森の中には
「洗脳…って、院長を操ったりすればすむ話なんじゃないんですか?」
マルティナが言うとヒューバートは手で制し、数分間洗脳をしていた。それが終わると院長は解放され、ヒューバートはマルティナの質問に答えた。
「さて、院長を操ればよいのではないかと言ったのだったかな?わしは一応人を操る事はできるんじゃが、それは黒魔術なんじゃよ」
「黒魔術?」
「つまり、この世界の法律で禁止されている魔法の事じゃ」
「そんな魔術があったのかよ、俺たちはまだほんの少ししか魔法をやらせて貰えなかったからあんま知らねぇんだ、これからも色々教えてくれよ」
「もちろん、わしにできる事ならなんでもやるぞ」
それからみんなで話し合った結果、洗脳よりも早い方法が見つかった。それは記憶の改ざんだ。院長や一緒に働いてきた友達の記憶を改ざんし、マルティナ、エルザ、ヴィルマー、ルーカスについての記憶を一切消してしまえばよい。そうすればこの4人が孤児院から抜け出したとしてもバレることはない。この4人はまだ子供たちの世話はまかされておらず、食事を作ったりする仕事を任されていたので子供たちが4人がいなくなった事に気が付く事もない。食事係は他にもいるし、4人が抜け出した所でなんの支障もないだろう。
「じゃあ、記憶の改ざんはわしがやっとくから、今夜一緒に抜け出そう」
「わかった、それまで僕はそこら辺を少しユーリアに案内してもらおうかな」
「私でよければよろこんで案内するよ、行こ!」
2人が楽しそうに肩を並べて出発した後、残された仲間たちは記憶の改ざんに専念しているヒューバートを除き、羨ましそうに喋っていた。
「……あの2人、仲良し夫婦みたいだよな」
「エルザ、そんなこと言わないでくださいよ、私がみじめな気持ちになるじゃないですか」
「いや、お前にはルーカスがいるじゃねーか」
「ヴィルマー!!!私は別にあいつが好きなわけじゃ……!」
「ほう……いつも穴があくほど見つめているのに?」
「あああああああ!うるさいうるさい!ちょっと黙っててくださいよ!」
「あのさ、あたしの前でいちゃいちゃしないでくんね?あたしがみじめになる」
「はぁ!?これのどこがいちゃいちゃしてるっていうんですか!?」
「落ち着いて落ち着いて、ね?」
「ルーカスが言うなら落ち着いてやらなくもないですけどね」
「やっぱお前ルーカスの事好きじゃねーか」
「そんな事言ったらユーリアも絶対エリアスの事好きだぞ」
「やっぱエルザもそう思うか?」
「まぁ長年ずっと一緒だったし、それ位の事はわかる」
「だよな、エリアスの方はなんとも思ってなさそうだったが」
その頃エリアス達は森の中を歩いていた。奥の方まで行って、そろそろ引き返そうとすると、向こうの方で子供が1人、棒立ちしているのが見えた。後ろを向いていて、顔は見えない。
(迷子か?そうでなくてもこの森に子供が1人でいるのは危険だよな……)
「行ってみよう」
エリアスが言うと、ユーリアも同意し、2人はその子供の方へ歩いて行った。そこでエリアスはふとヒューバートが言っていたことを思い出した。
「森の中に子供が1人で立っているのを見つけたら容易に近づいてはいかんぞ」
エリアスは足を止めた。
「子供の姿をした魔物がいるんじゃよ、見かけによらず、わしの魔力でようやく太刀打ちできるほどの強さじゃ。わしの魔力がどのくらいか知っておるじゃろう?この世界では1、2を争う強さじゃ」
「おい……ユーリア……」
ユーリアは歩く足を止めない。
「普通の子供とたいして見た目は変わらんのじゃが、唯一見分ける方法がある。それはな、顔じゃよ」
ユーリアの気配に気が付いたその子供は、ゆっくりこちらを振り向く。
「その魔物の顔は、まるで感情がない人間のようなんじゃ。感情がない人間を見たことがないから、こんな事わからんじゃろうな、エリアスは。でも、その顔を見ればきっとすぐ理解できるはずじゃ」
振り向いた子供の顔は、まるで感情がない人間のようだった。