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天才の弟  作者:
23/81

23 この髪を抜いてな

 大分省いてさっきのことを小平に話した。なぜか楽しそうに小平は聞いていた。

「へぇ?キミらめっちゃ仲良しじゃん」

 おもしろがるように言う。

「……だよなぁ」

「え、何その反応」

「なんでもない」

 やっぱ先輩って距離感バグってる気がする。オレだけだろうな、変に意識してるのは。

「でも、あれだなぁ。パーソナルスペース広いんだろうな」

「え?」

 考えてたことを言われ、一瞬焦る。小平でもそう思うってことは、そうなんだろう。……まぁ、いいや。やめやめ。

「そういやさぁ、見つけちゃったんすよー」

 小平はもう話題に飽きたらしい。

「え何を」

 見つけた?一瞬、あの手帳が頭をよぎる。でもまさか小平がそれを見つけるとは到底思えない。

「実はー」

「もったいぶるなよ」

 なんかこの半笑いの顔見てると……殴りたくなるな。呆れたような目で小平を見つめる。何を見つけたってんだ。

「己の白髪を!見つけたんです!」

「どーでもいーわ!」

 想像の何十倍もくだらなくて、思わず突っ込んだ。

「え、いや、でもさ、自分の白髪なかなか見つけんくね?」

 結構真面目な話だったらしい。そんなビッグニュースか?

「まぁ……わざわざ探さねぇけど。でも白髪見つけて、そこまではしゃげん」

「世の中楽しんだもん勝ちさ」

 ニヤリと小平は笑った。正論ではある。何事も楽しめるなら、それに越したことはないな。

「で?どこに白髪あんだ?」

「あ、そうそう。この辺に……」

 小平が指す周辺を探す。わざわざ屈んでもくれて。おかげで、つむじがよく見えますこと。廊下で2人。まーじ、何やってんだか。

「あ、あった」

 黒い、いや、若干茶色の髪の中に1本光っている髪があった。よく見つけたな。なんの意味もないが。

「だろー、凄いだろー」

「すごいすごい」

「感情がこもってない」

「ははは。この毛、抜いてやろうか」

「え、老婆みてーなこと言うじゃん」

 は?老婆?……あぁ。

「羅生門か」

「あ、それそれ」

『羅生門』は、今、現代文の授業でやっている文章だ。誰もが印象に残っているだろう台詞が……

「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、(かつら)にしようと思うたのじゃ」

 声を少し高くして、死にかけのような声を出す。クオリティは低い。

「くっははっやめろって草間ー」

「はははっあーしょうもねー」

 暫く笑っていた。


「先輩のときも流行りました?老婆の台詞」

「ん?なんの話が始まったんだ?」

 放課後、先輩とオレはまた、屋上前の踊り場に来た。準備をしながら、聞いてみる。

「羅生門です。現代文でやりませんでした?」

「ん?あーやった。やったわ」

 やっぱりやってたらしい。

「なんか、今流行ってるんですよね、クラスで」

「まじ?」

 あのあと小平と教室に入ったら、ちょうどクラスメイトがその話をしていた。


「お前のその髪、抜いてやろうかー!」

「おいやめろって!ハゲるだろが」


 とかいう、くだらない会話が繰り広げられていた。

 まじでくだらん。それはオレも同じなんだけど。

「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな」

「あー懐かしい」

「「鬘にしようと思うたんじゃ」」

 ハモった。顔を見合わせて笑う。

「1年経っても覚えてるもんだなぁ」

「たしかに。オレも覚えてるんかな」

「たぶんね」

 きっとそれを思い出すとき、一緒に今の出来事を思い出すんだろう。

 先輩は髪を手でとかす。やっぱりサラサラだ。先輩から目を離し、油絵を描く準備をする。ふぁーあ。なんか眠くなってきた。

「……あ、髪抜けた」

「え?」

 隣で小さく呟くのが聞こえてきた。そちらに目を向けると悪戯を思いついた、というように笑う。

「鬘にする?」

「しませんっ」

 まじでくだらねぇー。

芥川龍之介『羅生門』

皆さんはやりました?ちょっと狂った話を授業でやるのが1番楽しい気がする……。

読んでくれてありがとうございます!

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