハズレだったとしても──今の私は幸せよ」


 アルヴィンが何か言いかけて、口を閉じた。

 そして──ゆっくりと、私の額に唇を寄せた。


「……俺もだ」


「きゅう♪」


 フィルが寝ぼけまなこで、小さく鳴いた。


 夕日が森を黄金色に染めている。

 もふもふたちの温もりと、隣にいる人の温もりと。


 ──これが、私の幸せのかたち。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