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天才の弟  作者:
24/81

24 体操服

「尚!」

「え?」

 朝から名前を呼ばれた気がした。なんだ?寝ぼけてるのか、と思いながらとりあえず振り返る。と先輩がいた。

「体操服持ってない?」

「たいそうふく……あぁ、ありますよ」

 焦ったような表情をしている。珍しい。

「貸してくんない?」

「何時間目ですか」

「1時間目」

「オレ3時間目なんで、ちゃんと返しに来てくださいよ?」

 リュックから出しながら、少し意地悪く言う。先輩のことだ。絶対すぐ返しにくるだろうけど。

「もちろん。ありがとうございます!」

 深々と先輩は頭を下げた。なんか申し訳ないな。

「じゃ、また後で!」

「はい…………慌ただしいな」

 先輩がいなくなった後、小さく呟く。

 ………………ちょっと待てよ。先輩がオレの体操服を着るのか?まじ?絶対ぶかぶかじゃん。ちょっと見たい。いやいや……そうじゃなくて。先輩がオレのを着るってことは、もはや、あれじゃね?彼シャツみたいな。

『かさいくん』

 先輩が彼を呼ぶ声がフラッシュバックする。先輩が手帳を探しているときに一緒にいた2年。あの人も体育一緒か。だったら…………いいか。見せつけたい訳じゃないけど、なんというか…………いや、見せつけたいのか。…………先輩に彼氏ができるのは、なんか嫌だ。


「ほんっとーにありがとうございます!」

 1時間目が終わりすぐ、先輩は体操服を返しに来た。

「はやっ。全然いいですよ」

「いやー他のクラス体育なくって。まじ焦ったよね」

「忘れ物とかしなさそうなのに」

「え、全然だよ。むしろ逆」

「つまりポンコツだと」

「そこまでは言ってねー」

 冗談をすぐ返してくれる。こういうのって意外と大事だな。

「ねぇ、あれって…………」

「すっかり忘れてたけど、まじ?」

「意外とモテるのか……」

 …………なんか、視線を感じる。先輩と初めて会ったときもこんな感じだったな、そういや。

「…………なんか、言われてる?」

「そーっす、ねー……」

「ごめんね」

「いやいや。元からモテないんで、ダメージゼロっす」

 というか、モテたいとはあまり思ったことがない。もし誰かと付き合ったとしても、すぐ別れるならそもそも付き合わないほうがいい。大前提として、異性と話す機会がほぼない。今の時代、色んな恋愛があっていいとは思うけど、オレの恋愛対象はおそらく異性だけだ。結局、恋愛をする状態にない。…………先輩のことはわかんないけど。

「そーかなー」

 先輩は教室を軽く覗き込む。オレもなんとなく、そちらに視線を向けるが、その瞬間みんなが視線を逸らした。やっぱオレたちのことだったのか。でもその中で1人こちらを凝視してくる奴がいる。ーー小平。おまえ情緒どうした。すげぇ変な顔してるぞ。

「じゃ、とりあえずありがとね」

「うーい」

 立ち去る雰囲気だから軽く手を上げる。けど、ん?

「……尚」

「なんですか?」

「あ、いや…………た、たぶん、汗はかいてないから」

 先輩はオレの腕の中の体操服を見ながら言った。さっきの沈黙はなんだ。隠し事をしているような。嘘つけなさそうだな、この人。

「えぇ、はい」

「じゃ」

 シュッと手を上げ、帰っていった。やっぱり変な人。

「おい、何ニヤニヤしてんだ」

「うぉっ」

 小平がオレの肩に腕をまわし、体重をかけてくる。

「ニヤニヤしてねぇし」

 オレは無表情を作る。いや、作ってる時点で無表情ではない気がする。

「まぁ、おれは?応援するけど?」

「いや、だから違うって」

 しかもなぜ上から目線なんだ。おまえだって彼女いない歴=年齢だろ。

「あ、せんせー来た」

 帰った帰った。とりあえず落ち着く。無意識にため息が漏れた。別に嫌だった訳ではないが。

「あの、草間くんって…………」

「え?なに?」

 前の席の女子に話しかけられる。たしか……河原さんだったか。

「あの先輩と付き合ってるの?」

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