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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

外れスキル「格付けチェック」で俺は無双する。

作者: XX

外れスキル系のテンプレから外れてるかもしれないけど。

どうでしょうか?

 数十年前、とある冒険者パーティーが「旧世界の迷宮」の最深部で、封印されていた箱を開けてしまったらしい。

 その箱には、古代文字で「絶対に開けてはいけない。この中には災いが詰まっている」と書かれていたのに。


 そのパーティーは開けてしまったのだ。


 その中には確かに災厄が詰まっていた。

 それは「スキル」という災厄だった。


 その数、99個。

 世界中に散り、世界中の知恵ある種族全てに取り憑いた。


 スキルは宿主になった存在に1つの特殊能力を与えてくれる。


 たった99人の知的種族のみに。




「おい! 3流冒険者! 大丈夫か!?」


 仲間の髭面ドワーフのドヴェルクが、俺を庇って前に出て魍魎たちの攻撃を受け止めてくれる。

 俺のクラス・魔神騎士は攻撃力特化型の近接職。両手持ちの大剣を使うクラスで、あまり分厚い金属鎧が着けられず、防御力に難がある。


 ドヴェルクのクラス・重装騎士は、そんな俺の弱点を補ってくれる存在。

 機動力を捨て、ガチガチの金属鎧と、ごつい盾。そして片手斧で敵の攻撃を全て受け止め、片手斧で敵を屠る。


 ドヴェルクには感謝しても仕切れない。


「すまないドヴェルク」


「礼は良い3流冒険者! 口を動かさず手を動かすんじゃ!」


 言ってドヴェルクは、襲ってきている「まるでオタマジャクシのような」怪物・魍魎を、その巨大な片手斧で薙ぎ払った。

 そんな俺たちを見て、勝ち誇った笑いを浮かべる影。


「ホホホホ。最初の勢いはどこへやら。このまま押し切って差し上げますよ」


 邪教大神官ネクロスが、この邪教神殿1階に配置した第1の番人。

 その名は悪魔ネビロス。


 その姿は、ガリガリに痩せ、緑と赤のローブを着た人間。

 こいつは魔法の達人であり、特に死霊を操ることに長けている。


 息をするように軽く呪文を唱え、稲妻や炎の魔法を発動させ。

 そしてまたは無数の魍魎を呼び出し、俺たちを圧倒する。


「キャア!」


 そのとき。

 俺の最愛の人が悲鳴をあげた。


 ノース。

 森の妖精族エルフの賢者で、俺の恋人。

 ブロンドのストレートヘアと、緑色の瞳が美しい女性。


 賢者は魔術師か神官を極めた者が転職できる上級職で。

 全ての魔法を習得することが出来る。

 彼女はすでに、そこをクリアしていた。


 彼女は開幕で大規模攻撃魔法アトミックブラストを放ったので、だいぶ無理をさせたのに。

 彼女は肩を押さえて、杖を構えていた。

 彼女の来ている純白の法衣が、赤い血で染まっている。


 魍魎に食い破られたのか。


「今助ける!」


 彼女を助けるために飛び出そうとした。

 けれども彼女は俺を見ないでこう言ったんだ。


「大丈夫よ3流冒険者!」


 最愛の女性ひとに名前で呼んでもらえない。

 その辛さは筆舌に尽くしがたいものがあるが……


「イツキのトークがもうすぐ終わるもの!」


 そうか。

 だったら……


 ネビロスをこの隙に、堕とす!


