表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才の弟  作者:
38/81

38 どんな

「依さん」

「……尚」

 驚いて固まっているようだった。でも、そんなに?

「依さん、そろそろ勉強しに行きません?」

「え、あ、うん。そうだね」

 はっと我に返ったようにオレから目を離し、リュックを背負う。

「じゃ、また明日」

「え、じゃー、ねー…………」

 先輩がこちらに早足で来る。さっきまで話していた人達は呆然とオレ達を眺めていた。…………いいのか、あれ。先輩を見ると、未だ驚きを隠せない、というような顔でこっちを見ていた。

「……な、なんですか」

「いや、え、何さっきの」

「え?依さんって言ったこと?」

 こくりと先輩は頷いた。嫌だったか?確かに先輩は先輩でも、神原さんや神原先輩、依先輩とか他にも呼び方はあったか。でもあのとき、ぱっと頭に浮かんだのが、依さん、しかなかっただけだ。

「……周り、先輩しかいなかったから」

「そ……まぁそれもそうか」

 一瞬、は?とでも言いたげな顔で見られたが納得したらしい。まぁ、これ以上聞かれたってオレは答えようがない。

「あ、先輩。チョコあげる」

 横を歩く先輩に小さいチョコを渡す。

「え、やったーありがとう」

「いえいえ」

 迷うことなく受け取ったな。めっちゃ幸せそうな顔してるし。今日のうちのクラスのあの雰囲気とは大分違う…………うん、やめておこう。

「てか呼び方、先輩のままなんだ」

 早速チョコを口に入れながら言う。

「え…………依さんって呼んでほしいですか?」

 気になって聞いてみた。まぁ、特に考えることもなく思ったことを言っただけなんだろうけどな。先輩なら。

「……悪くはないかなーって思っただけ」

 オレは思わず立ち止まる。先輩は早足で先へ進んでいく。…………なんだあれ。かわいい。

 オレは先輩のもとへまた足を進める。

「先輩、待ってくださいよー」

「え、やだ」

「やだ?」


 今日もそれなりに勉強をした。思ったことは、先輩の集中力ってすげぇなぁ、ということだけだ。オレの場合、4stepとやらは途中から事務作業のようになってしまった。解けたは解けたけど、脳みそに入っていないような感じ。…………まぁ、テストはどうにかなるでしょう。知らんけど。

「あ」

「え?」

「雨」

 先輩が外を指差して言う。オレも外を見る。ほんとだ。しかもかなり降ってる。なんというか、小雨がいっぱい降ってるような。…………小雨がいっぱい降るならもう小雨じゃないよな。でも大雨、というほどでもないし、なんて言うのが適切なんだろう。

 オレはとりあえず鞄から折り畳みの傘を出す。電車乗るまではいいけど、駅からは濡れるな。カッパは持ってないし、チャリで爆走すっか。

「あれ、先輩、傘は?」

 先輩は何をするでもなく、雨をぼーっと見つめていたが、オレの声でこちらを向く。心底憂鬱そうな顔で。

「忘れたです」

「日本語変ですよ」

 オレは傘を開く。普通の傘より小さいけど、無いよりマシだろう。

 先輩と距離を詰め、傘の中に二人が入るようにして歩きだす。

「帰りましょう」

「え、でも尚が濡れるでしょ」

「雨に濡れる娘を置いて帰れって?無理ですよ」

「娘……」

 なんか呟いていたがスルーして、バシャバシャと地面を踏みしめる。滑りそうだ。横目に先輩を見る…………離れすぎだろ…………。

 手を取り、少しオレのほうへ引き寄せる。

「え」

「あ、すみません。突然、こわいですよね」

 オレは慌てて手を離そうとする。

「こわく、ない」

 先輩がそう言い、離そうとしていたオレの手を握ってくる。

 オレ達はどちらからともなく立ち止まった。目が合う。雨で湿気を含んだのか、潤って見える瞳がやけに色っぽくて、思わずキスしたい。そう思ってしまった。

「……昨日、由紀ちゃんとどんな話した?」

 由紀ちゃん?一瞬誰のことかわからなかった。山田先輩のことか。

「どんなって……」

 …………まじで大したこと話してないぞ?先輩は何を気にして…………。

「ごめん!」

「え?」

「仲良い後輩が友達と仲良くなるの、ちょっと寂しいなって思っただけだから」

 先輩は笑った。でも目は笑ってない気がして。先輩のことがわからない。もっとも、わかるなんて思ったら間違いなのかもしれないが。

 先輩がゆっくり歩きだし、オレもそれに続く。

「何も、話してませんよ。連絡先交換して、お礼何がいいかとか。でもオレ、やっぱりお礼はいいって言って、帰っちゃった」

「……なんで?」

「さぁ?なんか、めんどくさくなったんじゃないですか?」

 本当は違う。オレが山田先輩と話すのが嫌になったから。もっと言えば、山田先輩より、先輩と話していたいと思ったから。

「じゃない?って自分のことなのに……」

 呆れて見せる先輩は、どこか嬉しそうにオレの目に映った。その表情の意味はなに?先輩はオレのこと、どんなふうに思ってるんだろう。

いつも読んでくれてありがとうございます!

先日、全てのエピソードを段落の最初を一字下げしました。内容に変化はないので、気にしないでください。

全然関係ない話ではあるんですが、短編を書いて投稿しました。『俺の初恋泥棒について』という話です。よければ読んでみてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