エピソード2 自警団になった俺、ただ穏やかに時が流れる。そんな俺の前に、もう一人の勇者が現れた。
次回は、16時に投稿します。
それから俺は、エルミリーと一緒に街を見回りするようになった。
エルミリーは、皮鎧と槍を身に付けていたが、俺は丸腰だ。
俺は、いつでも、勇者の力で武器を作り出せる。
いくら傷ついても再生する体に鎧はいらない。
「いつも、ありがとうね」
市場を見回りしている時に、行商のおばちゃんが、りんごに似た果物をくれた。
「いや、俺は何もしていないんで…」
そう返す。
「何言ってるんだい、勇者様がいてくれるだけで安心だよ」
おばちゃんは、そう言って笑った。
この街のみんなは、俺に笑顔で挨拶してくれる。
首都や軍では、思った戦果を上げられない勇者は、批判の的だった。
戦争が終わると、危険な力を持った厄介者として追放された。
そんな俺の心の支えが、同じ勇者で恋人になったユイと、勇者仲間のハルトだった。
それなのに俺は、ユイを守れなかった。
2人から少し目を離した隙に、魔族に首をはねられてユイは殺された。
「何、ぼーっとしてるの!?万引きよ!」
エルミリーが、俺に声を掛ける。
はっと我を取り戻した俺は、商品を盗んで走り去ろうとするゴロツキを視線に捉えた。
鍛えた体が、反射的に動く。
走り出した俺は、そのゴロツキの手首を捻って重心を崩す。
そいつは、くるりと廻って地面に叩きつけられた。
「おお!凄い!それは勇者の魔法か?」
市場の人達から、称賛の声が上がる。
「いや、これは魔法でも何でもなくて、手首をきめて重心を崩しただけ…」
これは、訓練すれば誰でも出来る。
ゴロツキが、ちょっと派手に飛んだだけだ。
投げられなければ手首が折れるので、反射的にそうしてしまうのだ。
まあ、こんな些細な事件があるくらいで、街は概ね平和だった。
街の外では、勇者の力で拳銃を作り出して、魔物達を倒した。
確かに数は多いが、戦争の時に戦った魔族の様な強敵ではない。
ただの害獣駆除だった。
仕事を追えれば、エルミリーの母親の作る食事を食べて寝る。
休日には、家の雑用を手伝う。
そんな日々が続く。
そんな中、俺は毎日、ユイの墓に花を持っていった。
ある日、ユイの墓の前で、俺は勇者仲間だったハルトに再会した。
俺とハルトとユイは、スリーマンセルで魔族と戦った。
俺は拳銃、ハルトはアサルトライフル、ユイはショットガンを作り出す事が出来た。
ハルトは、変わらず金髪長身のガタイのいいイケメンだった。
「ようケン、お前も、この街に来ていたのか」
ハルトが、俺に声を掛けてくる。
その手には、花束を持っていた。
こいつも、目的は同じ様だ。
「ああ、ひさしぶりだな」
俺は、不愛想に答える。
昔は違った。
俺達は笑い合える仲だったはずだ。
しかし、ユイを失った俺は変わってしまった。
「お前は、ここで自警団をやってるんだって?俺も似たようなものさ。追放されてから、この街の領主に衛兵として雇われてる」
ハルトは、そう言った。
「そうか…」
俺は、一言だけ返す。
「相変わらず、しけた野郎だ。何かあったら言ってこいよ。これでも、お前よりは羽振りがいいはずだぜ」
ハルトは、墓の前に花束を置くと、手を振りながら去っていった。
よろしければ、評価、ブックマークお願いします。
励みになります。