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あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―  作者: 七転び八起き


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14/29

第14話 閉ざされた夜

 翌週、出張で向かった北海道は、予想以上の大雪だった。


「こんな天気になるなんて……」


 空港のロビーで、私は不安そうに外を見つめていた。

 外は一面真っ白だ。

 河内さんはスマホで何かを確認していたけれど、いつもと様子が違う。

 今朝からなんとなくおかしかった。


「河内さん、大丈夫ですか?」


「……ああ」


 やっぱりいつもと違う。

 案内板を見ると、「運休」「欠航」の文字が並んでいる。


「これじゃあ、他の交通機関も麻痺してますよね……」


「車を借りる」


 河内さんはそう言って立ち上がった。


「え?こんな大雪なのに行くんですか?」


「他に方法がないだろう」


 レンタカーカウンターに向かう河内さんの背中を見ながら、私は首をかしげた。

 なんだろう、この違和感……。


 * * *


 レンタカーに乗り込むと、外の雪はさらに激しくなっていた。


「大丈夫でしょうか……こんな雪の中」


「なんとかなる」


 普段なら運転中も仕事の話をしたり、私の体調を気にかけたりするのに、今日は黙ったまま。


「河内さん……何か心配事でもあるんですか?」


「……何でもない」


 でも、ハンドルを握る手に力が入ってるのが分かった。

 私は助手席で小さくなりながら、河内さんの横顔をちらちら見ていた。

 いつもより険しい表情をしている。

 出張の件で何か問題でもあったのかな……。


 その時、前方に赤いランプが見えた。


「あ……」


 道路に警察官が立っていて、手を上げて車を止めようとしている。


「申し訳ございません。この先通行止めになってます」


 警察官が窓越しに説明してくれた。


「雪崩の危険があるため、復旧のめどは立っておりません。今夜は近くの宿泊施設をご利用ください」


 河内さんは黙って頷いた。


「近くに宿はあるんですか?」


 私が尋ねると、警察官は苦笑いを浮かべた。


「実は……今日は他の観光客の方々も同じ状況でして。大きなホテルはすべて満室なんです。古い温泉旅館が一軒だけ空いてると思うんですが……」


 地図を見せながら説明してくれた場所は、ここから車で20分ほどの場所にある小さな旅館だった。


「そこしかないのか……」


 河内さんは渋い顔をしている。


「仕方ないですね……車中泊するわけにもいきませんし、そこに泊まりましょう!」


 車をUターンさせながら、河内さんはポツリと言った。


「むしろ……こういうのも悪くないかもしれない」


 え?

 いつもの河内さんなら、予定が狂うことを嫌がりそうなのに。

 やっぱり今日は何かが違う……。


 * * *


 目的地には、確かに古びた温泉旅館があった。

 建物は年季が入っているけれど、手入れが行き届いていて風情がある。


「思ったより……素敵なところですね」


 私がそう言うと、河内さんは少し穏やかな表情をした。


「そうだな」


 玄関で靴を脱いで中に入ると、温泉の香りがした。


「いらっしゃいませ」


 女将さんが出迎えてくれた。六十代くらいの、優しそうな人だった。


「今日は大変でしたね。お部屋はお二人でよろしいですか?」


「あ、いえ……別々で」


 私が慌てて言うと、女将さんは困った顔をした。


「申し訳ございません。今日は他のお客様もいらしてまして……空いてるお部屋が和室一間だけなんです」


 河内さんと私は顔を見合わせた。


「布団は二組ご用意いたします。ご不便をおかけしますが……」


「それで構いません」


 河内さんがきっぱりと答えた。

 私の心臓が跳ねた。

 一部屋……二人きり……。


 * * *


「こちらがお部屋になります」


 案内された和室は八畳ほどの落ち着いた部屋だった。

 窓からは雪景色が見えて、静かで穏やかな雰囲気。


「お夕食は六時からご用意いたします。温泉は二十四時間ご利用いただけますので、ゆっくりお寛ぎください」


 女将さんが去った後、部屋には静寂が流れた。


「えーっと……」


 私は荷物を置きながら、なんとなくそわそわしていた。

 家で一緒になることはあるけど、そうじゃない場所だと落ち着かない。

 河内さんは窓際に座って、外の雪景色をじっと見ている。

 相変わらず考え事をしている。


「河内さん、温泉入りませんか?疲れも取れるし……」


「ああ、そうだな」


 河内さんは立ち上がったけれど、やっぱり上の空だった。

 温泉は男女別で、私たちはそれぞれ別々に入った。

 温泉に浸かりながら、私は今日の河内さんの様子を思い返していた。


 朝からずっと何かを考え込んでいるような……。

 仕事のことかな?

 それとも別の何か?


 温泉から上がって部屋に戻ると、河内さんはもう浴衣に着替えて座っていた。


 * * *


 夕食は部屋に運ばれてきた。

 お膳を前に、私たちは向かい合って座った。


「美味しそうですね」


「ああ」


 河内さんは箸を取ったけれど、やっぱり元気がない。

 いつもなら「体に気をつけろ」とか「ちゃんと食べろ」とか言ってくれるのに、今日は黙々と食べている。


「河内さん……」


「なんだ?」


「本当に大丈夫ですか?今日一日、ずっと様子がおかしくて……」


 河内さんの箸が止まった。

 しばらく沈黙が続いて、やがて小さくため息をついた。


「……少し、考え事があるだけだ」


「仕事のことですか?」


「まあ、そんなところだ」


 曖昧な答えだった。

 でも、これ以上聞くのも悪い気がして、私はそれ以上追求しなかった。

 外では相変わらず雪が降り続いている。


「……こういうのも悪くないな」


 河内さんがふと呟いた。


「え?」


「こんな静かな場所で、お前と二人で過ごすのも」


 その言葉に、胸がぎゅっとなった。


 * * *


 食事を終えると、女将さんが布団を敷いてくれた。

 二組の布団が並んで敷かれている様子を見て、私はまた心臓がドキドキした。


「ありがとうございます」


 女将さんが去った後、部屋にはまた静寂が戻った。

 私は浴衣の裾を気にしながら、布団の端に腰を下ろした。

 河内さんは窓際に座ったまま、外を見ている。


「まだ降ってますね、雪」


「ああ……明日の朝まで続きそうだ」


「もしかして、明日の予定も変更になるかもしれませんね」


 河内さんは振り返って私を見た。


「それでも構わない」


「え?」


「優美」


 河内さんが急に私の名前を呼んだ。


「はい」


 河内さんは立ち上がって、私の前に座った。

 いつもより真剣な表情をしている。


「お前に……聞きたいことがある」


「何でしょうか?」


 河内さんは少し迷うような表情を見せた。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「優美、二人でどこかで暮らさないか」

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