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あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―  作者: 七転び八起き


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第1話 謎の男

こちらの物語を開いて頂きありがとうございます。

借金OLの藤田優美と、勤務している会社の河内副社長との王道?ラブストーリーです。

拙い文章ですが、二人の行く末を見守って頂ければと思います。

この作品が沢山の人に愛されますように。

「藤田さん、これ今日中ね」


 また机にファイルが積まれる。

 毎日会社の先輩達に仕事を押し付けられ、残業だらけの毎日。

 断れない性格が仇となる。


 残業を上司に指摘されて、それを陰で笑う先輩達。

 でも、たいしてスキルもない私は転職する勇気はない。

 それどころか、実家の父の会社が潰れて借金まみれだから私まで返済に追われてる。


 休みの日はラウンジで働く。

 休む暇もない。


 * * *


 日曜の夜のラウンジ。控えめな灯りとピアノの旋律が、店内を柔らかく包んでいる。

 私は「さくら」として働き、黒服に呼ばれるたび席を移っていた。


「さくらさん、新規のお客様にお願いします」


 黒服に促され、私は一礼して席に向かう。


 そこにいたのは、一人でグラスを傾ける男性。

 背筋の通った姿勢、仕立ての良いスーツ、静かな所作。

 ただ座っているだけなのに、場の空気が変わっていた。


「いらっしゃいませ」


 私は慣れた調子で声をかけ、グラスにウィスキーを注ぐ。

 いつも通りの接客のつもりだった。


 けれど、彼の視線に気づいた瞬間、息が止まった。

 強いのに、どこか深く揺らいでいて……見慣れたはずの客の目とはまるで違う。


「君は、名前は?」


「……“さくら”と申します」


「さくら、か」


 彼はその名を口にすると、わずかに微笑んだ。


 私は軽く会話をつなごうとした。

 けれど彼はほとんど言葉を返さず、ただじっとこちらを見ている。


 黒服が次の子を呼ぼうと近づいたとき、彼は静かにグラスを置いた。


「——この子で」


 黒服は一礼し、他のホステスを下げた。

 気づけば、私ひとりだけが席に残されていた。


「え……私でいいんですか」


 思わずこぼれた声に、彼の瞳がまた私をとらえる。


「君がいい」


 その瞬間、胸の奥がざわめいた。

 何故かこの人に選ばれてしまった。

 一体私のどこを気に入ったのだろう。


「ご指名……ありがとうございます」


 そのまま彼はあまり語らないまま、暫く私の横にいた。


 彼が帰る時、


「また来る」


 そう私に言い残して、店を去った。


 不思議な雰囲気の人。

 彼の事がすごく気になった。


 * * *


 数日後、会社に出勤したら同じ部署の人達が何か話していた。


「今日副社長来るらしいよ」


「え!?海外から帰ってきたの?」


「ええ!楽しみ!」


 副社長……見た事がなかった。

 どんな人だろう。

 フロアも違うし、海外にいる事が多い人で、噂には聞くけど入社してから一度も見た事がなかった。


 あまり気にせず、そのまま仕事を黙々とこなしていた。

 暫くすると、周囲が少しどよめいた。


 スラっとした気品のある雰囲気の男性が入ってきた。

 どこかで会った事ある……あの人……。

 嫌な予感がした。


 その時、彼と目が合った。


 あ、この前お店に来たあの人だ……!

 ヤバい!うちの会社の人だったの!?


 私は目を逸らしてパソコンの影に隠れるように仕事をしていた。


 すると、ポンっと肩を叩かれた。


「君、ちょっと来てくれる?」


 無表情だけど怖い。

 血の気が引いた気がした。


 * * *


 私は会議室に連れて行かれた。

 恐る恐る椅子に座った。


 彼はどかっと椅子に座って足を組んで腕を組んだ。


「この前は君と話せてよかったよ、“さくら”さん」


 その名前を呼ばれて、私は顔が真っ赤になった。

 あの日とは違って鋭い目つき。


「申し訳ありませんでした」


「何がだ?」


「副業を……会社の規則を破って……」


「なぜやってる?」


「実家の借金があって……返済が……」


 副社長は黙って私を見つめていた。


「交換条件をしないか?」


「え?」


「俺がその借金を一部肩代わりする」


 私はびっくりして立ち上がった。


「本当ですか!?」


「ああ。その代わり……」


 その代わり……?


「俺専属の嬢になってほしい」


「へ?」


 意味がわからなかった。


「どういう事でしょう……?」


 彼はゆっくり私に近づいてきた。


「俺の家で俺だけのために接待するんだよ」


 この人の家で……?


