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天才の弟  作者:
34/81

34 テスト期間

 気がつけば、朝のショートホームルームが終わった。そして何一つ聞いていなかった。

 少し席の離れた小平のところに行く。

「小平。テスト期間いつからだって?」

「はぁ?あんなに念押しされてたのに、聞いてなかったんか?」

「いや、意識がなかった」

「そんな堂々と言われても」

 呆れられた。小平にも呆れられるとは。ちょっと心外だ。

「来週の月曜からだってさ」

「そっか、あざす」

「へいへい…………あ、草間、聞いたか?あの噂」

「あの噂って何」

「いや大したことはないし、本当かもわからんのやけど」

「おお、はよ言ってくれ」

「靴箱前に飾られてるでっかい絵、あるやん?あれ描いた画家が今この辺にいるとか」

「は?」

 …………まさか。もうずっと音信不通のアイツが帰ってきた?今更、ふざけんなよ。


「じゃあ、ワンチャンその画家に会えるじゃん」

「だよね、ここの卒業生なんでしょ?サインほしいー」

 その噂は意外にも広がっていた。おそらく口だけだろう、サインをほしいという声がかなり聞こえた。

「名前、なんだっけ?」

「確か……草間卓」

「草間ってうちのクラスにもいるじゃん」

「たまたまじゃね?」

 たまたまだ、と自分にも言い聞かせた。じゃないと、また…………。


「来週からテスト期間だー」

「ですねぇ、嫌すぎる」

「正直だ」

「誰でもそうでしょ」

「いや、顔が正直すぎる」

「は?顔?」

 先輩と一緒に帰る。今日は絵に関しては全く集中できず、ただ時間を溶かしただけだった。

「…………テスト期間、どうする?」

 先輩がおずおずと、探るように聞く。どうする、か。これはどう言うのが正解だ?

「えっと……先輩は、どうしたいですか?」

 聞かれたのに質問で返す。我ながら嫌な奴だ。他人をどうすれば傷付けず、ただ穏やかでいられるのか。そういうことを考えるのが面倒で、こういう自分の言葉でなんとなく決まっちゃうようなことは、大体逃げている。

 先輩と出会って最初のほうこそ、迷惑だ、とか言っていたが、まぁ今は関係性が違うし。

「私かぁ……私は、一緒に勉強したい、かも」

 たどたどしく、そっぽを向いてそう言った。その言葉に、その行動に、いちいち鼓動が速くなる。これがどういうことなのか、なんて、聞くまでもないよな。でもオレはまだ認めたくない。

「…………じゃあ、一緒にしますか」

「……うん!」

 嬉しそうに笑った。オレはその顔が見られただけでもう十分だった。何もいらないと思った。


 じゃあねー

 別れるときに聞いた先輩の柔らかい声が頭の中で、繰り返し響く。…………そういえば、あの噂のこと聞かれなかったな。今日はあれだけ噂が蔓延っていたというのに、なんで聞かなかったんだろう。聞かれたら嫌ではあるが、聞かれないと逆に気になってきた。

 昨日、あの絵を眺めていたのは何か関係あるんだろうか………………知ってるとか?いや、まさかな。


「ーーということで、今日からテスト期間に入ります。テスト範囲は前に掲示しておくので、メモするなりなんなりしてくださーい。じゃ、号令かけて」

「きりーつ」

 ついにテスト期間か。嫌だ。嫌すぎる。

 テスト範囲はまぁ、クラスのチャットで送ってくれるだろう。これまでそうだったし。勿論、こっそりスマホで写真を撮って、だ。

「だるいな」

「おお、はよ」

「うーい」

 明らかに曇った顔の小平。おまえの気持ちは死ぬほどわかるぞ。

「草間は今回も自習する奴らほっぽって、即帰宅だろ?」

「言い方ひでぇな。そうだな…………いや、今回は勉強する」

 先輩と約束したし。ん?どこで勉強すんだろ。

「だよな、草間はそうじゃないと…………は?」

「んだよ」

「え、なんつった、今。勉強するって」

「ああ言った言った」

「うわまじか。どういう心境の変化だ」

「心境の変化っていうか、せ」

「待った。当てる。これは思うに…………」

「はよ言え」

「あの美人な先輩の効果だな!」

「あーはいはい。ソーデスネー」

 スルーしながらも、やっぱ先輩って美人なのか、と思った。嫌だな、誰から見ても魅力的な人であるのは。先輩のことはみんな、知らなくていい。…………オレって独占欲強いんかな。彼氏でもないのに。

「草間が冷たい」

「いやいや平常運転だ」


「どこで勉強するんですか?」

「はっはっは」

「なんすか、それ」

 オレ達は階段を降りていく。今は3階を降り始めところ。先輩の生息地域。

「あ、先輩」

「んー?」

「テスト期間中はオレが先輩の教室行きますよ」

「え、なんで?」

 先輩は足を止める。オレの次の言葉を待っている。

「だって、上がって降りてってしんどくないですか。まぁ、どこに行ってるのか知らないですけど」

「え、あー、いいのに。でもありがと。そうしよう」

 微笑んだ後、また歩き始める。

「はい」

「ちなみにどこでやるんですか?」

 もう一階に辿り着いてしまう。まさか校外でやるんだろうか。

「…………着いたよ」

「え、図書室?」

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