「トークが終わる……?」


 ネビロスは未だに気づいていないらしい。

 俺たちの秘めたチカラ……「スキル」に。


 そう……俺たちは全員、選ばれしチカラ「スキル」を持っている。

 旧世界から今の世界に散らばった、99個の力の一部を。


「……なんと、その男の子は、林檎と蜜柑の区別がついていなかったんだ。あれには大変驚いたよ」


 そのとき。

 俺と同じ人間族の女アサシンのイツキのトークが終わった。


 黒髪の少女で、髪は肩に掛からない位置で切り揃えている。

 顔つきは少し小悪魔っぽい。いわゆるメスガキ系かもしれない。


 アサシンは、元々砂漠の国に存在した暗殺者がモデルになったクラスで。

 身の軽さと、急所狙いの一撃を得意とし。

 雑魚散らしに最適な、盗賊から成り上がれる上級職だ。


 高い身体能力を要求されるクラスではあるので、彼女は小柄だったがその体は極限まで鍛えあげていた。


 その体を存分に活かし、高いバネでさっきまで「驚いた話」というテーマでネビロスの前で話をし続けていたのだ。


 その話が、今終わった。


 その瞬間だった。


「え……?」


 フレアブラストの魔法の詠唱に入っていたネビロスが、その組んでいた印をほどき。

 いきなり手を握り込みはじめて。


「これは……サイコロ……!」


 そこでようやく気付いたらしい。

 自分が強制的にサイコロを振らされていること。

 つまり、スキルの効果にかかっていることに。


 イツキのスキル「サイコロトーク」は、自分がサイコロを振って出た目の話をした場合に、直前に自分との会話に応じた相手に同じことをさせるスキル。

 対魔法使いには、致命的にヤバいスキルだ。


 何故って、トークをしている間は魔法が使えないからな。


 すでにスキルの影響で、右手の自由と口の自由を奪われているネビロス。

 俺たちは武器を構えて突っ込んだ。


 ネビロスの振ったサイコロの目に書かれていたのは「幸せな話」

 ネビロスにとって、この場で最も相応しくないテーマだ。


 ネビロスは話し始めた。


「この前の日曜日、思い立ったので東北の方のラーメン屋に向かったんですが……」


 俺は話し始めたネビロスに、大上段に構えていた大剣……両手持ちの両刃の直剣を振り下ろした。

 まるで鉄の塊のような、分厚い鋼鉄の刃を。


 俺の剣を回避できなかったネビロス。

 俺の剣はネビロスの左腕を切断した。


 ネビロスの絶叫。


「3流冒険者! ボクも助太刀するよ!」


 そこにイツキが、両手に大振りのナイフを構え、まっすぐに突っ込んで来て――


 俺の名前はカムイ。

 ちょっと前に誰も俺の名前を呼んでくれなくなったから、自分で名乗る。


 この邪教神官討伐パーティーで、攻撃担当を担っている人間の男だ。




 邪教大神官ネクロスが、大邪神を召喚しようとしている。

 ネクロスの計画を打ち砕き、世界を救ってくれ。


 俺たちの祖国の国王陛下が、そんなお触れを出したんだ。

 ネクロスを討った者は貴族に取り立て、多額の報奨金を与えよう、という。


 報酬も欲しかったけど、ネクロスの悪行は普段から聞いていたし。

 だから、目指したんだ。

 そしてその結果、俺たちパーティーは「最もネクロス討伐に近い冒険者」としてずっと注目されてきた。


 それで今がある。


「ネビロス、強かったね」


 ネビロスに最後の一撃を入れたイツキが、消えていくネビロスの死体を見つめながら。


「開幕にアトミックブラストを決めてからでもキツかったわ」


 ノースが苦笑いをする。

 彼女の黒魔法の奥義を叩きこんでも勝負が決まらなかった。

 大体はあれで終わるのに。


 アトミックブラストは太陽の炎を地上に召喚し、敵を焼き尽くす攻撃魔法。

 普通はそれで跡形も残らない。


 なのに、ネビロスはそれで終わらなかったんだ。


「まさか暗黒空間とこの世を繋げる防御魔法で対抗してくるなんてね」


 そう、ため息をつく。

 まぁ、なかなかそういう状況は無いだろうけどね。


 最強の攻撃魔法を、最強の防御魔法で対抗され、防がれるっていうのは。


 まだ先は長い。

 だから


「……もう1回、私のスキルを使うわ」


 彼女は覚悟を決めた顔でそう宣言した。


 無理しないでくれ、と言いたかったが。

 彼女は勝つためにはそれは最適解であると判断したんだろう。


 だから俺は大人しく見守ったんだ。


 ……彼女が服を脱ぎ、赤いビキニの水着姿になり。


