25 感情がわかったら
「あの先輩と付き合ってるの?」
「え」
結構ガチトーンで聞かれた。
「………………」
「えっと……付き合ってないよ」
彼女は一瞬安心したような表情を見せた。
「そっかー。仲良さそうに見えたから」
さっきと比べ、表情が柔らかくなった。これって、もしかして…………いや、仮に違うかったら失礼すぎるな。
「まぁ、あの人距離感おかしいから」
オレは軽く笑って見せる。口から出たその言葉は、自分に言い聞かせようとしたのかもしれない。
「不思議な雰囲気の人だよね」
「ね」
とりあえず頷いた。不思議であることにはこの上なく共感する。
彼女は時計を目をやり前を向いた。オレも教科書を机から引っ張り出す。
もし、他人の感情がわかるなら、この世界はどうなってしまうのだろう。
2時間目の退屈が過ぎる古典が終わり、体育に行く。正直面倒くさい。なぜわざわざ体育館まで移動して、シャトルを打ち合うんだ。謎だな。
「草間行くぞー」
「うい」
肩に体育館シューズと体操服の入った袋を肩に担ぐ。
「ねみー」
「ほんまにな」
人の波に紛れ込みながら歩く。近くにはなんか大ウケしてる女子グループ。なんでそんな楽しそうなんだ、キミたちは。
「どーいう顔?」
「え、元からこんな顔だけど」
「目が死んでるってよー」
「それも元から」
「それもそうか」
納得された。ちょっとは否定しろ。まぁいいけど。そういや、目が死んでるって先輩にも言われたな。
「今日からダブルス?」
「いや、まだじゃね?来週からって言ってなかったか?」
「そーだっけ?リーグ戦、終わってないんか」
どーでもいいような会話をしながら着替える。今日から春以来の長袖だ。さすがに寒くなってきたし。
「もう長袖?」
「もう11月。妥当妥当」
「いやまぁ、そうかもだけど。動いたら暑いて」
「省エネ運動するから大丈夫」
「そうかいそうかい」
オレは運動ができない。めちゃくちゃできない訳でもないが、平均ちょい下といったところだろうか。おかげでリーグ戦というやつは、勝ち3負け7、のような感じだ。まぁ、大人になっても困りはしない。次の授業なんだっけ。身体動かしたし、腹減ったし、寝れるな、これは。
「今日の戦績は?」
いつの間にか隣に立っていた小平に聞かれた。なんかニヤついてる。オレが負けてる前提な。
「次の授業なんだっけ」
「無視すんな。歴史だよ」
「ちゃんと答えてくれるんだ」
「優しーからな」
「自分で言うなし」
つーか、次歴史か。さすがに今日も寝て怒られるのはごめんだな。たまには真面目に受けてみるか。眠気に抗えるかは置いといて。
「草間、また寝て怒られてよ」
「人の不幸を遠くから見て喜ぶ人だ」
「ちげーよ。ただ授業時間を減らしてくれということじゃ」
「そんな爺さんのためには怒られねー」
ジャージを脱ごうとしたらガサ、とズボンで変な音がする。なんだ?着るときは気づかなかった。
「どーしたー?」
「いや、なんか…………」
ポケットから何かを取り出す。紙切れとお菓子?なんだこれ。2つに折られた紙切れを開く。ありがとう、と、にこちゃんマークがかかれてあった。そしてチロルチョコがある。…………そうだ、先輩に体操服貸してたんだった。思わず口角が上がる。わざわざこんなんやってたんか。かわいいかよ。しかもポケットにチョコ。もしオレが体育本気でやって、体温でチョコ溶けたらどうするつもりだったんだ。
「やっぱ仲良しやなー」
「だなぁ」
「めっちゃ他人事みたいに言うじゃん」
先輩って無意識に人たらしな気がする。
チョコを頬張る。おかげで腹減り問題は一時的には解決される。それに、びっくりしたから今は眠気はない。今日は寝ずに済むかもしれない。ーーとか思ってたのに変わらず眠気はやってきた。半分以上が過ぎた頃だったから、今までに比べりゃましか。気がついたら意識がなかった。
授業終わりのチャイムで起きる。今日は怒られなかった。ラッキーかもしれない。
「相変わらず寝てたね」
河原さんに話しかけられる。最近多いな。
「今日は健闘したほうだよ」
「寝るのが普通ってね」
「しゃーない。眠いもんは眠い」
オレは伸びをしながらそう言う。
「まぁわたしも数Ⅰの授業寝ちゃうから一緒か」
「そうそう」
視線をずらすと小平と目が合った。おお、ごめんごめん。飯食おうな。腹減ったな。
「じゃ」
オレはそう言って、弁当箱を手に立ち上がる。一瞬彼女の顔を見ると、寂しそうに見えた。あ。でも何も見てないふりをした。
「食べるか」
「おう」
ちょっと罪悪感が残った。
今までのエピソードそれぞれにエピソード名つけました。自分がちょっと数字だけじゃわかりにくかったので笑。また明日も更新する予定ですので、よければ。ブクマもつけていただけると、嬉しいです。これもよければ。
数Ⅱって書いてあったところを数Ⅰにしました。尚は高1です。すみません。




