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天才の弟  作者:
49/81

49 オシャレ

「あっれー草間クンじゃないかー」

 突然声を掛けられ、肩が跳ねた。

「あー小柳」

 話し掛けてきたのは同級生で同じ美術部の小柳冴だ。仲は普通。

「へぇーもう完成しそうじゃん」

「いや……細かいとこまで考えてたら、終わんない。そういう小柳は?」

「んー?私が終わると思ってるの?」

「いや思ってない」

「でっしょー?」

 小柳は前回の制作ーー文化祭で展示するための作品を作るときも、余裕をぶっこいていたせいで夏休み後半は毎日のように学校に来て制作していた。

 小柳の気持ちもわかるが、オレはそこまではひどくない。

「荒木は?」

「あーアイツはさっさと終わらせて、今は家でゲーム三昧だよ」

「荒木、アイツ……」

 荒木ーー荒木結弦もまた同学年の美術部員だ。

 同学年の美術部員は、小柳と荒木、オレの3人。男子はオレ一人である。

「草間クンさー」

「え、なに?」

 探るような目をしてこっちに向き直る小柳。なんだ、その神妙な顔は。

「なんか、かわいい先輩と付き合ってるって?」

「え?……いやいや付き合ってないって」

「お、じゃあ好きなん?」

「ん゙ん゙ッ」

 何かを飲んでた訳でもないのにむせる。ゲホゲホと身体を前に倒しながら、どうにか呼吸を整える。

「好きなんだ」

「ちがっ、いや、違わないけど……」

 思わず大きな声が出て、オレは慌てて声量を下げる。

 目の前の小柳はというと、にやにやとこちらを見ていた。なんだ、その全部わかってるよ、みたいな顔は。

「いいねぇ、青春だねぇ」

「いや、うん。まぁ……」

 なんと言えば良いのかわからず、曖昧に頷く。青春なのか?これは。

「先輩と一緒にいるから、最近こっちいないの?」

 小柳はオレの絵を眺めながら、そう尋ねてくる。オレも小柳から絵に視線を移し、答える。

「そう、だな。別の場所で描いてる」

「へぇーいいじゃん。なんかずるいな」

「ずるいってなんだよ」

「一人だけ青春謳歌しちゃってさ」

「あー……それはたまたまだよ」

「え?」

 その先を待っている小柳に気づかないふりをして、また絵を描き始めた。



 次の日。また、いつもの場所で先輩の隣にいた。

「……なんか知らない間に絵がオシャレになってんだけど」

 先輩が鑑定士かのように、絵に近づいては離れて、を繰り返している。ちょっと恥ずい。

「オシャレ……かは、わからんけど」

「いやいや、素晴らしいよ、これは」

 先輩は大真面目な顔をして、そう言った。

 この人の凄いところって、照れたり誤魔化したりせずに真っ直ぐ言えるところだよな。……真っ直ぐで、不安になる。そのくせ、自信があるのかないのか。なんなんだろ…………。

「尚!」

「あ、はい」

 先輩に呼ばれて慌てて顔をそちらに向ける。

「いや、なんか黄昏れてたから呼んでみただけ」

「あ、そうですか」

「うん」

  会話が途切れたタイミングで、オレは絵の具をパレットに出し、筆に油を少しつける。黒と白の絵の具をどばっとつけた。

 キャンバスにも、どばっと。

 モノクロで抜こうとしているのは、3箇所。そのうちの1箇所は昨日であらかた完成させているが、残りの2箇所は手付かず、という感じだ。

 時間はずっとある、余裕で間に合う、と思っていたが、明後日が終われば年末までに活動できる日はない。

 締め切りは年明けの1月10日。

 年明けに活動できるのは、4日以降となる。間に合うには間に合う……と思うが、そんなギリギリになりたくはないな。

 ほぼ無心で描いていることに気づき、なんとなく先輩の方に目を向けた。

 先輩はバインダーを開き、勉強をしていた。

「……先輩。別の場所で自習してもいいですよ?」

「え?いやいや、ここでやるよ。たまには、こういう場所で気分転換しないと」

「そういうもんすか?まぁ、先輩がいいならいいですけど」

 気を遣ってないだろうか、と思いながらも、本人がそう言うならいいや、と考えるのをやめた。

 ーーふとある疑問が頭を掠めた。

 時々、考えること。

「先輩は……どうして勉強してるんですか?」

「え?やんなきゃ駄目だから?宿題だし」

 きょとんとした表情でこちらを見る。質問の意図がうまく伝わってない気がする。

「えっと……それもそうですけど、テスト期間とかも勉強頑張ってたので……なんでかなって」

 なんか、緊張する。先輩は馬鹿にしたりしないのに。……いや、だからかもしれない。なんだか取り返しがつかないような、そんな不安だ。余計な不安だろうと思うものの、その感情は消えない。

「あー……でもやっぱりやんなきゃ駄目な気がするからかな」

 先輩は曖昧に、苦笑いに似た不思議な表情をした。

「そっか。そうなんですね」

 共感するのに容易かった。周りがしてるから、やらないかん、みたいな。やらないと、駄目、みたいな。なんとなくする。自発的ではない。

「逆に尚は?何を思って勉強してるの?」

「……オレは…………」

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