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天才の弟  作者:
13/81

13 夏と冬

 オレの手の平にあるのは、エッフェル塔のデザインの薄く小さな磁石。2枚が重なってるような構造。隙間から剥がしてみる。あ、2つ折りか。

「それ、栞なんだけど、私あんま合わなくて」

「合わない?」

「そう。それ割と磁石強いじゃん?毎回つけるの、ちょっと面倒っていうか」

「あー」

「紙を表と裏?から挟むから落ちにくくて良いんだけど、私には紙の栞の方がよかったからさ、もらってくれない?」

「良いんですか?やったー」

 こういう小さいものが好きだ。栞となればさらに。高校生になってから読書はかなり減ったけど、久々に読んでみようか。磁石の栞は初めてだ。嬉しい。

「よかった」

「まじでありがとうございます。結構嬉しい」

「よかったよかった」

 先輩は微笑ましい、というような穏やかな表情をしていた。この人、色んな表情するな。

「よし、勉強するか」

「うっ……はい」

 置きっぱなしにしていた荷物を取り、ラウンジに移動する。誰もいない。

「今の気温が一番ちょうどいいよね」

「めっちゃわかります。夏長過ぎましたね」

「ねー。小学生のときとか、30度超えたら暑いって認識やったのに、今35度とか普通にあるって、頭おかしいよね」

「それなすぎる」

 もう感覚が狂ってきている。この数年で最高気温が上昇しすぎだろ。

「で、この秋が一瞬で終わって、凍える季節がやってくるんだ」

「……嫌すぎる」

「夏と冬、どっちが好き?」

「え、2択?」

「うん」

 先輩は目を細めて笑う。

「究極すぎる質問ですね」

「うん、そう思う」

 先輩はにまにましながら、オレの返答を待つ。

 夏か秋か。強いて言うなら…………冬かぁ?でも、寒くて凍えるのは嫌だ。でも、夏で汗をだらだら流すのも嫌だ。夏は冷房がないとだけど、冬は厚着しまくればどうにかはなる。となると、やっぱり…………

「冬、ですかね。強いて言えば」

「おおー。同じく」

「でもやっぱ秋が良いかな」

「へぇ?私は割と冬、好きだけどなー」

「大体春か秋かの2択な気がする」

「あれー?」

 おかしいなぁ、と苦笑いする先輩。色白で、マフラーを巻いている姿が目に浮かぶ。確かに先輩は冬っぽい。

「価値観は人それぞれってことですね」

「結局はそうなるな」

 向かい合う形で座る。リュックから4stepを出す。高校生なら誰もが苦しむ数学問題集。

「あ、青い4stepだー。懐かしー」

 先輩は言いながら緑色のテキストを出す。…………ん?4step?

「2年はね、緑なんです」

「おぉ…………やりたくねぇ」

 あ、つい本音が。

「ん?あれ。尚って文系理系どっち?」

「たぶん、理系ですかね」

「あら。苦しみますよー来年から」

「もう十分」

「いや、理系舐めたらあかん」

「てか、先輩理系だったんすね」

「そーだよー高校生辞めたくなる」

 苦々しく笑う。なんだかんだ先輩はうまくやってんだろうな。なんとなく、勉強には向き合っているような感じがする。…………オレはそこまでなりたいものもない。頑張る理由がない。だから人並みか、人並み以下にしか努力はできない。ーーかつては凄い画家になりたかったけど。

「…………ちゃんとした夢、あったら……」

 先輩には聞こえなかったみたいだ。ほっとしたような、少しがっかりしたような。


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