表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―  作者: 七転び八起き


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/29

第12話 お金と恋愛

「今日で辞めさせてください」


 仕事が終わった後、私はラウンジの奥の事務所で頭を下げた。

 ママが手を止めて私を見つめる。


「あら、戻ってきたばかりなのに?」


「はい。申し訳ありません」


「あの指名客はどうするの?せっかく付いてくれたのに」


 ママはじっと私の表情を見つめてくる。


「……まさか、あの男と本格的になったの?」


 ヤバい……!顔に出てるのかな……。


「それは……」


「まあいいわ。でも借金はどうするつもり?」


「必ず返します。別の方法で」


 ママは少し考えてから、優しく微笑んだ。


「本当の笑顔が出せる場所を見つけなさい」


「はい、ありがとうございました。本当に、お世話になりました」


 * * *


 事務所を出ると、夜の冷たい空気が頬を撫でた。

 胸の奥に不安と安堵が入り混じる。

 これで本当に、あの世界とは決別だ。


「あれ?“さくら”さん」


 振り返ると、佐久間さんが立っていた。


「佐久間さん……」


「今日は来なかったから心配してたんだ。体調でも悪いのかと思って」


 その優しい気遣いに、胸が温かくなった。


「実は……今日で辞めることにしたんです」


「そうなんだ。残念だな」


 佐久間さんは少し寂しそうな顔をした。


「さくらさんは接客向いてると思うよ」


「え?」


 接客なんて逆に自分には合わないと思っていた。


「買い被りすぎですよ」


「俺はさくらさんと話してる時が一番落ち着く」


「ありがとうございます……そんな風に言ってもらえたの、初めてです」


「本当のことだよ。じゃあね」


 佐久間さんは優しい笑顔で去って行って、私はその背中を見送った。

 借金のために仕方なくやっていたラウンジの仕事。

 頑張ってやってよかったと、この時初めて思えた。


 その時、突然肩を掴まれた。

 振り返るより先に低い声が響く。


「あの男は誰だ」


 河内さんだった。

 視線が佐久間さんが去った方向に向けられている。


「前のお客さんと少しお話をしてたんです」


「何を?」


「私、接客に向いてるって言われました」


 みるみる河内さんの表情が険しくなった。


「愛想笑いだけで釣れるのか。安い客だな」


 その瞬間、私の中で何かが弾けた。


「河内さんも大して変わりませんよ」


 河内さんが驚いた表情を浮かべる。


「……言うようになったな」


「河内さん、私、別の接客の仕事を探してみようかと思います」


 河内さんの顔がまた曇った。


「またか……」


 深いため息をついている。


「今の給与からでいいだろう……なぜそこまで」


「早く借金を返したいんです。自分の力で」


「そんなに俺と縁を切りたいのか」


「意味がわからないです」


 私は河内さんの目を真っ直ぐ見つめた。


「お金と恋愛は別です」


 河内さんは黙り込んでしまった。


 * * *


 それから私たちは河内さんのマンションに向かった。

 車の中でも、河内さんは相変わらず暗い表情をしていた。

 部屋に着いても、その表情は変わらない。


「どうしたんですか?」


「俺から自由になりたいんだろう」


「え??」


 どうしてそう考えてしまうんだろう。


「私は河内さんと縁を切りたいんじゃありません」


 河内さんが私を見る。


「河内さんと対等でありたいんです」


「対等?」


「守られて甘やかされるだけじゃ嫌なんです」


 私は必死に言葉を探した。


「お金に頼らない、ちゃんとした恋愛がしたいんです」


 河内さんの表情が少しずつ和らいできた。


「……わかった」


 やっと納得してもらえた。


「ただし、副業は禁止だ。会社の規則でも決まっている」


「はい。わかりました」


 お互いがやっと歩み寄れた気がする。

 でも……河内さんの表情はまだ僅かに曇っている。


「河内さん、まだ不安なんですか?」


 ──何も答えてくれない。


 私は河内さんの前に立った。


「……河内さん」


「なんだ」


「あなたは知らないんです。だから教えてあげます」


 河内さんを抱きしめた。


「私がどのくらいあなたのことを想っているか」


 私は部屋の電気を消した――。


「優美……もう無理……」


 溢れ出た河内さんの言葉で、愛しさでいっぱいになった。


 月の綺麗な夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