表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―  作者: 七転び八起き


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/29

第26話 目標達成

 私は急いで家に帰り、遅い時間にも関わらず、和室で茶道のお手前を一人でしていた。

 河内さんはそんな私の姿をじっと見ている。

 今日は何も聞かれない。


 一つ一つの動作に集中し、余計なことを考えず、自分の心を整える。

 立てた茶を自分で飲んで、一息ついた。


「落ち着いたか?」


「はい。ご心配おかけして申し訳ありません」


 何かあったのなんて丸わかりだ。

 何も問い詰めないでいてくれてるのがありがたかった。


 河内さんは優しく抱きしめてくれた。


「不安にさせてごめんなさい」


「……無理するなよ」


 無理して続ける必要はない。

 転職すればいいだけ。

 でも私は逃げたくなかった。

 私自身でこのことを解決したかった。

 転職してまた同じようなことがあるかもしれない。

 なら、これは試練なんだ。


 私が何があってもこの人との関係を守り抜く。


 河内さんの腕の中でその日は眠った。


 * * *


 次の日の朝、母から連絡があった。


「お母さんどうしたの?」


「突然だけど、次の週末、お父さんと一緒にそっちに行くから」


 なぜ?


「何かあったの?」


「河内さんに会いたいの」


 え!?


「会ってどうするの……?」


「お話ししたいことがあるの」


 なんだろう……。


「わかった。予定空いてるか聞いてみるよ」


 その後電話を切って、既に出社している河内さんにメッセージを送って相談した。

 そしたらすぐに「わかった」と返信があった。


 そして私も会社に行った。

 オフィスに着くと秋月さんは体調が戻っているように感じた。

 何事もなかったかのようにお互い仕事をしていた。


 業務が終了して、エレベーターを降りようとした時、ふと秋月さんの声が聞こえた。

 誰もいない打ち合わせスペースに、秋月さんと女性社員がいた。


「秋月さんのことが好きです」


 突然出てきた言葉にびっくりした。

 こんなところで告白するなんて……。

 でも彼女は真剣だ。

 何を考えているのか読めない秋月さんの表情。


「ごめん。好きな人いるから応えられない」


 好きな人って……。

 胸がざわつく。


 その女性社員はすぐに立ち去った。

 私もそっとその場を離れようとした、その時——


「見えてたよ。藤田さん」


 後ろから声をかけられた。

 最悪だ……。


「すみません、声が聞こえて気になって」


 ゆっくりと秋月さんが近づいてきた。


「私もう帰ります。失礼しました!」


 私が立ち去ろうとすると——


「俺の気持ちわかってるよね」


 秋月さんの言葉に体が動けなくなった。


「別に付き合ってほしいとか、そんなんじゃない。でも……」


 私の目の前まできた秋月さんの瞳に憂いが見える。


「ただ知っていてほしかった」


 そのまま秋月さんは行ってしまった。


 その背中はどこか寂しげだった。


 ◇


 週末、駅で両親と待ち合わせしていた。

 私は河内さんと両親を待っていた。

 すると、見覚えがある二人の姿が見えてきた。

 数年ぶりに見た両親は、時の流れを感じさせる姿に見えた。


「河内さん、本日はありがとうございます」


 両親は河内さんに深々と頭を下げた。


「初めまして、河内です。近々こちらから優美さんを連れてお会いしようと思ってました」


 両親がキョトンとしている。

 両親には、あの職場を辞めたことも北海道に行ったことも、河内さんと暮らしていることも何一つ言ってなかった。


「河内さん、一緒に行くってどういうことですか?」


 私はコソコソ聞いた。


「そのままの意味だ」


 その後、両親を含めレストランに行った。

 見晴らしのいいレストランで、河内さんが予約した場所だった。


「お父さん、お母さん、話って何?」


 両親は顔を見合わせて頷いた。


「残りの借金のお金、全部揃ったんだよ」


 それを聞いた瞬間、頭が真っ白になった。

 それを返すために私は何年もの間、ただただ仕事をこなしていた。

 父の会社が倒産したから、私が頑張らないとって。

 いつの間に……?


「今度、残債を全額振り込ませて頂きます。本当にありがとうございました」


 深々と河内さんに頭を下げる両親。


「いえ、逆にその借金に救われました」


 また両親はキョトンとしている。

 確かに突然言われたら意味がわからない。


「あの……優美と河内さんはどういうご関係で……?」


 お母さんが尋ねた。

 私が何か言おうとした時、河内さんが遮った。


「僕は優美さんと結婚したいと思ってます」


 私も両親もびっくりして固まった。

 目的を果たした河内さんの顔は生き生きとしている。

 私、まだ返事をしていないのに。


「そんな……優美は頑張るしか取り柄がない子で……」


 お母さんが動揺して口走る。

 私もそう思ってるけど。


「そういうところに惹かれました」


 河内さんの瞳はとても優しい。


「優美、今も河内さんの部下なのか?」


 お父さんが小声で聞いてくる。


「えっと……」


「ちゃんとお伝えしてませんでしたが、僕は会社の代表取締役です」


 また両親が唖然としている。


「あの……上司じゃなくて、あの時河内さんは副社長だったの。びっくりすると思って言えなかったの」


「そうなんですか……」


 父はたじろいでいる。


「私たちは優美に散々苦労をかけたので、もう自由にさせたいと思ってます。

 優美が河内さんと一緒になりたいなら、ただ見守ります」


「優美は河内さんにお返事したの?」


 お母さんが聞く。


「実はまだ……」


「僕は待つので、大丈夫です」


 河内さんの目は真っ直ぐだった。

 その後、両親は河内さんにまた頭を下げた。


「優美を宜しくお願いします」


「はい、幸せにします。絶対に」


 外堀は埋められてしまった。


 私は突然の展開に頭がついていけなかった。

 借金完済、正式に両親の前でプロポーズ。

 もう意地を張る理由もなくなった。


 車の中で上機嫌な河内さんは私に尋ねる。


「優美の目標と、俺の目標が同時に達成できた日だ」


「はい……借金がやっと返せました……」


 車は人気がない場所に停められた。


「で、返事は?」


 ここまで外堀を埋められて、返事も何も!

 でも——


「はい、河内さんと結婚します」


 やっと、なんの後ろめたさもなく、言えた言葉だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