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天才の弟  作者:
15/81

15 美術選択と美術部

「先輩の絵、見てみたい」

「え、嫌」

 ただ思ったことを言えば、あっさり断られた。…………もうちょっと悩んでくれても…………。

「なんで」

「いや、よく考えて?君は美術部、私はただの美術選択。しかも消去法で選んだんだよ?無理でしょ」

「いやいや、そんなことないですよ」

「いやいやいや、それは上手い人だから言えるんですー」

 えー。冗談ぽく先輩は断っているけど、目が本気だ。そんな嫌なのか?

「じゃそういうことで、あきらめて」

「うぇー」

 正直、オレは推しに弱い気がする。ここまで言われると何も言えなくなる。結局折れるのは自分だ。

「残念無念また来年か……」

「来年もないぜ」

「意思がお硬いことで」

 ちょっと待っててください、と言い、部室に道具を取りに行き、肩に担ぐ。そして工作室に入り、キャンバスを取ろうとして、やっぱり離れてその絵を見る。我ながら良い感じではないか、と思う。まだ全然未完成で、この流れでいくと夏休みの如く冬休みも学校に通うはめになりそうではあるが。まぁ、自己責任だけど。

 夏休みは暑かったから来るまでに死にそうだった。逆に今回は寒すぎて死にそうになるんだろうか、とぼんやり考え、先輩の元に戻らないと、と早足で戻る。

「おまたせしまーー」

「あ、尚」

「……あれ」

「……………」

 オレの顔をじっと見る人が、2人。先輩と、部活の先輩だ。

 あ。挨拶。

「こんにちは」

 軽く頭を下げる。と、次は2人でなにやら背を向け、話し始めた。

「え、ちょ、え……付き合ってる?」

「えー?違うよ?」

「え、じゃなんで」

「なんでって……」

 バリバリ聞こえてるー。盛大な勘違いだ…………でも、そう見られるのか、やはり。高校生で、しかも1個違いで2人でいるなら尚更。オレだって、小平のとき思ったしなぁ。何も言えないや。無意識に首に手をやる。

「やっぱー好きだからかなぁ」

 先輩がそう言った瞬間意識が戻る。違う。頭では十分理解してるのに、勝手に心臓が痛いくらい動くのがわかる。もはや脊髄反射なのか。

「てことは、やっぱり……」

「あ、ごめん。違う違う。尚の絵が好きってこと」

「……え、あ、そっちかぁ」

 先輩が、部活の先輩がわかりやすく落胆する。小平もそうだけど、なんかがっかりするよな、謎に。まぁいいや。

「先輩行きましょう」

「あ、はーい」

「一応わたしも先輩なんだけどなぁ」

 部活の先輩の独り言みたいなのが聞こえてきた。確かに、だ。先輩ではある。でもうちの部活は先輩後輩両方、さん付けで呼ぶのが風習?らしい。おかげで先輩なんて言葉を使うのは、こっちの、神原さんに対してだけだ。ーー結局は『先輩』として分類してるのは、神原さんだけだ。

「えっと、『岡本さん』ちょっと絵描いてきます」

 すると部活の先輩ーー岡本さんは嬉しそうに笑った。

「いってらっしゃーい」

 会釈する。で、先輩は手を振った。そして先輩はじっとこちらを見る。

「尚、なんか持つよ」

「え?いいんすか?じゃあこれ、お願いします」

 キャンバスを立てる?置く?ためのやつを渡す。なんて名前だっけ……。まぁいいか。手元にあるのは画材とキャンバスだけだ。だいぶありがてぇ。

「……まなちゃんのこと、岡本さんて呼んでるんだ」

 先輩はオレの隣に並んで言う。

「え?まぁそうすね。なんか美術部の風習みたいなもんで」

 岡本さんの名前、まな、か。一瞬繋がらなくて誰かと思った。

「へぇ?」

「美術部は上下関係的なもん、作りたくないらしい」

「なるほど。あ、長間先生そんな雰囲気あるよね」

「はい。まぁ気楽にやらせてもらってますね」

「そっかそっか」

 長間先生というのは、美術部の顧問のことだ。物腰柔らかとはこういう人のことか、という感じの先生。

「じゃあ、行きますか」

「うん……ってどこで描くの?」

「あぁ、決めてないですね」

「あぁって……」

 先輩は小さく笑った。

「先輩はどこがいいとか、あります?」

「……どうしようか」

「あー屋上前の踊り場、とか?」

「いいじゃん、いこ」

「うぇーい」

 画材を一式持ち直してまた歩き出す。カタッカタッとパレットと筆がぶつかる音が静かな廊下に響いている……ってあれ?

「今日はローファーじゃないんですね」



文中で出てきた、『キャンバスを立てる?置く?ためのやつ』は、イーゼル、というらしいです。

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