5 屋上にて
「え、開けちゃっていいんすか」
「知らなーい」
「てか、開けれるんすか」
「ん〜、たぶん?」
屋上の扉の南京錠をガチャガチャといじる。まぁ古い。絶対手に錆の匂いついてるわ。
「こーいうのは……あれだ」
「え?」
先輩はどこからかを2つ安全ピンを出す。なんで持ってんだ。そして大胆に形を歪ませる。手に刺さりそう。見てるほうが怖い。
「大丈夫ですか?」
「ん?大丈夫大丈夫」
……器用だな。安全ピンは細い針金のようになった。そしてそれを南京錠に差し込む。
「んー」
先輩は唸りながら、針金を動かしている。流石に開かないか。開いたら開いたでこわい。
ガチャ
おい、嘘だろ。
「お、やった。これで入れる」
「まじか」
先輩は実は、スパイか何かなんじゃないか。かなりあっさり開けたし、なんか手慣れてる感があるし。
ギイィ゙
大分重い音。扉と壁の間に埃がびっしり詰まってる。
「おー明るい」
「ですね」
屋上ってこんな感じか……思ったより汚い。数日前の雨、若干残ってるし。
なんとなく屈みながら屋根の部分を抜ける。
「うおっ」
「すごいねぇ尚」
「……はい」
「空は広いんだ」
何を当たり前な、と反射的に言いたくなったけど、オレも思ってしまった。秋空。どこまでも広がっているように思える。だけど、今見ている空も次に見たときには違っている。そんなふうに、いつの間にか冬がくる。そして春がきて、痛いぐらいに暑い夏がきて、秋がくる。その繰り返し。
「やっぱ学校って閉塞的だよね」
「え?まぁ確かにそーすね」
自由という自由がなくて休み時間に校外に出れば怒られる。部活も半年は必須、休み時間は10分、昼休みだけ45分で、できることなんて限られてる。おまけにスマホは使用不可。
「え」
先輩が屋上のはしっこに立っている。髪が風になびいて揺れる。ーー綺麗だ…………じゃなくて。
「ちょっと、先輩!」
「ん?なに?」
「危ないっすよ」
オレは走って先輩に並ぶと同時に腕を取った。
「ねぇ知ってる?都会の子供は高い所、怖くない人多いの」
「は?」
「下が見える高層ビルとか住んでたら、それが当たり前だから慣れちゃって高い所怖くないんだって。だから子供が落ちる事件、多いらしいよ」
「……へぇ」
下を見下ろす。言うほど高所恐怖症でもないけど、やっぱり……怖い。4階分の、いや5階分の高さがある。落ちたらきっと死ぬ。世の自殺する人はこれ以上の恐怖?苦しみに苛まれて、死を選んだのだろうか。
オレは先輩の腕を引っ張って、来た道を戻る。
「もう帰るの?」
「帰りますよ。先輩、なんか危ないし」
「えぇ?」
オレはしばらくこの細い腕を掴んだまま、歩いた。