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天才の弟  作者:
17/81

17 愛しい

 肩にずしっと重みが来た。集中していたオレはびっくりして声をあげそうになる。

 ……先輩、寝てんのか。2年の冬手前にもなると、勉強もそこそこにしているんだろう。

 オレは筆をパレットにそっと置いた。先輩が寝てるのをちらっと見てから、また目の前の自分の絵を眺めた。

 はじめは下塗りみたいな感じで青一色の薄く淡い絵だったけど、今はだいぶ色が載っている。鴨3羽と湖に映る自然。まだまだ透明感を出すには荒っぽい。

 自分らしい絵ってなんだろ。先輩と初めて会ったとき、言ってたよな。たしか……

『繊細で優しくて淡い色使いで、寂しさと、冷酷さを持っていて』

『上手に本音を隠している』

 あぁ、あのときは正直焦っていた。平静を装いながら、なんでそんなはっきり言うんだって。

 先輩の言う通りなら、繊細で優しくて淡い。寂しさと冷酷さを持つ、絵。

 わからないな。それは良いことなんだろうか。まぁでも、悪い気分でもなかった。なんでそう思うんだろうな。

 あの頃は珍しいぐらいに堂々としていて、不思議な雰囲気を醸し出していた先輩だけど、今隣にいる先輩は穏やかで柔らかい雰囲気だ。不思議なものは不思議だけど。

 ーー愛しい。

 思ったと同時に頭から掻き消した。

 先輩が動く気配がする。起きたのだろうか。ちょっと顔を傾けて先輩を見る。

 目が合うと驚いたようにこちらを見る先輩。

「んぇっ」

 先輩は喉になにかつっかえたような変な声を漏らして、ばっと起きた。

「え?」

 オレは半笑いでとぼけたように言う。先輩がいた方の肩に冷たい空気が触れ、少し肌寒い。

「ごめん!寝てたー」

「いやいや、そんなにですよ」

「え?ほんまに?」

「まじまじ」 

 先輩は髪を手ぐしで整える。ちょっと髪に癖がある。

 まじまじと見るのもなんだか気が引けて、なんの気なしに腕時計に目をやる。5時40分か。ちょうど電車が出ちゃったか。次は6時11分。まだ時間あるな。

「どうかした?」

「いや、特に」

「そ?じゃいいや……ってあれ、めっちゃ進んでるやん」

 先輩はオレの絵を見て、目を丸くしている。

「え、あぁたしかに」

 先輩がいつから寝てたかはわかんないけど、だいぶ経ってたんだろうな。

「へぇ……やっぱ綺麗」

「あざます」

 軽く応える。

「うん、もっと誇っていいよ」

「そう、ですかね」

 思いの外、真剣な目で言われ返事に困った。なんか照れくさい。

「うん。いいんだよ」

 そう言って先輩は、柔らかく笑った。………………やっぱり柔らかい雰囲気だ。傍にいて居心地が悪くない、というかむしろ良い。思っていたより身近な存在のように感じる。まだこの穏やかな気分のまま、ぼーっとしていたいと思う。

「あ」

「どうしました?」

「ごめん、もう帰らなきゃ」

 先輩はそう言い、リュックを背負う。

「じゃね」

「え、はい」

 一瞬にして帰っていった。さっきまで隣に居たのが嘘みたいに。はえー。あれ、先輩って何で学校来てるんだろ。電車だろうか。さすがにわからん。…………オレも帰ろ。

 床に置いていた油の入った容器を取り、蓋を閉める。なんとなく視線を落とすと、白っぽい何かが視界に入った。なんだろう…………手帳?

 容器を床に置き、立ち上がる。やっぱり手帳だ。先輩落としていったのか。

 ページが開いたままだ。見ていいものなのか、と思いながらも、開いてるんだから少しぐらいいいだろうと拾い上げ、眺める。…………殴り書きのような、字。

 11月11日 16時05分 2〜3 階段

 なんだ、これ。

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