1.衝撃の事実
初心者です。
誤字脱字など、気になった点があれば報告してくださると助かります。
『ルミエール・シャイン・ルエトワール』
通称RSE。これは、大々的に売り出されたVRMMO型ゲームの名前である。少し前にベータ版がリリースされ、その世界観や自由度、作り込みが大きな話題を呼んだ。
正式版をプレイするのに抽選はいらない。リリース開始の1週間前から全国で発売されているが───すぐに売り切れてしまった。今は入荷待ちの状態だ。
そんなVRMMOを購入できた幸運な少女は今────
「ん?このゲームってそんな人気なんだ。珍しかったから買っただけなんだけど…」
自身が買ったゲームについて調べていた。
その少女の名前は蒼空薄暁。現在高校1年生である。
◇◆◇
「へぇー…なかなか面白そう。リリース日は…今日の12時…??」
調べてよかった…!!今は10時。あと2時間でリリースされるみたい。
せっかくやるなら、早めにやったほうがいいもんね。手探り状態は大変だけど…でもその分楽しいから。
──────2時間後。
「もう開始時間か…。ログインするとしよう。」
VRセットを装着してログインする。
『ルミエール・シャイン・ルエトワールの世界へようこそ!私はあなたのキャラクタークリエイトを手伝うサポートAIです!』
ログインしてきた場所は宇宙のどこかにいるようなとても綺麗な空間だった。
とても小さな星々が揺ら揺らと波のように揺れて、遠くに月や地球が見える。
そんな神秘的な場所だった。
そのような場所には天使のようなサポートAIが映える。眼福眼福。心の中で拝んでおこう。
「はい、よろしくお願いします」
『元気ですね!はい、ではキャラクタークリエイトを進めますね!まず、お名前を教えてください!』
…あ、そうだ。忘れてた…。いつも" "で登録してるんだけど…さすがにまずいかな?他の人がどう呼べばいいかわからなくなりそうだしなぁ。運営的にはアウト?
「…名前ってこんな感じの" "でも大丈夫ですか?」
『う、うーん…。さすがに、いやでもなぁ。ちょっとお待ちください。―――申し訳ありませんが、やめていただけると…。空白という名前にするのは大丈夫みたいですけれど…。』
なら別の名前を考えよう。蒼空…空…スカイ。うん、スカイでいいや。
「スカイでお願いします」
『はい、かしこまりました!次は職業を設定しましょう。私になりたい職業について話してください!メニューを表示するのでそこから選んでも構いませんよ!』
話して決めるのが基本なんだ…。珍しい。でもメニューから選ぶって言ったって読み切れないくらいの数があるよ。大変すぎる。
『あ、言い忘れておりました。私と相談して決めるとメニューにはない職業に就く場合がございます!』
「え、こんなにメニューに書いてあるのにまだあるんですか…?」
『はい。皆様がなりたい職業についてもらうためですね。後から転職することもできるにはできるんですが、なんのメリットもなく、時間も帰ってこないので、なら最初からなりたい職業についてもらおうという考えでございます』
嘘でしょ…。職業に力入れすぎでしょ、運営…。
とりあえず、職業は相談して決めることにしよう…。選べないよ、これ…。
「はぁ…どれだけ種類があろうが、職種に希望はないんですよね……。」
『そうなのですか?少し珍しいですね。皆さんどんな職業になりたいか希望があるので…。うーん、自由でいるのは好きですか?』
「はい、好きですね。」
『では、旅をするのも好きだったりします?』
「旅…あまりしたことはありませんが…旅行とかは好きですね」
高校1年生だからね。まだ自由にどこかへふらっと行ける訳ではない。でも憧れはあるよ。
まだ見たことない景色を見てわくわくするのも楽しいし、新しい発見があるからね。
『ふんふん、なるほど…2つの質問だけで提案しちゃいますけど…旅人はどうですか?』
「旅人…?旅をすること以外は想像がつきませんが…」
『そうですね、説明しましょう!まずこの職業はメニューに載っていません。そして職業の特徴ですが…さっきスカイさんが仰られたとおり、旅をするのがこの職業ですね!他には定職についているわけではないので他の職業になることもできます。』
「なる…ほど?でも旅をするってどういうことですか?」
『それは言えません!すみません…。ですが絶対楽しめるはずです!』
それ言っちゃっていいの?大丈夫?──でも職業としての活動は手探りってことかぁ…何が旅判定なんだろうな。普通に冒険するだけで上がるとも思えない…。だったら冒険者とか提案されてそうじゃない?
まぁでも、楽しそうだからその職業でいいかな。どうせ何にするか決められないし、レアな職業でもあるし!
