12 勘違い
「尚も一緒にしない?」
自習。勉強。テストはまだちょっと先。5時20分。電車は40分。その後は11分。うん、やるか。
「しましょうか」
「いえーい」
「あ、ちょっと待って。教室に4step置いてる」
オレはさっき閉めたばかりの教室の鍵を開ける。ちょっと早足で自分の机に向かう。あ、あったあった。また鍵を閉める。
「おーけーです」
「じゃあ、鍵だけ持っていくか」
「はい」
リュックは教室前のイス兼棚に置き、4階から2階の職員室に向かう。
「ラウンジでするんでいいよね」
「はい。全然人気なかったし」
ラウンジというのは、教室の近くにある勉強スペースだ。正直ほとんど使ったことがない。
「やっぱまだ1年だからかなぁ」
「ん?何がですか」
「いや、ラウンジ2年のところは普段から半分ぐらい埋まってるからさ」
「あーそうなんですね…………確かにもう10月後半だし」
「話振っておきながらだけど、やめてくれ…………」
「ははは」
…………そうだよな。先輩はもうすぐ受験生なんだ。
なんだかんだ一緒にいる時間が多くて、突然いなくなったら寂しいだろうな、と漠然と思った。オレは先輩のこと、ほとんど知らないくせに。名前すら今日まで認識していなかったくせに。
「尚?職員室だよー?」
「え、あ」
気づいたら職員室に着いていた。ぱらぱらと先生の頭が見える。
「あー鍵返してきます」
「いってらっしゃーい」
スライド式の扉を開け、中に入る。
「しつれーしまーす」
誰もこちらを見ない。じろじろ見られるよりは全然いいんだけど、許可なく入った感じもなんか気まずい。えーっと1年2組、1年2組……あった。はよ帰ろ。
「しつれーしました」
「おかえり」
「ただいまです」
隣に並んで歩き出す。前から人が歩いてくる。ちらっと見るが知らない人だ。知らない人と目が合ったときが一番気まずいよなぁ。まぁ関わること基本ないからいいけど。
「おつかれー」
すぐ隣から声がしてびっくりした。一瞬混乱したが、あれか。先輩、その人と知り合いなのか。
「あ、え、おつかれー……」
顔を上げて見ると、その人は困惑したようにオレと先輩を交互に見ている。いいのか?説明しなくて。
先輩の方を見ると、その人に笑いかけて通り過ぎる。オレもなんとなく会釈して、先輩に並ぶ。
「いいんですか」
「何が?」
「いや……さっきの、勘違いされてません?」
「あー大丈夫でしょ。聞かれたらちゃんと言っとく…………けど、あれか。尚、好きな人とかいる?」
「え?いやいませんけど」
「勘違いされてもいい?」
なんだ、その言い方は。いや、先輩のことだ。そういうことでもない気がする。
「まぁ、大丈夫です」
「ならほっとこー」
先輩は視線を逸らし、オレの先に行く。腕を上げ、伸びをする。
割とテキトーなんだ。まぁオレも真面目すぎるよりか、全然いいけど。
そういえばこんな会話したことある気がする。なんだっけ…………
『じゃあさ、放課後掃除終わったら行くから待ってて』
『……行くって、オレの教室に?』
『迷惑?』
『いや……ヘンな噂立てられても知りませんよ』
『いいんだよ私は、ってやさしーね草間くん』
そうだ、まだ先輩が頻繁に来てたときだ。今でも毎日来てるけど。
「あ、これあげる」
先輩の声で我に返った。なんだ?とりあえず手を出す。
「なんすかこれ?」
硬い。…………磁石?




