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天才の弟  作者:
47/81

47 目に映る

 数学の授業が始まった。

 オレはぼーっと前を見つめる。無意識に授業の内容からは遠ざかっていた。

 …………そういやあの絵、結局取りに来たのだろうか。あの、目、だらけの絵。

 今思えば、S.S. って書かれてただけで全くの別人ということはないんだろうか。現代の画家はあんまり知らないから、全然思いつかない。でもあり得ない話じゃない。あまりに圧倒されたから、それを兄に重ねてしまっただけ。…………違うか。オレ、あそこまで衝撃受けたこと、もう何年もない。自分の感覚を信じるなら確実に、あれは兄の絵だ。

 わからない。

 何が?

 浮かんだ言葉にすぐ疑問を抱く。

 何がわからないんだ?

 何もかも?

 それはそうか。あれが兄の絵なのか、兄の居場所はどこなのかも、ーーどうしてこんなことを考えているのかも。

 オレは何をしているんだろう。



「もうすぐ冬休みだねぇ」

「ですね。来週から半日授業だし、25ぐらいには休みに入りますよね?」

「うん、嬉しいけど一瞬で終わっちゃうんだろうなー」

 もうすぐ冬休みだ。結局、先輩と冬休み中会うのかどうか、わからない。きっと会うんだろうけど、連絡先も知らないのにどうするつもりだろう。学校じゃスマホ使えねぇし……ここ、全然人来ないし使ってもバレなくないか?

「今日時間ある?」

「……え?なんて言いました?」

 連絡先を聞こうかどうしようか迷っていると話しかけられた。

「今日時間ある?って」

「ありますけど、なんで?」

「じゃ、行こー!」

「え、どこに?」

 先輩は行き先を言わず、絵の片付けをし始めた。オレも戸惑いながら片付ける。

 なんだか先輩は嬉しそうだ。



「どこに行くのかと思えば」

「林和公園、来たことある?」

「いや、実はないです」

「私も一回しかない」

 オレ達は学校から電車で林和公園に来ていた。この公園は遊び場、という感じではなくて、どちらかというと大きな庭園のような感じだ。

 なんなら日本の自然遺産的な感じの場所らしい。こんな田舎にもそういう場所があったことを最近まで知らなかったが。

「結構広いんですね」

「そうだねぇ」

 都会に紛れ込んだ豊かな自然だ。なんか、転がって寝たくなるな。

 時間が流れてない、みたいなのってこういうことか。

「綺麗、だよねぇ」

「……うん」

 思わず敬語が抜けた。

 先輩は愛おしむように景色を眺めてる。でも寂しささえも孕んでいるように思えた。

 謝ろうと思ったけど、そのなんともいえない空気を壊すには気が引けて、そのまま何も言わなかった。

「あ、お団子」

「え?」 

 突然喋ったかと思ったら……団子?

「この公園の中、団子売ってんだよね。行こ!」

「え、あ」

 そのまま腕を引っ張られる。

「まさかそんな食いしん坊キャラだったなんて」

 冗談めかして言う。

「いやー、今日は特別」

「へぇ?」

「尚は食べる?」

「う〜ん」

 悩んだら置いてかれた。ゆっくりついていく。……なんか先輩うさぎみたい。


 先輩が帰ってくる……って、え?

「え、2本も食うんすか」

「違うわ。はい、尚の分」

「え?……あ、金」

「いいって。私が勝手に買って来ただけだし」

「じゃあお言葉に甘えて」

「うん。いただきます」

「いただきます」

 団子を思い切り口に含む。お、これは……

「……うまい」

「でしょう。私も初めて食べるけど」

「なんやねん」

「え関西弁」

「あーこれは、小平のせいですね」

「小平?」

 なんやねん、なんでやねん、は小平の口癖だ。オレもいつの間にか影響を受けてたのか、こわ。

「小平は、友達ですね。生粋の香川県民のくせに、よくなんでやねんとか、なんやねんて言うんすよ」

「へー」

「はい。どうでもいいっすね」

「いやいや……小平君か、今度探そ」

「探さなくていいですって」

「はははっ」

 二人で残りの団子を食べる。やっぱうまい。

「あーおいしかった」

「おいしかったっす。先輩ごちそうさまです」

「うん」

「あ、ゴミ捨ててきます」

「あ、ありがとう」

 オレは先輩の串も持って、店の中のゴミ袋らしき袋に入れる。ごちそーさまです。心の中で言う。

「じゃあ、また回りますか」

「うん、回ろー」

 先輩はスマホを確認する。あ。

「時間大丈夫ですか?」

「え?あ、うん。連絡してるから平気」

「なら、いいです」

 先輩は慌てたように言う。なんかまずいことでもあったのだろうか。でも、平気らしいし。うん?

「尚こそ大丈夫?」

「あー……一応連絡しときます」

 スマホを出してラ○ンを開く。えっと、今日ちょっと遅くなる、と。今もう6時半か。そんな経ってたっけ。

「おっけーです」

「よかった。あ、あっち行こう」

「はい」

 でも、もう暗くなってきたな。すぐ見えなくなりそう。

「はやくはやく」

「うい」

 あ、大きな橋。木々がかすかに水面に映る。

「え、先輩?」

 先輩はいつの間にか立ち止まっていた。

「…………?」

 そして意味深に笑った。でも、なんで暗くなってきたなか、こんなにはっきり、迷いなく、そうわかったのか。

 でも、それをゆっくり考える暇は与えられなかった。

「え」

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