44 フードコート
フードコートに着くとレストラン街より賑わっていた。主に学生…………というか、ほぼうちの学校の生徒だ。そういえば今回のテスト、期間が他とズレてたんだったか。だったら尚更、うちの学校の生徒しかこの時間はいないか。その辺の一般人以外は。
「で、何食べます?」
「んーどうしよ」
「まぁ、迷いますね」
ドーナツ、ポテト、ラーメン、たこ焼き、アイス…………いっぱいあんな。さすがにラーメンはガッツリ過ぎるな。
「何で悩んでます?」
「たこ焼き食べたいなって思ったんだけど、8個入りだよね、あれ」
「あーっぽいですね」
「ちょっとさすがに多いかなと思いまして」
「あ、じゃあたこ焼き、オレと分けます?」
「え、いいの?」
「あ、先輩がよかったらですけど」
「もちろん、もちろん。ありがとう」
「じゃ、早速行きますか」
二人で順番待ちをする。前には二組待っている。どれくらいかかるだろうか。
「たこ焼きの味は?」
「なんでもいいすよ」
「合わせてもらってんだし、尚が決めてよ」
「……じゃ、一番普通のやつで」
思ったより種類が多かったが、先輩も食べやすいものって考えると難しくなり、結局普通のにした。普通が何気に一番おいしかったりするし。
「ファイナルアンサー?」
「はい」
「おっけー」
注文を終え、呼び出しベル的なものをもらった。
「どこにしようか」
「そうですねぇ……」
辺りを見回す。どこにしようか迷うぐらいには空いている。
「あそこらへんにする?」
先輩が片側が壁になってるテーブル席を指差す。
「そうですね」
「楽しみだね、たこ焼き」
「そうですね」
「尚、さっきからそうですね、しか言ってなくない?」
オレ自身が思っていたことを先輩が言った。
「すみません、語彙がなくて」
「さいですか」
そのテーブル席に腰掛け、リュックを置く。あー、一気に楽になる。中身はほぼないとはいえ、長い時間背負っていると何気に負担だったらしい。
「ちょっと疲れましたね」
「うん、今日はよく寝れそうだ」
「うん、オレも」
なんとなくフードコートはうるさくて苦手なイメージだったけど、平日に来ると全然許容できるや。ゆっくりしてても怒られなさそうだし。
ヴーッヴーッ
「「うわっ」」
びっくりした。呼び出しベルのやつが突然鳴った。
「思ったより早かったですね。オレいってきます」
「あ、ありがとう」
たこ焼き屋さんの方に行き、呼び出しベルを渡す。
「お待たせしました、たこ焼きです」
「ありがとうございます」
わざわざトレーに入れて、渡してくれる。ありがたい。えーっと、箸、箸。
「え、草間くん?」
「え?あ、河原さん」
すぐ横にたこ焼きを手にした河原さんがいた。まさか校外で会うとは。彼女の隣には友達と思しき女子がいる。以下、彼女の友達。あまり見覚えがない。他クラスの生徒だろうか。…………河原さんって何部だっけ。もう二学期が終わろうとしていると言うのに、未だ部活さえ知らないクラスメイトが多い。
「…………」
「…………」
黙ったままでいると、彼女の友達は、先に席行ってるね、と去っていった。
どうしようか。別にこれといって話すこともないんだが。
「草間くんは小平くんと来たの?」
「え、あ、いや……先輩と」
先輩をそのまま先輩といって伝わるだろうか、と考えていると大分たどたどしくなってしまった。
「あーそうなんだ……」
「じゃ、えっと、テストお疲れ」
そう言って立ち去ろうとすると、服の袖を握られた。
「あ……」
「えっと……どうかした?」
たこ焼きが倒れないように気遣いながら、河原さんの方を向く。当の彼女は困惑したようにこちらを見ていた。
「あ、その……お箸!忘れてるよ」
彼女はそう言い、立てられた箸を取ってくれた。
「そうだった。ありがと」
「ううん。じゃあ、またね」
「うん、また明日」
河原さんと別れ、オレは席に戻った。
「おかえりー」
「ただいまです」
「……友達?」
「あ、はい。同じクラスの人です」
「そっか……あ、水取ってくるね」
先輩が目の前からいなくなる。途端、なんだか手持ち無沙汰だ。
なんとなく、先輩に付けてもらったクマの小さいぬいぐるみを手に取る。かわいい。
背もたれに寄りかかると、足元に大きめの封筒が落ちているのが見えた。なんだこれ。
拾い、興味本位で軽く中を覗く。これは、持ち主に心当たりがあるかもしれないから、その確認。そう頭の中で言い訳しながら。
「はっ?」
全身の毛という毛が逆立つ。
その中に入っていたのは紙切れ一枚だった。でも、ただの紙切れじゃない。
画面いっぱいに目が描かれていた。




