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天才の弟  作者:
5/75

5 屋上にて

「え、開けちゃっていいんすか」

「知らなーい」

「てか、開けれるんすか」

「ん〜、たぶん?」

 屋上の扉の南京錠をガチャガチャといじる。まぁ古い。絶対手に錆の匂いついてるわ。

「こーいうのは……あれだ」

「え?」

 先輩はどこからかを2つ安全ピンを出す。なんで持ってんだ。そして大胆に形を歪ませる。手に刺さりそう。見てるほうが怖い。

「大丈夫ですか?」

「ん?大丈夫大丈夫」

 ……器用だな。安全ピンは細い針金のようになった。そしてそれを南京錠に差し込む。

「んー」

 先輩は唸りながら、針金を動かしている。流石に開かないか。開いたら開いたでこわい。

 ガチャ

 おい、嘘だろ。

「お、やった。これで入れる」

「まじか」

 先輩は実は、スパイか何かなんじゃないか。かなりあっさり開けたし、なんか手慣れてる感があるし。

 ギイィ゙

 大分重い音。扉と壁の間に埃がびっしり詰まってる。

「おー明るい」

「ですね」

 屋上ってこんな感じか……思ったより汚い。数日前の雨、若干残ってるし。

 なんとなく屈みながら屋根の部分を抜ける。

「うおっ」

「すごいねぇ尚」

「……はい」

「空は広いんだ」

 何を当たり前な、と反射的に言いたくなったけど、オレも思ってしまった。秋空。どこまでも広がっているように思える。だけど、今見ている空も次に見たときには違っている。そんなふうに、いつの間にか冬がくる。そして春がきて、痛いぐらいに暑い夏がきて、秋がくる。その繰り返し。

「やっぱ学校って閉塞的だよね」

「え?まぁ確かにそーすね」

 自由という自由がなくて休み時間に校外に出れば怒られる。部活も半年は必須、休み時間は10分、昼休みだけ45分で、できることなんて限られてる。おまけにスマホは使用不可。

「え」

 先輩が屋上のはしっこに立っている。髪が風になびいて揺れる。ーー綺麗だ…………じゃなくて。

「ちょっと、先輩!」

「ん?なに?」

「危ないっすよ」

 オレは走って先輩に並ぶと同時に腕を取った。

「ねぇ知ってる?都会の子供は高い所、怖くない人多いの」

「は?」

「下が見える高層ビルとか住んでたら、それが当たり前だから慣れちゃって高い所怖くないんだって。だから子供が落ちる事件、多いらしいよ」

「……へぇ」

 下を見下ろす。言うほど高所恐怖症でもないけど、やっぱり……怖い。4階分の、いや5階分の高さがある。落ちたらきっと死ぬ。世の自殺する人はこれ以上の恐怖?苦しみに苛まれて、死を選んだのだろうか。

 オレは先輩の腕を引っ張って、来た道を戻る。

「もう帰るの?」

「帰りますよ。先輩、なんか危ないし」

「えぇ?」

 オレはしばらくこの細い腕を掴んだまま、歩いた。


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