27 いまを生きてる
「先輩ってしまでん?」
「え、あー」
片付けを済ませ、オレたちは5階から階段を降りている。ちなみに、しまでんというのはローカル電車だ。うちの学校から、しまでん、JR、どちらの駅も徒歩10分以内で着く。
「チャリっすか」
「いや……JR」
先輩は言いづらそうに喋る。なんか、いたずらがバレて焦ってる子どものような表情をしている。なぜ。
「え、JR?なんすか。一緒です」
少し驚く。というのも周りにJR民が少ないからだ。ことでんのほうが学校から近いせいだろう。あとは乗り換えの駅が1本先にあるから。
「あーうん、知ってる……てかなんで?」
なんで知ってんの?その前に答えるか。
「ずっと何で学校来てんだろうって疑問で。聞こうと思ってもタイミングが……」
「なるほど」
最後まで言い切らなくても納得してくれた。余計な説明しなくていいの、ありがたい。
「そっちこそなんで知ってるんすか」
「朝ちょくちょく見かけるから」
「へぇ?ちなみにどっち方面すか?」
「……下り」
「一緒じゃないすか」
「うん、まぁ……」
今の先輩はいつになく歯切れが悪い。つーか、目が合わない。
なんで言わなかったんだろう。言う必要がないと思ったのかもしれないが。
一階に着く。JRなら向かう方角は同じだ。
「じゃあ一緒に……ってなんでそんな顔してんすか」
先輩を見ると嫌そうな顔とはちょっと違う。そうだな、困惑した顔、というのが一番合うだろうか。そんな顔をしていた。
「いや、えっと……」
「あ…………もしかして帰りも一緒が嫌だったからーー」
「違う!そうじゃなくて……」
珍しく先輩から大きな声が出た。オレは口を噤む。
「………………」
「帰りまで一緒にいたら、なんか、申し訳ないっていうか……言ったら色々気ぃ、使いそうだなって……」
「ははっ」
思わず笑いが漏れた。それを、は?とでも言いたげな顔でこっちを見る先輩。
「え。なんで」
「先輩ってへんなとこ、気にするよね。てか今さらでしょ。散々追いかけてきてたのに」
あれはいつだったか…………いや、そんな昔じゃねぇな。
「……たしかに」
「でしょう」
先輩は若干下を向いて考えてる。まつげ、長いな。
「つーことで、一緒にかえろ、先輩!」
「うん……って、えっ?」
先輩の手首を握って走り出す。あーリュックが左右に揺れる。まじで走りづら。
「な、なんで走んの?」
「走ったほうが一瞬でしょう?」
「なに、その理論!」
「はははっ」
オレはきっとこの時、すごく幸せだった。なんのしがらみからも逃れて、ただ、いまを生きてるって。そんな感じ。
友人でも恋人でもない。そんな曖昧な関係が逆に心地よかったのだろうか。
2話編集しました。大して支障はないですが、気になる方は、見てください。
しまでん、は架空のローカル電車です。




