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あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―  作者: 七転び八起き


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第10話 逃げられない

 まさか河内さんがここにまた来るとは思わなかった……。


 思わず目を逸らしてしまった。

 そして、ゆっくり隣に座った。


「なんでここにいる」


 いつもに増して低音な声だった。


「早く借金を返そうと思いまして……」


 気まずい沈黙が流れた。


「俺とそんなに別れたいのか?」


 そういうわけじゃない。

 だけど、不釣り合いで、将来が見えないこの関係が苦しい。


「私はただ借金をちゃんと返したいんです。せめて普通のOLになりたいんです」


 この人に守られるだけじゃなく、自分でどうにかしたいんだ。

 じゃないと対等じゃない。


「頑固だな……」


 河内さんは呆れていた。


「じゃあ……好きにすればいい。だが……」


 怪しげな瞳をしている。


「俺の専属にする」


「え!?」


 それじゃ……退職する意味がなくなる!

 どうしよう、ここをやめようかな……。

 でも出戻ったばかりだし、この人なら次の店も来て同じことをしそう……。

 結局どこに行っても追いかけてくるかもしれない。


「なんでこんな何も持たない女に執着するんですか……?」


 河内さんに睨まれた。

 私は蛇に睨まれた蛙になった。


「逃げるからだ。それに……」


 河内さんの手が私の手に触れた。


「本気で好きになったからだよ」


 ──涙が溢れそうになったのを必死に堪えた。


「お前も俺を好きだと言っただろ。あれは嘘だったのか?」


 なんで離れたいのに引き寄せられてしまうのだろう。


「嘘じゃないですよ」


「じゃあ戻ってこい」


「無理です」


「は?」


「出戻ったばかりで直ぐに辞められません。お店に迷惑かけたくないです。あと借金はちゃんと返したいんです」


 河内さんから戸惑いと怒りを感じる。


「堂々巡りだな……ならわからせてやる」


 河内さんは立ち上がった。


「俺から逃げられないことを」


 河内さんはそう言い残して去っていった。


 それはどういう意味……?


 不安が広がった。


 * * *


 翌日──


「副社長、こちら確認して頂きたいのですが」


 私は資料を提出した。


「ああ。これでいい」


「それと……辞表はいつ受理されるのでしょうか……」


「そんな物は知らない」


 この人は……。


 私は次の日もまた辞表を提出した。

 河内さんは受け取るけど、次の日にはそれはなかったことになる。


「もう退職代行に頼もうかな……」


 デスクで悩んだ。

 でも、仕事を投げ出したようで、それは嫌だった。

 仕事を辞めるなら、最後までちゃんとやり遂げたい。

 私は何とか受理されるまで粘ることにした。


 * * *


 ──そして夜。


 ラウンジで客につく。


「さくらさん、指名です」


 指名……嫌な予感しかしない。

 恐る恐る卓に行ったら、佐久間さんがいた。


「さくらさん、こんばんは」


 穏やかな笑顔だった。


「また来てくれたんですね。ご指名ありがとうございます」


「うん。また会いたいって思ってたから」


 う、嬉しい……!

 この仕事をやっていて初めてやりがいを感じた。


「お仕事、今もお忙しいんですか?」


「残業がない方が珍しいね……」


 そんな合間を縫って来てくれたのか……。

 他愛もない会話を佐久間さんとしている時間は、穏やかな気持ちでいられた。


 その時、黒服が近寄って来た。


「さくらさん、ご指名です」


 う……。

 もう次は確定だ。


「すみません、少し席を外します……」


「うん。待ってる」


 優しい顔だった。

 ラウンジを見渡す限り、どこにも“その人”らしき人はいない。


「VIPルームの方です」


 黒服が言った。


「え!?」


 連れていかれた先には――


 VIPルームで堂々と座っている河内さんがいた。


 ◇


 VIPルームで待つ河内さんの姿を見て、私の心は複雑だった。


 私は仕方なく隣に座った。


「もしかして、店公認で専属になったんですか?私」


「ああ。そう言った。金も払った」


 あっさりと答える河内さんに、私は深いため息をついた。


「お金の無駄ですよ……」


「お前も無駄な足掻きはやめろ」


 何もかも金で解決されてしまう。


「俺がお前を専属にして、その金でお前が稼いで、滑稽だな」


「は!?」


「そうだろ?」


 河内さんの余裕の笑み。

 私はとうとう限界を迎えた。


「あなたがどこまでもそういう手段に出るなら、私にも考えがあります……」


「何だ?」


「私、風俗嬢になります」


 河内さんが立ち上がった。


「本気で言ってるのか!?」


 本気ではない。そんなのどんなに落ちぶれてもやる気はない。


「あなたが私を金で動かそうとするなら、私もそういう方向に動きます」


 河内さんはソファに座り込んで俯いた。


「そんなに俺から離れたいのか?」


 離れたいわけじゃない。


 でも――


「この関係に未来はないじゃないですか」


 その時、河内さんに抱きしめられた。


「勝手に未来を壊すなよ……」


 壊す……?


「俺の考える間もなく勝手に判断して決めつけて……他の人間の言うことを信じて」


 河内さんの想いに胸が苦しくなる。


「ごめんなさい……でも私、自信がないです」


「自信がない?」


「あなたにずっと想ってもらえるか……」


「俺は自信がある」


 未来はわからない。

 誰にも。

 でもこの人の気持ちは信頼できる……気がする。


「それより、俺は優美が離れていく方が不安だ。だから、俺しか見えないようにさせてやる」


「はい?」


 両方の手首を掴まれた。

 ソファに倒されて唇が重なった。

 それは今までにしたようなものではなく、生々しい感覚だった。

 私は河内さんを突き放した。


「店でこんなことしてはいけません!!」


 心臓が激しく高鳴っている。


「大切にするって言ったじゃないですか!」


「大切にしたのに逃げたからだ」


 河内さんは真剣だった。

 真剣に向き合ってくれていた。

 河内さんは立ち上がった。


「今日、この仕事が終わったら家に来い」


 そのまま河内さんは去った。

 私は動揺して体が震えた。

 怖いというより、河内さんの想いの深さに震えたんだ。


 その後、佐久間さんのところに戻ろうとしたら、もう帰ってしまっていた。

 せっかく指名してくれたのに申し訳なかった。

 私は仕事が終わった後、河内さんのマンションに向かった。


 ちゃんと話し合わないといけない。


 これからのことを――。

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