「では旅人で。」
『はい、承知致しました!では種族を決めましょうか。これも職業と同じ仕様です。どうしますか?』
え、でも…こっちも希望はないんだよな。どんな種族でも楽しむだけだし…。
『これも希望はないんですか…?えぇ…、精霊か妖精だとどちらがいいですか?どちらもレアな種族です!レア職業の次はレア種族を選ばせてみたい…!!』
謎に燃えてる。私としては嬉しいんだけど…これならみんな希望はないって言わない?そしたらレアなやつ選べるし…。
それに、なんか雑になってない?いや、まぁ私は気にしないからいいんだけど…投げやりっていうか…。
精霊か妖精のどっちがいいか、かぁ。どちらでもいいけど…。心惹かれるのは精霊のほうかな。
「精霊のほうで」
『承知しました!ではステータスポイントを振りましょう。これはランダムでポイントが割り振られます。制限時間は20分。その間に抽選とステータスポイントを振ってくださいね。最低でも80、最大で200ポイント得られます。また、ステータスポイントをとっておくことはできません。必ずこの場で全て振ってください』
ふんふん…。なるほどね。早速やってみよう。────1回目は126。まだ行ける。次。82。最低に近いな…。
………11回目。185。よし、これでいいや!残り時間は3分。これで割り振りを決める。
「旅人ってどのステータスを伸ばした方がいいとかありますか?」
『特にないですね。どのステータスを優先的に伸ばしても平気なようになってます!なのでお好きなように!』
きっぱり言った…。どのステータスを優先的に伸ばしてもいい、ね…。うーん、ならこうするか。
────
名前:スカイ
職業:旅人 種族:精霊
◇ステータス◇
HP:20
MP:10
攻撃力:40
魔法攻撃力:25
防御力:20
魔法防御力:20
素早さ:30
器用さ:20
────
「こんな感じでいいか…」
『ではスキルポイントを配布します!一律30ポイントですね。お好きなスキルをお選びください!スキルレベルを上げるのにも使いますから慎重に…。後、職業限定スキルは後からとってもいいですが、今取っておく方がおすすめです。今取ったほうが恩恵を受けやすいので…』
「ありがとうございます。そうさせていただきますね」
じゃあその職業限定スキルってやつをとっておこう。残り半分、15ポイントになるまでスキルを選んで…。後はスキルレベルを上げるのに使う。これも限定スキルを優先的に。
その結果がこれ。
────
名前:スカイ
職業:旅人 種族:精霊
◇ステータス◇
攻撃力:40
魔法攻撃力:25
防御力:30
魔法防御力:20
素早さ:40
器用さ:30
◇スキル◇(New!)
【火魔法Lv.1】【水魔法Lv.1】【木魔法Lv.1】【土魔法Lv.1】【支援魔法Lv.1】【風魔法Lv.3】【鑑定Lv.3】【錬金Lv.1】【調薬Lv.1】
◇職業限定スキル◇(New!)
【旅の心得Lv.5】【言語理解Lv.3】【空間魔法Lv.2】
────
ちなみに、旅の心得と言語理解、空間魔法は取得に2ポイントかかった。限定スキルは取得に2ポイントかかるのかな。
というか旅の心得って…幅広くない?
『最後にキャラクターメイクですね!お好きなように設定してください!』
色んな項目を弄れるみたい。まず髪を白髪にして、背中の真ん中くらいの長さに。そこに鮮緑色のグラデーション。
「あの、なんていうんでしょう…ウルフカットの髪が長いやつにって出来ますか?」
『ロングウルフでしょうか?はい、可能です』
「ではお願いします」
承知しました、とサポートAIは言って髪を変えてくれる。ちょっと憧れてたから…嬉しいな。
───おっと、続きをやらなきゃ。目は深紅色に。身長は…+-5cmまで?…ならいじらなくていいや。めんどくさいし。
まだ色々弄れるみたいだけど、もういいや。何を変えてるのかわからなくなってくるし…。
「終わりました」
『はい、わかりました!最後に調整だけさせてもらいますね…。よし、大丈夫です!』
サポートAIはどこか少し弄ったみたいだけど…どこが変わったのかわからない。
『では、ルミエール・シャイン・ルエトワールの世界────"ウィルテリス"をお楽しみください!』
そう言った瞬間、私は眩い光に包まれた。次の瞬間には、綺麗な街並み───ウーノスの街にいた。
◇◆◇
───すっごい!!景色が綺麗!今までとは格段に違うグラフィック…!!!なんていうか、綺麗!めちゃめちゃ綺麗!!こんなグラフィックが綺麗なゲーム、他にないでしょ。……多分。
私がこの景色の美しさに感動していると、頭の中にピコッと音が鳴り、目の前にウィンドウが現れた。
……どうやら、チュートリアルみたいだ。VRMMOは結構やってるから、別に受けなくてもなんとかなる。けど…一応受けておいたほうがいいかな。他のゲームと違うところとかがあるかもしれないし。
というわけで、受注をぽちっとな。
───あれ。おかしいな…。さっきまで街の中にいたはず。なのにここは……草原?チュートリアルフィールドかな?
