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天才の弟  作者:
30/81

30 休み

 今日は休みだ。幸せだ、と思うと同時に暇だなとも思う。平日は疲れて休みたいと思うのに、いざなってしまうと時間を持て余す。

 休みの日の朝は11時くらいまで寝る。正確には何度も起きて何度も寝直している、ということなんだが。身体がしんどくなるとわかってはいても、結局二度寝が許される状況に幸福を感じてしまう。

 今は12時21分。朝飯が遅いせいで全くもってお腹が空いていない。親も今日はいないからまだいいや、とスマホを手に寝転ぶ。

 流れ続ける動画を適当に飛ばしながら見る。別にそこまで見たいわけでもないのに、永遠に続けられる。時間だけが溶けていく。もったいねぇ。でも簡単に動けねぇ。…………先輩って休みの日何してんだろ。先輩の私生活って想像できないかもしれない。なんか良くも悪くも完璧に見える人だし、それでいて人間味もある。でもオレにとってその人間味がまだまだ計り知れないと思うばかりだ。

 天井を眺める。白い。白いな。オレはこんな綺麗な家に住めてきっと恵まれていて、幸せなはずなんだ。それなのに、何かが引っかかっているこの感覚はなんだろう。まぁ、その理由は明確か。

 オレは立ち上がり、リュックに入れっぱなしだった小説を取り出す。どっちから読もう…………『みちをゆく』は一回読んだことあるし、『観光の街』からにしよ。


『ここは観光の街だ。』


 その一文から始まった。

 ある少年は観光の街に住んでいる。外国人も含め、多くの観光客が行き交う街をランドセルを背負い、毎日学校に登校している。退屈でつまらないはずだった少年の日常がある違和感から小さな冒険に。そして事件に片足を突っ込むことに。かつて、この観光の街では凶悪犯罪が起こっていたのだ。


 という感じだ。これが今読み終わった一章の話だ。どうやら五章構成らしい。

 それは良いとして…………ミステリーで主人公がまさかの小学生とは。それなのに読みやすい文章だった。これはもしかしなくても、あたりかもしれない。

 読むのが止まらなくなる前にキッチンに移動する。食うもん食うもん…………あ、冷凍うどんあんじゃん。釜玉うどんにしよう。うどんを袋のままレンジで温める。…………ちょっと量足りないよな。

 キャベツと人参を冷蔵庫から取り出し、切っていく。1人だから適当に少なめで。フライパンに入れ、ついでにもやしも突っ込む。

 ピーピー、とレンジが鳴る。そうだ。うどんがメインだった。まぁ、とりあえずほっとこ。ちょっと待っててレンジくん。

 野菜たちを焼き肉のたれで、これもまた適当に味付けする。まぁいいっしょ。器にうつした。

 卵を割り、とく。白身のところを軽く切り、うどんを投入。

「あちっ」

 温めてから時間経ってたから油断していた。普通に熱い。

 で、麺つゆを手にテーブルに移動した。準備完了だ。じゃあ。手を合わせて、

「いただきます」

 早速うどんから。麺つゆと卵とうどんを絡ませる。うん、安定の美味さ。たまに食べるうどんはやっぱりうまい。弁当をいつも作ってくれている母には感謝しているつもりだが、温かいごはんのほうが美味しいものは美味しい。

 うどんを呑み込み、野菜も食べてみる。あー意外と美味しいじゃん。咀嚼音だけがリビングに響く。…………テレビつけよう。

 あ、2時だったのか。テレビの中の人もうどんを食べてる。肉がいっぱい入って…………うまそう。オレだって食べてるものはうどんなんだけどな。


 昼飯を食い終え、自分の部屋に戻る。小説を読もうかと一瞬思ったが、やっぱりやめ、絵を描くことにする。親が帰ってくる前に。

 筆と絵の具、水入れを準備し、スケッチブックを広げる。…………何を描こう。なんとなく描きたいものはあるが、まだ形がイメージ出来ていない。ただ長い間思っているのは抽象画が描きたいということだけだ。

 どーすっかなー。悩みながらも絵の具を垂らし、画面いっぱいに色んな色が載るようにする。ーー淡い。繊細すぎる。

 違う。オレが描きたいのはもっと、こう…………パンチがあるような、圧倒的な何か。でもいざ、原色のまま色を載せようにも躊躇う。

 ーーオレは何が描きたいんだろう。

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