 熱湯の入ったバスタブを召喚し、スキルを使う準備に入る様子を。



 彼女のスキル「熱湯コマーシャル」は、魔法使いと相性のいい最強の当たりスキルだ。

 その効果は、その場に熱湯が入ったバスタブを召喚すること。

 この熱湯バスタブは、そこに入って肩まで浸かることが出来た者に特殊効果をもたらす。

 その熱湯の熱さに耐えた時間だけ、後で言葉を邪魔されずに発することが出来るようになる特殊効果を。


 つまり、熱湯に耐えた時間だけ、魔法を心置きなく使えるようになるんだ。


 普通は魔術師の魔法詠唱は、強力になるほど阻止されるものだからね。

 魔法使いには強すぎる最強スキルとしか言えないよ。


「それじゃ、はじめるわ」


 ……正直、彼女とは肌を合わせたこともあるから、彼女が人前でこういう格好をすることに抵抗が無いわけじゃない。

 この場に居る男がドワーフのドヴェルクしかいなくて良かった。

 ドワーフは外見特徴がエルフや人間と違い過ぎるせいで、美的感覚が全然違うんだよな。

 なので、ドヴェルクにはノースは性の対象じゃ無いんだ。


 彼女はバスタブの上に上向きの態勢で覆い被さり、そのままその形のいいお尻から熱湯に突入した。

 瞬く間にバスタブに沈み、噛み付くような熱湯に晒される彼女。


 彼女は「熱い! 熱い!」と言いながら、熱湯に耐える。

 その彼女の顔は、まるで出産に苦しむ美しい女性のようで……


 俺は目が離せなかった。


 ああ、ノース……キミはなんて綺麗なんだ……!

 申し訳ないが、興奮しすぎて……ギンギンになってしまった。

 どこがかはちょっと言えないんだけども。


「あぁ、熱いよぉ! 熱いの……」


 悩ましい声。

 興奮しすぎて、息が乱れる。


 いつぞやの夜のことで頭がいっぱいになる。


 そしてとうとう


「もう限界ッッ!」


 彼女がバスタブから飛び出す。

 飛び散るお湯飛沫。


 その途端、バスタブが粉雪が山ほど入った桶に代わり。

 彼女はそのアツアツの熱湯に浸かっていたその肉体を、粉雪で必死で冷ましていた。


 でも、これなら十分な詠唱時間が取れると思う。

 次の戦いではきっと大いに役立つはずだ。


 俺は2階に続く階段を睨みながら、そう心で言った。


 そしてしばらく


 ノースが服を着るのを待って、僕らは進軍を再開する。


「いくわよ。ドヴェルク、イツキ、そして3流冒険者! 絶対に生きて帰ろうね!」


 彼女の激励を聞き。

 俺は皆と同様に、己を奮い立たせる糧にした。




 2階。

 ここにも番人がいるはずだ。


 俺たちは進みつつ、油断なく視線を巡らせる。


 目に映るのは、石畳の床に、柱。

 ここが邪神の神殿であることが、その意匠で見て取れる。

 多分、本当は違ったんだろうけど。

 どうやって、今の形に変えたのか。


「魔物が見当たらないね」


 先行するイツキがそう呟くように口にした。

 ネクロスが放った魔物たち。

 それが1階ではたくさん居たのに。


 それがこの階では全く無くて。

 これはどういうことなんだろうか?


「そうじゃのう……」


 ドヴェルクが怪訝な表情でイツキにそう返した。


「ドヴェルクは何か感じないのか?」


 俺がそう訊くと


「……特に何も……ん?」


 そのときだった。

 地響きのような足音とともに。

 巨大な鉄の塊が目の前に現れた。




 それは大きさ3メートルを超える濃青色の甲冑で。

 頭部が無く。

 片手にバカでかい剣を持っていた。

 その剣には青い体液が付着していて……

 そいつの後ろに、袈裟斬りで一刀両断にされた死骸があった。

 魔物なので、倒された後は肉体が崩壊し、消滅していく。


 ……この階に魔物がいないのは、こいつが全部殺したからか……!

 それに気づき、俺たちは緊張した。


 この階の番人は狂戦士か……!


 頭部が無いということは、イツキのスキルが効かない。

 ノースの魔法頼みということか……!


 俺は彼女を見た。

 彼女の方もそれを理解しているようで、ただちに詠唱に入ろうとした。

 杖を構えて、そして……


 そのとき


「待つんじゃ!」


 ドヴェルクの鋭い声が飛んだ。

 それは……


「お告げが降ってくる予感がするぞい!」




『あーん、なんなのぉー!? 神殿2階で謎の巨大な鎧巨人に出会ったしん!! でも3階でその鎧巨人の頭部に出会ったしんよーー!! 散々苦労して2階の番人を倒したのは無駄だったしんかー!?』


