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天才の弟  作者:
39/81

39 世も末だけど

 先輩と一緒に勉強していたおかげで、テストに対してなんかよくわからない自信がある。

 テストだけで学校が午前の日は、先輩と話して一緒には残らず、それぞれで決めることにした。お昼を持ってこないといけなくなるし、お互いに係の仕事があるだろう、ということで。普段一緒にいることが多い分、なんか寂しい感じはあったがこれが最善だろう。

 今日はテスト2日目。ちょうど折り返しだ。しまでん通いの小平と別れて、オレは駅に向かう。歩きながらリュックからスマホを出し、電源を入れる。…………あれ、前方を歩いてる人、見覚えが…………なんか違うけど、歩き方の感じも先輩だし、多分きっとおそらく先輩だ。大分離れてるから追いつくのは諦めよう。どうせ駅で会うだろうし。

 先輩の後ろ姿を眺めながら歩く。信号で追いつけるか?いや、青になった。無理だな。…………けど、止まってる?先輩、渡らないのか?あ、歩き始めた。……うわっ。

「まじか……」

 思わず独り言が漏れた。

 先輩は人助けをしていた。未来に起こることを知っているときの動きだ。

 すれ違う人とその後方から来るチャリがぶつかりそうなところを先輩が手を引いて避けたのである。チャリの方はスマホでながら運転だ。警察いたら捕まってるな。

 先輩のほうを見る。と、あれ?なんか変な空気。

 相手の女性の方が状況をわかっておらず、先輩を非難の目で見てる。先輩はただ助けただけなのに。その女性はそのまま先輩を置いてこちらに向かって歩きだす。あんまりジロジロ見ないようにしてたら、振り返った先輩と目が合った。ちょっと気まずそうに笑ってる。

 なんで助けたほうがこうなってるんだろう。優しさが、こんな形で返って来るとか…………世も末だな。

「やっほー尚」

「どうも」

 待ってくれていた先輩の横に並ぶ。何もなかったかのように笑った。

「…………」

「さっきの」

「うん」

「先輩が助けたのに、あんな態度」

「そういうもんだよ」

 また先輩は笑った。困ったように。そういうもんだよって…………。オレは言いようもなく、ただ感情を持て余す。

「先輩が見返りを求めてやってる訳じゃないのもわかるけど…………」

 その後の言葉が浮かばない。なんて言えばいいのか。そもそもオレは彼女に何を言いたいのか。

 先輩はきっと今までも、これからも沢山人を助けるんだろうけど、いざ先輩が困ったときに助けてくれる人はいるんだろうか。

「これは私のエゴ。やりたいからやる。それだけ」

「………………」

 のんびりした口調なのに、意思が凄く感じられる。

「でも、そんなかっこいいものでもないかも。私が、やらなかったらめちゃくちゃ引きずるから、かな?」

 明るく笑って見せる先輩。だけど、違うよな。絶対その言葉の裏に色々あるんだろ?言ってくれないんだろうけど。

「尚?」

「あぁ、聞いてます。先輩がしたいようにすればいいと思う…………けど」

「けど?」

 先輩がこちらに視線を寄越す。そうだな。これが今のオレの精一杯かな。

「困ってても困ってなくても、なんでも言いたいことは言ってください。オレが、先輩が色んな人にあげた優しさを返すので」

 笑って見せた。でもこれが今のオレの気持ちだ。先輩が色んな人を助けるなら、先輩はオレが助けたい。

 先輩は驚いたのか、こちらをじっと見て、そしてーー嬉しそうに笑った。

「尚がそう言ってくれるなら、なんでもできそうだ」

 先輩は空を仰ぐ。オレもつられて仰ぐ。あー青いな。空気が澄んでいる感じがする。ちょっと寒い。

 あ。

「なんか違うなって思ったらマフラー巻いてるのか」

「え、今?」

「うん。今気づいた」

 先輩は黒っぽいチェックの柄のついたマフラーを首に巻いている。似合うな。

「尚もつけなよ、マフラーとか」

「そうですねぇ……いつも忘れるんですよね、そういうの」

「ギリギリまで準備しないからでしょ」

「バレたか」

「……風邪、ひかないようにね」

 照れたように先輩は言った。そんな優しい言葉掛けられたら、ね?惚れてまうやろ。

「…………気を付けます」

 明日からはマフラーか上着か。なんか着て来よう。

「あ、そうだ尚」

「ん?なんです?」

 先輩を見る。なんか、ちょっと迷ってるような。

「木曜、テスト終わった日さ、時間ある?」

「あ、はい。部活も休みなんで」

 普段からそんな真面目に行ってる訳じゃないけど、その日は本当にちゃんとした休みだ。

「じゃあさ、一緒にお昼食べにいかん?」

「え、行く」

 突然の誘いに驚きつつ、即決する。やった。楽しみが出来た。

「あははっやったー。約束ね」

「はい」

 オレと目線を合わせて先輩は言った。

 オレ達は仲良しだ。端から見たら、というだけじゃなく、本当に。時間しか共有してない。でも、それで十分だと思えるほどに、オレ達はすぐそばにいる。先輩のことを一番に理解している、なんて傲慢なことは思えないけど、今の先輩を知るのはオレだけ。誰かが先輩を傷付けても、オレは先輩を傷付けない。無意識にやってしまうことは否定できないけど、できるだけ嘘にならないように、そばにいるよ。

 …………けど、まぁ。とりあえず、テスト頑張るか。

あけましておめでとうございます!

よければ、今年もよろしくお願いいたします!

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