41 初めての嘘
ゆ◯タウンに着き、あったかい店内をぶらぶらと歩く。ほぼ来てないからどこに何があるのか全然わからん。オレは行くならイ◯ンが多いし。
「尚って、詳しい?」
「ん?何が?」
「ゆ○タウン」
…………あーそういうね。
「いや全然。先輩こそ詳しくないんですか?」
先輩は首を横に振る。
「友達と何回か来たけど、ずっとその子に付いていってただけだからさ」
「あらら。とりあえずマップ探しましょ」
「そうやね」
「あ、雑貨屋さんある。寄っていきません?」
「お、いいねぇ」
目にとまった近くの雑貨屋さんに入る。通路が狭いからリュックをぶつけないようにゆっくり入る。
「尚って割とかわいいの好きだよね」
「え?そうですか?」
そんなつもりはなかったが、まじ?
「うん。一緒に自習してたじゃん?筆箱にたぬきのキーホルダー付いてたし」
「あーそういやそうか」
普段目にし過ぎて何も感じてなかったけど、あれは確かにかわいいな。かれこれ、もう1年くらい経つのか?あれ買ってから。
「ねー尚」
「なんすか」
小物から先輩に視線を移す。とすぐ目の前に茶色いクマのぬいぐるみがある。
「うわ」
「尚に似合いそう。かわいくない?」
「似合う……?まぁかわいいです。結構割と」
先輩からそのぬいぐるみを受け取る。つぶらな瞳がかわいい。思わず口角が上がる。
綺麗に並んだぬいぐるみの棚を眺め、シロクマを手に取る。
「先輩ならこれですかね」
先輩とシロクマを見比べる。うん、ぽいな。肌白いし、なんかふわっとした感じがぽい。
「そう?こんなにかわいくないぜ?」
「そんなこたあ、ないですよ」
先輩はちょっと嬉しそうに、照れたように笑った。
値段を見てみる。880円。まぁそんなもんか。クマの首元にチェーンがついていて鞄とかに付けれるっぽい。
「ふっふ、かわいい」
先輩はクマのほっぺたを親指と人差し指で挟んでいる。なんというか、微笑ましい。
「……買おうかな」
悩む。オレは思わず声に出していた。
「まじ?」
驚いたようにこちらを見て、手元のぬいぐるみを眺める。
「…………」
「じゃあ私も買おーっと。おそろい、しちゃう?」
先輩がいたずらっぽく笑う。オレもなんだか嬉しくなる。
「そっすね」
会計を済ませ店を出ると、すぐにマップが見つかった。
「えーっと?あ、レストランが……あっち?」
先輩が、オレらが歩いてきた方向を指さす。
「…………」
「…………」
「まぁ、いい運動になりましたね」
「うん、そういうことにしよう。ぬいぐるみだって買えたし」
先輩がリュックにつけたぬいぐるみをこちらに見せる。それに少し驚く。
「もう付けたんですね」
「うん。かわいい」
「じゃ、オレも付けよう」
歩きながらリュックにしまったぬいぐるみを取り出す。…………が、うまく付けれない。
「不器用かっ」
「いやまじそれ」
「貸してー」
「え、はい」
通路の端に寄り、立ち止まる。つむじが見える。髪が揺れるのすら、なんだか愛おしく見える。魅力的に見える麻薬か何か、盛られているのではないだろうか。
「できた」
「えっ」
ぼーっとつむじを眺めていたら、先輩が顔を上げた。距離の近さに驚く。
スローモーションに見える先輩の表情を見ながら、つむじ眺めてたのバレたかな、とかくだらないことを頭の隅で考える。
透き通るような瞳。何もかも見透かせそうな、その瞳。目を逸せなくなる。
先輩が後ずさる。オレは思わず先輩の腕を取り、自分の方に引き寄せた。……まずい。衝動的にしてしまった。
…………オレってこんな奴だっけ。こんなことをしてしまえる奴だっけ。
いつでも理性で、ある程度感情を制御して、それなりを追求して、こんなことが起こることなんてなかったはずなんだ。
タイミング良く家族連れが先輩の背後を通る。
「えっと、人、来てたから……」
勿論、嘘である。でも、そうでもしないと……どうなると言うのだろうか。わからない。でも、反射的にそうした。それは事実だ。
「……うん」
先輩の腕を離す。それですら惜しく感じて、そんな自分が怖かった。
「じゃ、行きましょうか」
「そうだね。そろそろお腹すいたし」
どうにか空気を変える。ごめん、先輩。嘘ついちゃって。
オレは自分で思っている以上に、簡単に人を傷つけてしまえる側の人間なのかもしれない。その事実から目を逸らしたくなった。
隣を歩く先輩を見る。傷つけたくない。
オレはこの数十センチの距離を縮めるのが、怖い。そのくせにこのザマだ。
オレは、臆病で傲慢な奴なんだ。
思わず触れてしまわぬように、両手をポケットに乱暴に突っ込んだ。