 天から降ってくる謎の声。


 ドヴェルクのスキル……「フューチャークロちゃん」の発動だった。

 その内容は……未来予知。

 ただし、任意での発動は不可能で、天から突然降りてくる予言を聞かせるだけのスキルなのだけど。

 大体が、今回のような無視できない重要情報を含んだ未来予知なので。


「そういうわけじゃ! こいつは無視して3階を目指すべきじゃ!」


「分かったよ! 殿しんがりはお願いねドヴェルク!」


 イツキは迷わず走り出す。

 効果の不確定さにも関わらず、これは神スキルであると俺は思う。




「フハハハ! このジャイアントデュラハンの身体を打ち破って来たか! それはご苦労様だったな! しかしその疲弊した状態で我に勝てるか……!?」


 3階に到着したところ。

 そこには宙に浮かぶ兜を被った生首が居た。


 多分こいつ、身体が無いから遠距離でブレスだとか魔法とかで攻撃してくるんだろうな。

 そういう攻撃は、魔法の援護なしで対処するのは厳しいところがある。


 それをドヴェルクのスキルのおかげで回避できた。


 ジャイアントデュラハンの頭部は、俺たちが自分の身体の方をトレインしてきたことに気づいて絶句している。


「2階の番人を無視してここまで来るだと……? 普通、苦戦するなら1体ずつ倒すのが基本だろうが……!」


 宙に浮かぶ生首は、わなわなと震えていた。


 本来は、身体を倒すことでボロボロに疲弊した俺たちを、3階で悠々と迎え撃ち、遠隔で仕留めようと思っていたんだろうけど。

 残念だったな。


 すると


「ようやくまとめて焼き払えるのね」


 ノースが不敵に微笑み、杖を構えた。

 そして今度こそ、魔法の詠唱に入る。


 それは……


「それはアトミックブラスト……! させぬ!」


 そう。

 彼女の最大攻撃魔法であり、奥義。

 アトミックブラストだ。


 長い詠唱中に、発動を阻止しないと自分の負けが確定する。

 その焦りがあっての行動。


 ジャイアントデュラハンの頭部は、凍り付く極寒の吐息を吐き掛け、詠唱完成前にノースを仕留めようとした。


 空気中の水分が凍り付き、輝く吐息。


 それが彼女を飲み込もうとする。


 俺は……


 そんな彼女を庇うために、その眼前に飛び出した!


 ジャイアントデュラハンのフロストブレス。

 それは彼女を直撃せずにまず俺を飲み込み……


 その余波は、彼女の「熱湯コマーシャル」で発生した障壁に弾かれる。


 ……そう。

 実は俺のこの行為は選択ミスなんだ。


 彼女は熱湯コマーシャルのおかげで、指定時間内は絶対に発言を邪魔されない状態になっているから。

 俺が庇う必要は全くなかったワケで。


 俺はフロストブレスに凍えながら、自分の選択ミスを噛み締めた。


「アトミックブラスト! 喰らえェッ!」


 そして俺は見た。


 ノースが詠唱を完成させ、魔法を解き放つ様を。


 俺たちの周囲にあふれ出す白く輝く炎。

 それはジャイアントデュラハンの頭部と身体を飲み込み。


「グアアアアアッ!」


 その頭部の断末魔の叫びを周囲に響かせた。




 フロストブレスのダメージの深刻さで、俺は片膝を突いて負傷に耐えていた。

 そこに、ノースが近づいてきて。


 リフレッシュの魔法を掛けてくれた。


 対象者を完全な健康体に回復させてくれる、回復魔法の最上位……!


