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天才の弟  作者:
41/81

41 初めての嘘

 ゆ◯タウンに着き、あったかい店内をぶらぶらと歩く。ほぼ来てないからどこに何があるのか全然わからん。オレは行くならイ◯ンが多いし。

「尚って、詳しい?」

「ん?何が?」

「ゆ○タウン」

 …………あーそういうね。

「いや全然。先輩こそ詳しくないんですか?」

 先輩は首を横に振る。

「友達と何回か来たけど、ずっとその子に付いていってただけだからさ」

「あらら。とりあえずマップ探しましょ」

「そうやね」

「あ、雑貨屋さんある。寄っていきません?」

「お、いいねぇ」

 目にとまった近くの雑貨屋さんに入る。通路が狭いからリュックをぶつけないようにゆっくり入る。

「尚って割とかわいいの好きだよね」

「え?そうですか?」

 そんなつもりはなかったが、まじ?

「うん。一緒に自習してたじゃん?筆箱にたぬきのキーホルダー付いてたし」

「あーそういやそうか」

 普段目にし過ぎて何も感じてなかったけど、あれは確かにかわいいな。かれこれ、もう1年くらい経つのか?あれ買ってから。

「ねー尚」

「なんすか」

 小物から先輩に視線を移す。とすぐ目の前に茶色いクマのぬいぐるみがある。

「うわ」

「尚に似合いそう。かわいくない?」

「似合う……?まぁかわいいです。結構割と」

 先輩からそのぬいぐるみを受け取る。つぶらな瞳がかわいい。思わず口角が上がる。

 綺麗に並んだぬいぐるみの棚を眺め、シロクマを手に取る。

「先輩ならこれですかね」

 先輩とシロクマを見比べる。うん、ぽいな。肌白いし、なんかふわっとした感じがぽい。

「そう?こんなにかわいくないぜ?」

「そんなこたあ、ないですよ」

 先輩はちょっと嬉しそうに、照れたように笑った。

 値段を見てみる。880円。まぁそんなもんか。クマの首元にチェーンがついていて鞄とかに付けれるっぽい。

「ふっふ、かわいい」

 先輩はクマのほっぺたを親指と人差し指で挟んでいる。なんというか、微笑ましい。

「……買おうかな」

 悩む。オレは思わず声に出していた。

「まじ?」

 驚いたようにこちらを見て、手元のぬいぐるみを眺める。

「…………」

「じゃあ私も買おーっと。おそろい、しちゃう?」

 先輩がいたずらっぽく笑う。オレもなんだか嬉しくなる。

「そっすね」


 会計を済ませ店を出ると、すぐにマップが見つかった。

「えーっと?あ、レストランが……あっち?」

 先輩が、オレらが歩いてきた方向を指さす。

「…………」

「…………」

「まぁ、いい運動になりましたね」

「うん、そういうことにしよう。ぬいぐるみだって買えたし」

 先輩がリュックにつけたぬいぐるみをこちらに見せる。それに少し驚く。

「もう付けたんですね」

「うん。かわいい」

「じゃ、オレも付けよう」

 歩きながらリュックにしまったぬいぐるみを取り出す。…………が、うまく付けれない。

「不器用かっ」

「いやまじそれ」

「貸してー」

「え、はい」

 通路の端に寄り、立ち止まる。つむじが見える。髪が揺れるのすら、なんだか愛おしく見える。魅力的に見える麻薬か何か、盛られているのではないだろうか。

「できた」

「えっ」

 ぼーっとつむじを眺めていたら、先輩が顔を上げた。距離の近さに驚く。

 スローモーションに見える先輩の表情を見ながら、つむじ眺めてたのバレたかな、とかくだらないことを頭の隅で考える。

 透き通るような瞳。何もかも見透かせそうな、その瞳。目を逸せなくなる。

 先輩が後ずさる。オレは思わず先輩の腕を取り、自分の方に引き寄せた。……まずい。衝動的にしてしまった。

 …………オレってこんな奴だっけ。こんなことをしてしまえる奴だっけ。

 いつでも理性で、ある程度感情を制御して、それなりを追求して、こんなことが起こることなんてなかったはずなんだ。

 タイミング良く家族連れが先輩の背後を通る。

「えっと、人、来てたから……」

 勿論、嘘である。でも、そうでもしないと……どうなると言うのだろうか。わからない。でも、反射的にそうした。それは事実だ。

「……うん」

 先輩の腕を離す。それですら惜しく感じて、そんな自分が怖かった。

「じゃ、行きましょうか」

「そうだね。そろそろお腹すいたし」

 どうにか空気を変える。ごめん、先輩。嘘ついちゃって。

 オレは自分で思っている以上に、簡単に人を傷つけてしまえる側の人間なのかもしれない。その事実から目を逸らしたくなった。

 隣を歩く先輩を見る。傷つけたくない。

 オレはこの数十センチの距離を縮めるのが、怖い。そのくせにこのザマだ。


 オレは、臆病で傲慢な奴なんだ。


 思わず触れてしまわぬように、両手をポケットに乱暴に突っ込んだ。

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