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天才の弟  作者:
8/78

8 宿命

「めっちゃ寝てたね」

「え、あー」

 前の席の女子に話しかけられた。

「怒られても、何度も寝るんだもん」

「いや、ははっ」

 返し方がわからなくて、軽く笑う。

「先生、しかめっ面でなんか書いてたよ」

「へぇ?まぁいいや。書かせとけば」

 オレは教卓の方を一瞥して言う。

「えー?」

 あはは、とその子は笑う。まともに話したの、初めてかもしれない……けど、名前、なんだっけ。

「えーと、次なんだっけ」

「次はー……昼休み」

「あぁそうか。ありがと」

「うん」

 昼休みか。昼飯……の前にトイレ行こ。

 席を立って、彼女の前を通りすぎる。あ。

「起こしてくれてありがと」

 右手を顔の前で立てて、軽く会釈する。

「えっいや、ぜんぜん、ぜんぜん」

 まさか言われるとは思わなかったのか、びっくりしたような顔をしている。

 反応がおもしろくて、少し口元が緩む。オレだってお礼ぐらい言うさ。

 オレは前の教室の扉を開ける。で、トイレに行く。…………なんかでかい足音が近づいてくる。トイレが近いやつでもいるのか? 

「そーまー!」

「小平。なんなんだ」

「俺もトイレ」

「あ、そう」

「てかさっき、河原さんと話してたじゃん」

「ん?……あぁ」

 河原さんか。さすがにそろそろ名前おぼえねぇと。2学期中盤に思うことじゃねぇな。

「仲ええの?」

「え?いや全然」

「おまっ……まぁええわ。なんか、雰囲気似てるし、ワンチャンでもあるんかと思ったのに」

「あのなぁ、小平。異性と絡めば、全部恋愛に発展させるの、やめたほうがいいぞ。さっきも先輩のこと言ってたし」

「え?高校生たるもの、それは宿命なんだ。あきらめろ」

 小平はそう言い、オレの肩に腕を回す。重い。

「開き直りやべー」

 軽く笑う。小平は数少ない友達だ。気を使わないで済むから楽ではある。オレより少し背の高い小平を見る。

「お前には春がやってきたってのに、俺は……」

 顔を両手で覆って泣いたふりをする。背は、高いんだけどな。

「勝手な妄想だし、いまから来るのは冬だ」

「はい。そうでした……」

 トイレを済ませてまた教室に戻る、と廊下から教室の様子が見える。ん?

「あれ、おまえ、日直じゃね?」

「え?あっ!!」

 声でけぇー。

 小平は慌てて、黒板を消しに行く。あ、女子と一緒か。めっちゃ謝ってる……。全然いいって、て感じか。あ、消し終わった。小平はオレの方に苦笑いで歩いてくる。女子は、小平のほうを眺めていて、はっと我に返ったように歩きだした。これはあれか。たぶんおまえのこと、密かに好きな奴いるぞ。絶対言ってやらんけど。オレは一人で半笑いになってた。

 ………………ん?待てよ。オレのほうこそ、じゃね?異性と絡めば恋愛に発展させてんのは。すまん、小平。偉そうに言っておきながら、オレもその宿命に抗えてすらなかった。

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