 俺の凍傷を負った身体は、あっという間に完全回復した。


「ありがとうノース」


 俺は彼女に礼を言う。

 すると彼女は


「カムイっぽい人、あとはネクロスだけよ。……絶対に生きて帰りましょうね」


 厳しい表情で、彼女は神殿の奥を強い瞳で見つめつつ。

 そう俺に言葉を掛けたんだ。


 ……三流冒険者からそっくりさんか……。




 4階に着いた。

 俺たちは巨大な扉の前に立っている。


 もうすでに3回目の熱湯コマーシャルは使用済みだ。


「ノース、イツキ、そしてカムイっぽい人。ネクロスは恐ろしい邪教徒じゃ。それを決して忘れるな」


 ネクロスはこの大神殿の建っている島に元々存在した小国をたった1人で滅ぼし。

 その王城だったここを、大神殿に流用した男。


 その使用魔法はすさまじく。


 そしてヤツ自身もスキルを持っていると聞く。

 それが何であるかは分からないが……


 絶対に負けられないんだ。

 世界を救うために。


「やろう! 皆!」


「ええ!」


「うん!」


 俺の呼びかけに、ドヴェルク以外の2人が応じてくれた。


 そして俺たちは、巨大な最後の赤い扉を蹴破るように開けて、雪崩れ込む。


 そこには……


「フハハハハハハ! 待っていたぞ正義の勇者様よ!」


 漆黒の法衣に身を包んだ、屈強な肉体を持つ男がいて。

 その男は両腕を大きく広げて何かの儀式をしていた。

 その儀式は終了直前のようで……


 巨大な魔法陣から、触手を無数に備えた。女の人面が出現しようとしていた。


 ――すでにもう、邪神召喚は成っているのか。


 これは苦しい戦いになる。

 決断は必須だ。


 俺はそう思い、大剣を握り直した。


 ノースは杖を構える。

 イツキはナイフを。


 そしてドヴェルクは斧と盾を構えて、俺以外の2人を庇う位置につく。


 そのときだった。


「返り討ちにしてくれるわ! スキル発動! 喰らえ!」


 ネクロスのその言葉。

 その言葉が発せられたとき。


 信じられないことが起きた。


 ノースが全裸になった!

 イツキが全裸になった!

 ドヴェルクが全裸になった!

 そして俺も全裸になった!


「きゃあああ!」


「うわー!」


「なんと!」


 ノースとイツキが顔を真っ赤にして身体を隠してしゃがみこみ。

 ドヴェルクは驚きはしたが、残った盾と斧で自分の役割を果たそうと前に出る。


 俺は俺で、股間を隠しながら片手で大剣を構えていた。


 これは一体……!


 そんな混乱する俺たちに、ネクロスは勝ち誇るようにこう言ったんだ。


「我のスキル『電波少年的懸賞生活』は、スキル効果範囲内のニンゲンを強制的に全裸にする!」


 ……何だって……!?


 俺は戦慄した。

 このスキルを駆使して、この男はこの島を制圧したのか。


 島を守護する兵隊が、突如全裸にされて混乱しているところで、ネクロスに一方的に攻撃されて倒されていった様子を俺は脳裏に思い浮かべる。


「女の子の服をいきなり全部脱がせるなんて何て非道なの! あなたに人の心は無いの!?」


 ノースの抗議。

 だがネクロスは取り合わない。


「スキル持ちがスキルを使って何が悪いのかね?」


 そう、勝利を確信した顔で言う。

 自分はきっちり服を着ているので全く恥ずかしくない。


 何て卑劣な……


「どうした? 我を討伐しに来たのだろう? 堂々と全裸で行動したらどうだ? 冒険者らしく!」


 どうせそんな行動は取れまい。

 それを分かっての言葉。


 ノースとイツキが行動不能。

 ドヴェルクは行動できているが、彼はタンクだ。


 ……だから。


 俺は決断した。


 股間を隠していた手を外して、大剣を両手で握りしめたのだ。

 それがどうも、スキルの神は「選択ミス」と判定したらしい。


 俺のスキル……「格付けチェック」が最終段階に達したんだ。


 俺のスキル「格付けチェック」は、発動させると選択ミスをするたびに自身の扱いを下げる効果を持つスキルだ。

 最初は1流冒険者として、仲間たちから普通の扱いして貰えるが。

 ひとつ失敗して普通冒険者になると


 ノースからは「カムイ」から「カムイさん」と他人行儀で呼ばれ

 イツキからは「カムイ兄」から「オニーサン」と適当に呼ばれ

 ドヴェルクからは「カムイ」から「若造」に


 2つ目の失敗で2流冒険者になると


 ノースからは「カムイさん」から「人間」に

 イツキからは「オニーサン」から「クソザコなめくじ」に

 ドヴェルクからは「若造」から「オマエ」に


 そういう感じで扱いが落ちるのだ。

 仲間たちは別に俺を普通に扱っているつもりでも、俺の耳にはそういう風に聞こえてしまうようになってしまう。

 そういうスキルなんだ……。


 俺はさっきまで、このスキルの最終段階の1歩手前「そっくりさん」だった。

 その上で、さらに選択ミスを重ねたのだ。


 そして……


 俺は……「映す価値無し」になった。


 同時に、俺はこの世界から消えてしまう。

 映す価値無しとはそういう状態で。


 俺の存在を誰も知覚できなくなる。


 俺の声以外は。


「カムイ! あなたまさかまたスキルを使ったの!?」


 俺のスキルが最終段階に達したことに気づいたノースが、悲痛な声をあげた。

 ゴメン……この手を使うたび、彼女に寂しい想いをさせてしまうことを申し訳なく思う。


 この最終段階は、治らないわけじゃない。

 ただし、1年掛かる。

 それ以外はいかなる手段でも回復できないんだ。


 1年過ぎないと、彼女の目には俺の姿は知覚できないんだ。

 それまで俺は、彼女にとっては基本「いない人」になる。


 全く……とんでもない外れスキルだ。


 だけど……


 仲間たちを守る意味では……最強の当たりスキルだ!


