4 放課後
「ねぇ、尚」
「なんすか先輩」
「なんで絵、描いてんの?」
「なんでって、そんなの……」
ちらっと先輩を見る。大きな瞳でこちらを見ていた。なんとなくそらす。
「……たぶん、好きだから」
「へーそっか。そうだよねー」
視線が、外れた気がする。
なんで、か。オレもオレ自身に何度か問いかけたことがある。オレはなんで絵を描くのか、なんのために描くのか。でも、いつも何かがつかえたまんま。
「羨ましいなぁ。私もなんかあったらなぁ」
「なんかって」
「うん、好きなもの」
「ありそうなのに」
半分独り言で言う。こんだけ知らない人に話しかけられんだから、好きなものぐらいあるでしょ。
「……ないんだ。私にはなぁんにもない」
視線を先輩に向ける。と、何か小さい声で言った。
「な、」
「ねぇ、尚」
なんて言ったんですか、と言おうとしてすぐ遮られた。
「……何ですか」
「いや……なんでもない。何言おうとしたか忘れちゃった」
ははっと笑い飛ばされた。
「屋上、行ってみたくない?」
「え……まぁたしかに」
「行こう!」
「え、は?」
なんだと思う間に腕を引っ張られる。
「あ、ちょ」
筆がキャンバスに当たる。あーあ。
「ごーごー!」
空気なんてガン無視でずんずん進む。
廊下にぜんぶ、置いてきたじゃねぇか。