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天才の弟  作者:
83/83

83 グラデーション

お久しぶりです。

 一度、告白したことがある。

 それが告白として、今もちゃんと伝わっていたのかはわからない。でも、それを拒否することもなければ、肯定されることもなかった。

 でも、先輩は恋愛感情がないとオレに言った。

 その真意は、だとか探ろうと、きっと彼女はそれさえ隠すことをしたくなかっただけだったんだろうと思う。オレが先輩を好きだということを隠せないと思ったように、先輩もまた、隠しておきたくなかったんだろう。

 それでも、形だけでも付き合うことになって、そこに恋愛云々はもちろん無く、ただお互いに特別というレッテルを貼った。周りにもそう言えるように。牽制できるように。


『尚なら、どんな私でも受け入れてくれる気がして、こんな風にいられるって話』


 先輩はそんな言葉をオレに放った。

 オレは別に恋愛感情はいらなかったのだと思った。

 ただ、彼女にとっての特別がオレであれば、それが望みで、それ以上でもそれ以下でもなかった。それは、依存にも似たものなのかもしれない。でも、それが悪いことだとは思えなかった。



 オレ達は駅まで引き返し、そこから道の駅のある駅で降りた。

「あ、あれかー道の駅」

「ほんとだ」

 建物の中に入ると、みかんとかの果物や野菜がたくさん並んでいた。

「えー美味しそう」

「どうせならちょっと買って食べます?」

「え、めっちゃいい」

「どれにしよ」

「うーん、わからん……あ、これ、すっきりした甘さだって。うわ、これは逆にめっちゃ甘いらしい。えーどうしよう」

「あはは、なんでもいいすよ」

「うん、これにしよう、甘いやつ」

「おっけー。3個入り?」

「うん。余ったらどっちか持って帰ろ」



 オレ達はみかんとサンドウィッチを買い、外のベンチに座った。

 目の前に青い海。みかんとサンドウィッチ。隣に先輩。

 幸せというには条件が揃いすぎている。

「じゃあ、いただきますか」

「そうですね。いただきます」

「うん、いただきます!」

 先輩は嬉しそうにサンドウィッチを手に取り、そのまま口に運ぶ。唇についたマヨネーズをぺろっと舐めた。

「んーおいしい!」

 ……癒される。

「……あ、うま」

「だよね!はー幸せだなー」

 にこにこしながら食べる先輩にオレは思わず笑っていた。

「え、なに」

「すんごい幸せそうに食べるなーって」

「え、そう?」

「はい」

「うへへ、なんか恥ずかしいな」

 そう言って先輩はサンドウィッチを持ってない左手で自分の両頬を押す。かわいい。

「いいんですよ、それが」

「えー……でも、尚もなんか楽しそう」

「そうですか?」

「うん。最初に会った頃よりずっと」

 そりゃそうだろ、と思いながら、サンドウィッチを口に突っ込む。あの頃とは何もかもが違うんだから。

「依さん」

「ん?」

「……呼びたくなっただけ」

「えーなにそれー」

 先輩はまた笑っていた。

 オレもその笑顔を見るだけにしよう、と思った。余計なことは、別に今考えなくていい。今のこの瞬間が全てだ。




 色々と話した。

 海の見える道を歩きながら。ベンチに座りながら。

 先輩が空が青い理由を説明しようとして、結局なんだったかわからなくなったり、サイズがぴったり合う靴ってないよねって話したり、手相を見比べてそっくりだね、とか。そういう、どうでもいいことを。

「あーあ、帰りたくない」

 先輩が空を仰ぎながらそう言う。

 思ったけど言わなかったことを、と心の中で呟く。

「帰るまでが旅ですから」

「修学旅行で言うやつ」

「そうそう」

 手を繋いで歩く。駅までもうちょい。

「移動、長いですよね。すみません」

「え、なんで?楽しいよ」

「よかった。オレも楽しい」

 あぁ、なぜこんなにも穏やかなのだろう、と思う。

 別に目立たなくていい。どこかにスポットライトが当たって、その端っこで密かに過ごす、名もない脇役でいい。脇役がいい。

 ただ、こんな日々をーー。

 ……なんて、ポエムみたいなことを馬鹿正直に考えていた。

「オレも、帰りたくない」

「……なんだ、一緒じゃん」

 先輩は驚いたようにじっとこちらを見て、そして、目を細める。その、瞳。笑い方。どこか既視感を覚えるような。

 オレ達は、ずっとお互いを知っている気がする。



 電車。空いた席に並んで座る。肩が触れた。でも、それよりずっと手を繋いだままだった。

 手を離しては、また繋ぎ直す。

 気づけば無言で、でも別に気まずさはない。そして、いつの間にか先輩は寝ていた。彼女の髪が首をくすぐる。

 窓の外を見た。夕日が暮れてく。何とも言い難い色。明るいのに、段々気づかないうちに暗くなる。グラデーション。

 来年は、まだ先輩が近くにいる。じゃあ、再来年は?先輩は大学生。オレはまだ高校生。大学は?先輩は……どこにいる?

 留めておきたい。ずっとずっとずっと。今のまま。何も変わらないで。……余計なことは、今考えなくていいんじゃなかったのか。今心配したって仕方ない。なのに、なんなんだ、この不安は。表向きには『恋人』になったのに。昨日より今日が言葉として言い表せるのに。近くなればなるほど、こわい。

 ……こんなことをずっと考えている気がする。

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