「……なんだ? あの剣士の若造が急に見えなくなったぞ!? どこに行った?」


 ネクロスが焦りまくり、周囲を見回している。

 当然だろう。


 自分を討伐に来た冒険者パーティーの、アタッカーに思えるヤツが突然見えなくなったんだから。

 不安になるだろうし、焦るだろうさ。


「大邪神様! どうか我をお守りください! この部屋の生き物を我以外残らず殺し尽くして――」


 焦った奴が、自分が呼び出した大邪神にそんな願いを掛ける。

 だけどもう遅い。


 そのときには俺はネクロスの傍で、奴を腰斬するための大剣の構え……下段脇構えを取っていて。

 次の瞬間には俺は斬撃を繰り出していたから。


 俺の剣は易々とネクロスの胴体をぶった斬り、ネクロスを2つにしていた。



★★★



 私の名前はノース。

 200年以上生きているエルフの女。

 冒険者を続けて100年を超えてるベテランだ。

 職業は賢者。


 私の恋人のカムイは人間で、私と同じスキル持ちの冒険者なんだけど


 ……とんでもない外れスキルなの。


 何回も彼のスキルで救われているけど。

 その後は1年間の苦しい時間が待っている。


 彼のスキルが真価を発揮すると、誰にも彼の存在が知覚できなくなるから。

 声だけは聞こえるけど、それもどこから聞こえるか分からない。

 テレパシーみたいな感じなのだ。


 全く……どうしてあんな人が好きになってしまったんだろうか。


 最初は、私に対して馴れ馴れしい、私の半分も生きていないような生意気な人間だと思っていたのに。

 それが段々変わって来て、彼の真面目さとか、努力家なところとか、情に厚いところとか。

 そういう良いところが分かって来て。


 見た目のパッとしなさも、純粋そうで爽やかな外見。

 そういう風に思えるようになった。


 そうなったときに、彼はスキルに覚醒し。

 以後強敵に出会うたび、こんなことが起きてる。


 彼、スキルを使う決断を誰にもしないんだもの。

 後から思うと、彼の失敗が増えていたなと察知できるところがあったりするんだけど。


 私はいつも気づかない。


 ……200年生きてても、大したことないんだな。

 それをいつも思い知ってしまう。


 ……もっと賢く、有能な賢者になりたい。

 私は彼の存在が感じられない1年間、自己研鑽に集中的に務めた。


 幸い、ネクロス討伐の報酬で。

 多額の報奨金と貴族の地位を与えてもらえたから、時間も余裕も沢山あったし。

 お金と貴族の屋敷と、領地。

 彼以外の全てがあるけど、一番大事な彼がいない。


 1年経って、彼が元に戻ったら。


 今度こそ、2度とあんな外れスキルを使わなくても良いようにするんだ。


「ノース、暗いところで『ランプの明かりで読書』は目に悪いよ」


 そんな彼の声が聞こえてくるけど。

 いつも「大丈夫よ」と返していた。


 200年以上同じことを続けているけど、別に何ともなかったんだし。


 そしてその日も、私は自宅の屋敷で本を読んでいた。


「ノース。夜に読書はやめとこうよ」


 そんなとき、また彼の声が背後から聞こえてきた。

 いつも通り「視力は落ちないから大丈夫だって言ってるでしょ」と返そうとして。


 そのとき。


 ……彼の声に方向性を感じていることに気づいたんだ。


 私は振り返る。


 そこには彼がいた。


 1年経って、少し老けたかもしれない彼が。


 私は涙を堪えきれなかった。

 そのまま、本を投げ出し。


 彼に飛びつく。


 こう言いながら。


「お帰りカムイ!」


「……ただいま。ノース」

普通はざまあなんでしょうけどね。

外れスキル系。

でも、こういうのもアリだと私は思うんですけど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「無双」とタイトルにあったのでゴリゴリのアクション系かなと思っていたらまさかのギャグ!しかもあの有名番組の! こういうアプローチもあるんだなぁ、と為になりました [気になる点] 気になる点…
[良い点] スキルの名前と効果が斬新ですごく面白かったです。こういうのもアリなんだと驚きました。
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