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天才の弟  作者:
26/81

26 なんか、かわいいなって

「1年2組小平恭平さん 至急大会議室に来てください。繰り返しますーー」

 飯を食い終わったタイミングで校内放送が流れた。

「おまえじゃん」

「同姓同名の他人じゃないの」

「2年2組にはいねーよ、そんなん」

 つーかまじでいるんだ、こんな呼び出され方する奴。

「何やらかしたんだ」

「なんかあったっけ…………?あ。あれだ」

「あれ?」

「委員会。風紀委員会」

「やべーじゃん。行け?」

「え、ちょ、まじで行きたくない。草間一緒に行って怒られようぜ」

「無理。がんば」

 ガッツポーズを見せて冗談半分で応援する。小平はすげぇ苦々しい顔をしてる。はよ行かんとやべぇんじゃね?大分渋りながら行った。後で聞かないかん。

 とりあえず弁当箱をしまう。暇になったな。今は12時55分。次の授業は13時20分から。寝るか…………あ、そうだ。図書室に行こう。先輩に貰った栞もあるし。生徒手帳を手に廊下に出ると、思っていたよりも閑散としていた。教室を覗くとみんな弁当をつつき、談笑していた。オレらが食べるの早かっただけか。中央階段を降りる。オレの足音だけが妙に響いた。微かに誰かの笑い声が聞こえる。

 3階まで降りたところで、誰かが出てきた。あれ。

「やっほー」

「っす」

 先輩だ。こっちに手を振っている。さすがに後輩なんで手を振り返すのは、ハードルが高い。軽く会釈だけする。先輩は柔らかく笑って、友人と思しき人と歩いていった。やっぱオレら仲良しじゃね?そんなことを考えながら自分の機嫌が良いことに気づいた。

「こんにちは」

「あ、こんにちはー」

 図書室に入ると司書の方がこちらを見て挨拶をしてくれる。初めての図書室だ。

 どこから回ろうかと迷いながら、入って右手の小さな本棚に向かう。知ってるけど読んだことがない作家さんたちの本が並ぶ。懐かしいな、『みちをゆく』。そうそう。笠島奈穂さんだ。

 手にとりパラパラと捲ってみる。これを読んだのは中2のときだったか。あの頃は頻繁に図書室に通い、笠島さんの本を色々借りてた。読むのは遅い方だから、何度も借りて。この人の他の小説も読んだが、やっぱりこれが一番好きだった。

 また読んでみるか。その本を片手にもう一冊借りようと、見ていく。………………うーん、何にしよう。『観光の街』がぱっと目に入る。あらすじを読む。へぇ、ミステリーか。ぽくないタイトルだ。ミステリーあんまり読んだことないけど……うん、ちょっと読んでみよ。時刻を見ると13時8分。割といい時間だ。借りてゆっくり帰ろう。

「これ借ります」

 司書の方に本2冊と生徒手帳を差し出す。手際よくバーコードを読み込ませている。

「お待たせしました。11月11日までです」

「ありがとうございます」

 図書室を出てまた中央階段から上る。

「あれ、草間ー?」

 後ろから名前を呼ばれ、振り返る。

「お、小平じゃん。どーだった?」

 言いながら大会議室って一階だったか、と頭の隅で思い出す。

「怒られんかった」

「よかったな」

 期待外れに怒られなかったらしい。ちょいと残念。

「いや、それがさぁ、逆に怖いわけよ。じゃ座ってって言われてとりあえず座るけど、目が!まじで人殺せそうな訳!」

「あー実はめちゃくちゃ怒ってるやつ」

「そう!むしろ怒ってくれとさえ思った」

「やば」

 ははっと笑うが、それを受ける側はまぁきつかっただろうな。元はといえば小平が悪いけど。

「つーか草間はなんで一階に……あ、図書室?えそんなキャラだっけ」

 小平はオレの左手にある本を見て、目を丸くする。

「実は文学少年なんだ」

「え、まじ?」

「嘘。高校入ってから初めて読む。中学のときは読んでたけど」

「へぇーそっか。おれは活字読むと寝ちゃうからなー」

「漫画のキャラみてぇな」

「いやいやまじで」


 今日も放課後がやってきた。

「先輩、チロルチョコありがとーございます」

「お礼のお礼なら要らないよ?」

「いやいや。おいしかったし」

「ならよかった」

 今日も油絵の続きを描くつもりだ。また屋上前の踊り場にて準備する。

「にしても、ポケットに入れてたら溶けたかもしれないのに」

「私も一瞬思ったけど、尚だったらそんなに真面目に体育しないかと思って」

「まぁ、たしかに」

「でしょー」

 先輩はそう言いながら壁にもたれて目を瞑る。

「寝るんすか?」

「寝るかも。私を置いて帰らないでね」

 目を瞑ったままそう言う。

「帰って寝たらいいのでは」

 断るだろうと思いながら言ってみる。

「それは却下で」

 やっぱり。先輩はほぼ、というかずっと放課後はオレと一緒にいる。何か理由があるのかもしれないが、聞いたってはぐらかされる気がずっとしている。

 先輩から目を離し、絵を描く準備をする。どこから塗ろう。何日も描いてはいるが、まだ色という色は全然塗れていない。とりあえず全体にちゃんと色が載るように頑張ろう、今日のところは。

 題材にしている写真を片手に、筆を油で湿らせ、絵の具をとる。そのままキャンバスにベタっとつけた。


 先輩のチョコおいしかったな、とか、テストがちょっとずつ近づいてきた、とか、なんにもせずに寝られる幸せ、とか、考えてはすぐ忘れるようなことを考えながら描いていると割と進んでいた。夢中になるのとは違う。でも、もうちょっと。もうちょっとやりたい。一応腕時計で時間を確認する。あ、6時前。部活自体は6時までだ。やめるべきだとわかるが、もう少し、もうちょっと、と絵の具を載せる。ーーと筆が落ちた。

 一旦動きを止めた。もうやめとくか、描くの。あんまり遅くなってもあれだし。

 先輩を見る。と筆を落としたにも関わらず、ぐっすり寝ている。…………無防備すぎんだろ。

 オレは使ってないほうの筆で彼女の頬をつつく。

「せんぱーい。おきてー」

「んーー」

 先輩はゆっくり瞼を上げる。寝起きすらかわいく見える。

「ふっ」

「なに?」

 掠れた声で聞かれる。めっちゃ寝てたもんな。

「なんか、かわいいなって」

 いつかに言われた言葉を今度はオレが言う。が、思ったよりこれは照れる。

「え…………ちょ、何言ってんの」

 先輩は最初意味が理解できなかったのか、変な顔をしていたが、今は頬を赤くして焦ったようにこちらを見ている。

 オレはとぼけるように笑った。

「かえろ、先輩」

図書室のところ、編集しました。架空の作家と小説にしました。たびたび編集してすみません。

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