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あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―  作者: 七転び八起き


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第18話 再会

 ──三年後


 私は、北海道に住んでいる。

 不動産会社で事務員として働いている。


「藤田さん、この契約書の件で確認があるんですが」


「はい、すぐに確認いたします」


 頼まれた資料を手際よく整理する。

 この三年で、私は変わった。

 自分の意見をちゃんと言えるようになったし、仕事でも評価してもらえている。


「藤田さんって、しっかりしてるよね。頼りになる」


 上司にそう言われるたび、少しずつ自信がついてきた。


 でも――

 心の奥には、いつも罪悪感があった。


 河内さんを一人にして逃げた自分への自責の念。

 そして、河内さんへの申し訳なさ。


 * * *


 仕事を終えて家に帰る途中、ATMで通帳記入をした。

 今月の給料が入っている。

 私はそこから数万を別の口座に振り込んだ。


 借金の返済。

 三年間、一度も欠かしたことがない。

 これが私と河内さんを繋ぐものだった。


 河内さんは元気でいるだろうか。

 会社はうまくいっているだろうか。

 私のせいで、何か困ったことになっていないだろうか。


 毎日毎日、そんなことばかり考えていた。


 * * *


 週に一度だけ、茶道教室に通っている。


「藤田さん、お点前がとても上達されましたね」


「ありがとうございます」


 河内さんが教えてくれた茶道。

 あの時の彼の手つき、優しい眼差し。

 すべてが遠い記憶のようで、でもとても鮮明に残っている。


 茶碗を手に取るたび、あの人の温もりを思い出す。

 着物を着るたび、あの日河内さんがくれた着物を思い出す。


 私は河内さんと過ごした時間を、どこかで繋ぎ止めていたかった。

 あの人への想いを、消したくなかった。


 だからこそ、北海道を選んだ。

 あの雪の夜、「二人でどこかで暮らさないか」と言ってくれた場所。

 その答えを、一人で探していた。


 * * *


 帰り道、夕暮れの商店街を歩く。


 この町の人たちは優しい。

 誰も私の過去を知らないし、詮索もしない。

 ただ「藤田さん」として接してくれる。

 それがありがたかった。


 信号で足を止める。

 向こうから子供を連れた夫婦が歩いてくる。

 幸せそうな笑顔。

 私も、もしかしたら……。

 もし河内さんと一緒にいられたら、こんな未来もあったのかもしれない。

 でも今更、そんなことを考えても意味がない。


 私は河内さんを裏切って逃げた。

 もう戻れない道を選んでしまった。


 それでも――


「河内さん……」


 名前を呟くだけで、胸が苦しくなる。

 愛してる。

 今でも、ずっと。


「優美」


 突然、名前を呼ばれた。

 その声に心臓が止まりそうになる。

 知っている声。

 忘れるはずもない声。

 恐る恐る振り返る。


 そこに立っていたのは――


 河内さんだった。


 前よりさらに鋭さを増した彼が、私を真っ直ぐ見つめている。

 スーツも、身のこなしも、すべてが以前より洗練されていた。

 でも、その瞳だけは変わらない。


 いや……変わっている。


「河内さん……」


 その瞳は私をまるで憎んでいるかのような、でも愛情も感じられるものだった。


「やっと……見つけた」


 私は立ち尽くしていた。

 その時通りすがった自転車に軽くぶつかって転びそうになった。

 河内さんに受け止められた。

 バッグから帛紗入れが落ちた。


「……茶道続けているのか」


 低い声に体が強張った。


「三年間……ずっと探していた」


 私を受け止めた手に力が込められている。


「なぜ……なぜ俺に何も言わずに消えた」


 その声には怒りと悲しみが混じっていた。


「どれだけ……どれだけ心配したと思っている」


 私は何も答えられない。

 答える資格がない。

 私がこの人を傷つけたんだ。


「河内さん……」


 やっと声が出た。


「もう……社長になられたんですね」


 河内さんの表情が一瞬緩んだ。

 でもすぐにまた険しくなる。


「そんなことはどうでもいい」


「俺にとって大事なのは……」


 人目も憚らず、私はそのまま河内さんに抱きしめられた。


「お前だけだ」


 商店街の夕暮れの中、時が止まったようだった。

 私たちの間に流れる三年という時間。

 それでも変わらない、この人の想い。

 そして……変わらない私の気持ち。


 でも、私にはもう、この人の隣にいる資格があるのだろうか。

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