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エピソード1 戦争で彼女を失った俺、自暴自棄になり行き倒れる。そして、美少女自警団員に拾われた。

次回は、12時に投稿します。

 ここは、剣と魔法が支配する世界にある、ドナシモン王国。

 長きに渡る魔族と人間の戦争に、停戦が合意されて数年後。


「乾く…」


 俺は、呟いた。


 どこまでも続く荒野を、ひたすら歩いていく。


「やっと、死ねるかもしれない…」


 叶うはずの無い願いを口にする。


 もう1週間、何も口に入れずに歩き続けている。

 普通なら限界だ。

 しかし、俺の命は、俺の死を許してくれない。


「ドサッ…」


 俺は、石につまずいて倒れ込む。


「彼女の墓に辿り着くまでは生きているつもりだったが…」


 俺は、呟く。

 しかし、もうどうでもいい。

 ただ静かに目を閉じた。




 次に目を開けた時、俺は知らない天井を見上げていた。

 ひさびさの柔らかいベッドが心地よい。

 どこかの木造民家の一部屋。


 誰かに行き倒れているところを助けられたらしい。

 ボロボロだった服が、綺麗なものに交換されている。


「おい、お前、大丈夫か?」


 ベッドの横には、知らない少女が立っていた。

 青く長い髪をポニーテールにしている。

 青い目の真面目そうな顔立ち、皮鎧を身に付けていた。

 手には、短い粗末な槍を持っている。


「私の名はエルミリー、この街で自警団をしている。お前の着ていた服は、王国の兵士のものだった。どうしてこんな辺境の街にやってきた?」


 彼女は、エルミリーという名の自警団員らしい。


 街は領主の雇った衛兵が治安を守っているが、辺境では庶民の事までは助けてくれない事が多い。

 彼女の様な自警団が悪人を捕まえて、教会や領主に裁判してもらう事が多かった。


「戦争中に俺の恋人が、この街の近くで死んだんだ。ここにある墓を参りにやってきた」


 俺は、正直に答えた。

 本当は、それだけではないのだが。


「そうか…困っている者は助けるのが我が家の家訓だ。立てるならば、ついてこい。夕食の時間だ」


 彼女は、俺をリビングらしき部屋に連れていく。


 煮込まれたシチューと焼かれたパンの香りが、俺の鼻孔をくすぐる。

 俺は、勧めらえるままに席に着いた。


 テーブルには、エルミリーと、彼女の優しそうな父親と母親、エルミリーに似た10歳くらいの少女が一緒に座った。


「君の、その腕のハートに剣が刺さった刺青。それは、異世界から召喚された勇者の印ではないかね?」 


 彼女の父親が、俺に聞いた。


「はい、そうです…」


 俺は、刺青の上に隠すように手を置きながら答える。

 この事は、国民のほとんどが知っている。

 隠しようがない事だった。


 俺は、日本という国から前世の記憶を持ったまま赤ん坊の姿で、この世界に召喚された。

 そして、強制的に厳しい訓練を課せられ、最強の勇者の一人として育った。


 ただ、それは、俺を召喚した王宮の魔法使い達には不満な結果だった。

 召喚された3人の勇者に備わったギフトは、どんな傷でも回復する体と、異世界の武器を一つだけ召喚出来る事だけだった。

 確かに、俺は人間の間では最強の存在になったが、何万という魔族を相手に戦況を覆すほどの力は持ち合わせていなかったのだ。


「3人いた勇者は、一人はここで死んだ。他の二人も、戦争が終わった後に、厄介者として首都を追放になったと聞く。君は、その追放された一人ではないかね?」


 父親は、俺にそう言った。


「はい…」


 俺は、頷いた。


「強すぎる力は、恐れられるものだ。しかし、魔物が多い、この辺境の街スチアランでは歓迎だ。どうだね?私の娘と一緒に自警団員をやってくれないか?」


 父親は、俺に頭を下げる。


「この街の近くでは魔物の目撃が増えていてな。加えて戦争帰りの兵士達の乱暴も目立つ。私の他の自警団員達は、逃げ出すように辞めてしまったのだ。頼まれてくれないか?」


 エルミリーが、言った。


「はぁ…」


 俺は、深い溜息をついた。

 この世界の人間は勝手なものだ。

 平凡な高校生活を送っていた俺を呼び寄せ、必要無くなれば捨てる。

 また必要になれば利用するのか?


「いいでしょう」


 俺は、承諾する。

 戦いになれば、死に場所が出来るかもしれない。

 おそらく勇者でも、首を切り落とされたり、胴体を真っ二つにすれば死ぬだろう。

 そんな風に俺は考えた。


「俺の名前は、ケン。よろしく」


 そう言って俺は、軽く頭を下げた。

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