「お姉ちゃん、こんにちは!わたしはトルス。チュートリアルクエスト担当の1人だよ!」
「こんにちは。私はスカイ、別に名前は覚えなくていいですし、チュートリアルを受けに来たということも覚えなくて結構です。」
チュートリアルを受ける人はたくさんいるだろうからね。一人一人の名前を覚えるのは大変だ。
「えーっ、そんなこと言わないで!…もしかして、たくさんの人の名前覚えるの大変だからって気にしてくれてる?」
「…!どうしてわかったのですか」
「なんでだろーね!でもねでもね、大丈夫だよ!チュートリアルクエスト担当は種族によって分かれててね、わたしは精霊担当なの!」
「へぇ…。そういう風に分かれてるんですね。」
「珍しい種族だからまだお姉ちゃん以外にチュートリアル受ける人がいなくて…だから大丈夫だよ!」
「それでも覚えなくて結構。忘れていただいて構いません」
そう言った後もトルスは粘ってきたけど、覚えなくていいとずっと言い続けた。私の名前で他の人の脳のスペースとるの申し訳ないし…。
―――で、チュートリアルをこなした。魔法の使いかたとかいろいろ教えてくれて助かった!他のゲームと結構一緒だったよ。ただ、ステータスの開きかたは違くて、他のゲームは「ステータスオープン」と口に出さないといけなかったけど、こっちでは"ステータスを開きたい"って念じればいいらしい。ちょっと恥ずかしかったからこの仕様は嬉しい。
「あ、トルスさん。最後に聞きたかったんですが、【旅の心得】ってどんなことに効果があるのか知ってますか?知ってたら教えてほしいんですが」
「旅の心得?スキルだよね…。うーん、ごめんね、どんな効果があるのかわかんないや。ちょっと待っててね、みんなに聞いてみる!」
…みんな?NPCだから聞く相手は運営のはず…。NPCから運営への問い合わせって出来るんだ。ちょっと驚き。まぁ、言い回しは少しばかり気になるけど…。こんなことを直接聞くのもなぁ。
しばらく悩んでたら、トルスが落胆した声を出してこちらに寄ってきた。
「みんなもわからないって…。ごめんね、せっかく聞いてきてくれたのに。」
「全然大丈夫です。気にしないでください。」
ってことは運営もわからないってこと?え、なら【旅の心得】って本当になんのスキルなの?疑問がずっと溜まってく…。
そこで、トルスがあっ、と声をあげた。どうしたの?なんかあったのかな?
「旅の心得、どんなスキルかわかったって!今から行くって言ってたから、ちょっと待ってね、スカイお姉ちゃん!」
――――と、そんな風に言われ。私は30分ぐらい待つのかな、いつゲーム本編を始められるんだろう…。と遠い目をする――――こともなく。1分30秒ぐらいですぐに来た。
「はぁ、はぁ…うぅ、久しぶりに急いだよ…。」
「…大丈夫ですか?」
なんだか申し訳なくなって、ウィルテリスに来たときに自動的にアイテムボックスに入っていた水を渡す。わっ、水筒だ。この世界にも水筒ってあるんだね?どこまであって、どこまでの物がないんだろう。…一瞬、"あれ、水くれるんだ?意外!"みたいな顔をされたので、心の中で説明しておく。さすがにそこまで鬼じゃない!私は親切心の塊みたいな人なんだから、そんな意外に思わないでほしいよ、まったく。
「これ、口付けてないので、よければどうぞ」
「ありがとー!―――っぷはぁ、助かった…。ゲーム内では喉が渇くことがないんだけど、気分的には欲しかったんだよねー。ほんとありがとー!」
そうやって水を飲んでいる間、私は彼を観察していた。…一応弁明しておくけど、やることがなにもなかったからだから。変な考えとかは持ってないから!
―――うー、これ、弁明すればするほど怪しくなるやつだ…。どうせ私は怪しいやつですよーだ。そう思われることは別に気にしてないもん。ほんと。…でも、本当に変な考えは抱いてないから!そこは勘違いしないでいただきたい。
さて、観察を再開することにする。急いできてくれた少年は、だいたい…150㎝くらい?私と大して身長が変わらなそう。で、髪は紺鼠色で、ふわふわしていて跳ねが多い。目は紫色が下で桃色が上の2つに分かれてるタイプ。目の影が赤っぽい。めっちゃ綺麗な目だね、とてもよき!
で、頭に謎に天冠…かな?あの、幽霊をイメージしたらわかると思うんだけど、幽霊がつけてる三角の、頭につけている布をつけている。服装は真ん中に"あいむごーすと"と書かれているシンプルなグレーのシャツに、シャツよりは暗いグレーで、結構幅に余裕がある短パンを履いている。
―――もう少し観察したかったけど、彼が水を飲み終わったので中断する。いや、観察してたのは変なこと考えてたからじゃないよ!?誓って違うからね!?!?
「これ返すね。で、確か【旅の心得】がどんなスキルか、ってことが気になってたんでしょ?わざわざ運営に聞いてきてあげたんだよ!」
…ん?ちょっと待て待て待て。運営に問い合わせた?ってことはもしかして…
「トルスさんも、君も…NPCじゃ、ないのですか…?」
「なに、いまさら…」
「そーだよ?わたしたちはNPCじゃないよー?」
――――え、ええ~~~~~~~~!?!?
―――――そう、薄暁は見落としていたのだ。チュートリアルを受ける前に確認できる、説明のところに、現在はプレイヤーがチュートリアルの指南役になっているという表記のことを。