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天才の弟  作者:
11/81

11 語彙力

「今日、寝た」

 我ながら酷い日本語だ。敬語を外そうと思うと、上手く言葉が出てこなかった。にしても酷いが。

 覚えたての外国人か、幼稚園児並に酷い。

「え?」

 先輩は半笑いでこちらをじっと見る。早くちゃんと説明しないと。

「えーっと、オレの苗字、草間じゃないですか」

「お?おお」

「草の間じゃないですか」

「うん。敬語だね」

 あ。

「くさまって呼び間違えられるんで、だけど」

 ですけど、と言いそうになった。敬語の癖が抜けない。敬語、今までそんなに意識してた訳じゃないんだけどな。

「歴史の先生が何回訂正しても、くさま、くさまって変わんなくて、というのが前提で」

「おお、前提か」

 先輩は左手で頬杖をつく。髪が揺れる。なぜかスローモーションに見えた。

「えと……眠くて授業始まる前から寝てたら、くさまぁ!って起こされて、また寝たら」

「え、待って。歴史ってタダヒトシ?」

「あぁそうで、そう」

 タダヒトシとは、歴史の先生だ。この感じだとかなり有名なんだろう。

「タダヒトシでそれやるん、尚やべーな」

「それほどでも」

「いやまじでどういう根性……いやいいや。つづけて?」

 あれ。先輩の反応的にタダヒトシはかなりやばい奴なんだらうか。まぁ、たしかにやばいっちゃやばい気はする。逆にあんなわかりやすく怒ってくれる方がありがたい気すらするが。裏でコソコソ点を引いてる先生よりは、言いたくはないが、好感は持ててしまう。

「で、タダヒトシが…………あれ、なんて言おうとしたんだっけ」

「おいおい。前提から話が進まんなっちゃうぜ」

「はいはい……あ。で、また寝たら起こされたんやけど、それがすっげぇ近くて。重低音が耳に直接響いて」

「おお…………」

 先輩引いてんじゃん。そんな物理的に距離取っても変わんねーって。

「さすがに死んだと思いましたね……しばらく怖くて目ぇ見れんかった」

 あはは、と軽く笑って見せる。

「そりゃそうだわ。うわータダヒトシかー。やばー」

 先輩は口元に手を当てて黒板の方をぼーっと見る。

「タダヒトシさー、私も1年の時に担当でさ。2学期の期末?かなんかで、平均がめちゃくちゃ低くて授業1時間ずっと怒って潰れたんよね」

 授業潰れたのは嬉しかったけど、なんもできんかったけん、地味に苦痛やった、と続ける。

 でも、え?それで1時間も怒れんの?

「平均点が低くて?」

「そう」

「絶対怒るとこ間違えとるやろ」

 半ば呆れ気味に言うと、先輩も、だよねーと遠くを見る。

「尚のとこはタダヒトシぐらい?変でかつ若干怖い先生」

「うーん、今んとこは」

「……やばい先生が発覚したら教えてね」

 先輩はクラス掲示からこちらに視線を寄越し、にやっと笑う。あれは時間割だ。しかも担当科目の先生までご丁寧に書かれてあるやつ。え。

「……もしかしなくても、やばい先生いるんすか」

「さあ?どーかなー」

 先輩は足をぶらぶらする。これ、確定演出じゃん。やばい先生は誰なんだ。

「まぁ、今んところ害無いならいいんじゃない?」

「ええ……」

『下校時刻になりました。一般生徒は戸締りーー』

「うわ。びっくりしたー」

 先輩がオレの思っていたことを代弁する。5時15分だ。

「そんな時間経ってたんだ」

「確かに。せんぱ、神原さん来るの遅かったからな」

「おおー初、神原さん」

「いや、日本語」

 ただわかるのは、神原さんと言うのは違和感しかないってことだ。やっぱ。

「先輩は先輩です」

「そうやなぁ。尚は尚やなぁ」

「ん?」

「草間くん、て感じじゃないってこと」

「あぁ。初期の頃は草間くんでしたけどね」

「そういやそうか。あ、教室閉めな」

「そうだそうだ」

 カバンを右肩に担いで後ろ側の扉を閉める。電気が消える音がする。

「電気、ありがとうございます」

「はいよー」

 オレは鍵を取り、扉を閉める。よし、閉まった。

「もう、このまま帰るの?」

「いや、どうしようか」

 今帰ると絶対母さんになんか言われるよなぁ。まぁいいか。

「先輩は……?」

「うーん、自習しようかな。尚も一緒にしない?」




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