「俺が君を雇う。ラウンジより高い金を払う。だからあそこはすぐに辞めろ」


 彼の瞳に嘘や偽りは感じられなかった。


「ちょっと考えさせてください……」


「わかった。だが返事は明日までだ」


 明日!?早すぎる!

 私は混乱していた。


「あの、あなたはもしかして……」


「俺を知らないのか……?」


 私を少し睨んだ。


「副社長の河内だよ」


 ふ、副社長!?

 絶句した……。

 ヤバい……色々ヤバい……。

 私は顔を覆って打ちひしがれていた。


「君の名前は?」


 突然真横から声をかけられてびっくりした。


「わ!私は、藤田優美です!」


 河内さんはスマホを出した。


「連絡先教えて」


「はい……」


 複雑な心境の中、副社長とプライベートで繋がってしまった。


「じゃあ、藤田さん、いい返事待ってる」


 そのまま河内さんは会議室を出て行った。


 まさかあの夜のお客さんが会社の副社長だったなんて。

 彼専用の嬢って……。

 彼の家に行って、二人きり?

 ただの接客と同じで済むの?

 そんなわけがない!

 断ったらクビになるのかな……。

 なるべくクビは回避したい。


 借金を肩代わりする代わりに、専属の嬢になる……。

 なかなか答えが出せなかった。


 * * *


 定時まで、あと三時間。

 でも、私の机の上にはまだ山のような仕事が残っている。


「藤田さん、この資料も今日中にお願いします」


 また先輩が仕事を押し付けて帰る。

 私は断ることができなかった。


『俺専属の嬢になってほしい』


 昨日突然言われた河内さんからの取引条件。

 なかなか答えを出せない。


 時計を見る。もう二十一時を回っていた。

 フロアにはもうほとんど人がいない。

 私一人が残って、パソコンに向かっている。


 その時、足音が聞こえた。

 振り返ると――


 河内さんが立っていた。


「まだ仕事をしているのか」


「あ、はい……」


 今日までに返事をするように言われてたんだ。

 今日ってあと三時間……


「返事はどうする?」


 どうしよう……


「あの……お聞きしたいことがあって」


「何だ?」


 副社長は私の隣に来て、椅子に座った。

 距離が近い。緊張して身体が強張る。


「専属の嬢ってのは、お酒を作ったり、お話をしたり……ですか?」


「そうだ」


 でも、それだけじゃないような気がする。


「それ以外は……?」


 副社長は私をじっと見つめた。


「それは君次第だ」


 何それ、不安すぎる!


「断ったら……クビになりますか?」


「どうだろうな」


 彼は謎めいた笑みを浮かべている。

 怖い……


「お家に行くのは……どのくらいの頻度ですか?」


「明日から毎日だ」


「明日!?」


「仕事が終わったら、俺の家に来る。それが条件だ」


 毎日って……仕事終わってから?

 私の休む暇は??


「自信ないです……」


 私は俯いた。


「何が?」


「仕事をしながら毎日河内さんの家に行って、接待をするのは……」


「なら住むか?」


 住む!?


「いえ、それは遠慮します!!」


 この人、距離の詰め方が変!


「じゃあ……土日と、あとは来れる余裕がある時だけでいい」


 それだったら何とか……


「わかりました。お受けします。ただ……」


「なんだ?」


 私は勇気を出して河内さんの目を見た。


「それ以外はしません!」


 彼は少し驚いた顔をしたが、冷静な表情になった。


「わかった。じゃあ住所を後で送る」


 河内さんが帰ろうとした時――


「もう今日は仕事上がれ。俺が明日どうにかするから」


「え、それは、でも……」


 睨まれた。


「命令だ」


「は、はい!」


 私は急いで支度をした。


「ついてきて」


 河内さんはエレベーターの方に行って、私もついて行った。


 エレベーターで地下へ。

 地下は駐車場……。


 地下駐車場に着いて、そのままついていくと、河内さんは高級車に乗った。

 さすが副社長……


「乗って」


 私は恐る恐る助手席に座った。


「駅まで送る」


「……ありがとうございます」


 副業を見逃してもらう代わりに、取引に応じたわけだけど……

 なぜこんな特別扱いをされてるんだろう。


「あの、なんで私の借金を肩代わりしてくれようとするんですか?」


 河内さんの横顔を見ると、少し笑んだ。


「君を誰にも触れさせたくないから」


 びっくりして胸が跳ねた。

 それはどう解釈すればいいんだろう。

 そのまま何も言えないまま、駅に着いた。


「ありがとうございました……」


「明日来い」


 窓から最後にそれを言われ、河内さんは車で去って行った。


『君を誰にも触れさせたくないから』


 その言葉の真意はわからないけど、胸の高鳴りが止まらなかった。


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