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美根我の気掛かりな時間  作者: しろ組
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八、逗子、危機一髪!

八、逗子、危機一髪!


 美根我と廉は、団松山の登り口の手前に差し掛かった。

 その瞬間、正午(しょうご)を知らせるサイレンが、鳴り響いた。

「この音には慣れないなぁ〜」と、廉が、ぼやいた。

「そうですねぇ」と、美根我も、同調した。戦時中は、空襲警報として、鳴らされていたからだ。

 間も無く、団松山から、メリケン軍の軍用車両の列が、下って来た。そして、次々に、駐車場へ進入して行った。しばらくして、最後尾に、荷台が(から)の三輪トラックが、通過した。

「この中に、模罹田と取り引きする奴が、居るのでしょうね」と、美根我は、睨みを利かせた。逗子を連れ去ろうと目論んで居る輩が、紛れ込んで居ると考えられるからだ。

「美根我さん、人が居なくなる前に、場内へ入りましょう。ここからでは、確認出来ませんからね」と、廉が、提言した。

「そうですね。怪しまれない内に、参りましょう」と、美根我も、賛同した。入場するには、メリケン兵の対応に追われて居る今しかないからだ。

 間も無く、二人は、メリケン兵達でごった返す管理小屋の前を素通りして、死角に駐車して居る最後に入ったトラックに、身を隠した。

 数分後、黒い縮れ頭で、ぼんやりした顔つきのメリケン兵が、最後に、小屋を立ち去った。

「取り引き相手は、来てないみたいですねぇ」と、美根我は、表情を曇らせた。ここではないのかも知れないと思えて来たからだ。

「でも、模罹田達が、向かって来ている筈だから、待ちましょう」と、廉が、力強く言った。

「そうですね。気弱になっては、いけませんね」と、美根我は、気を取り直した。廉の言葉が、心強いからだ。

 そこへ、見覚えの有る二人の男が、管理小屋へ現れた。

 その瞬間、「あっ!」と、美根我は、うっかり、声を発した。模罹田と度囲だからだ。

「銭市場の場長と次長のお出ましか!」と、廉も、吐き捨てるように言った。そして、「あいつら、手ぶらみたいだけど…」と、訝しがった。

 突然、二人が、引き返した。程無くして、リヤカーを引いて、場内へ侵入した。

「こっちへ来る!」と、廉が、(かが)んだ。

「取り敢えず、トラックの下へ隠れましょう!」と、美根我は、促した。見付かっては、元も子も無いからだ。

「ですね!」と、廉も、同意した。

 その直後、二人は、車体の下へ潜り込んだ、

 少しして、模罹田と度囲の立ち止まった足が、タイヤの隙間(すきま)から見えた。

 次の瞬間、「誰か、助けてーっ! お義父ちゃーん!」と、逗子の(わめ)く声が、場内に響いた。

「黙れ!」と、模罹田が、怒鳴った。

「ぐ…」と、逗子の(うめ)く声がした。

「場長、腹パンチは、不味いですよ~」と、度囲が、苦言を呈した。

「ふん。大人しくしないのが悪い! それに、孤児(みなしご)が、騒いだところで、先の空襲で、父親もくたばって居るだろうから、助けに来る奴なんて居ないに決まって居るだろうがな!」と、模罹田が、(あざけ)った。そして、「こいつを荷台に乗せたら、さっさとずらかるぜ」と、言葉を続けた。

「はい!」と、度囲が、即答した。

 間も無く、荷台に、重低音が伝わった。

 程無くして、二人が、引き返した。そして、登り口の方へ曲がって行った。

 しばらくして、複数の駆け寄って来る足音が聞こえた。そして、近くで、止まった。

「美根我さん。廉兄ちゃん。大丈夫?」と、珠姫の声がして来た。

 二人は、その方を見やり、安堵(あんど)した。タイヤの間から覗き込んでいる珠姫と黄休の顔を視認したからだ。

「今の内に、逗子ちゃんを助けましょう」と、珠姫が、促した。

「場内に居るのは、僕らだけですからね」と、黄休も、補足した。

「そうですね。まさか、逗子に、暴力を振るって、あのような言葉を抜かして居たなんて…!」と、美根我は、逗子の心身を傷め付ける言動に、怒りを覚えた。模罹田達を追い掛けたいところだが、逗子の救出が、最優先だからだ。

 程無くして、二人は、トラックの下から()い出るなり、荷台へ上った。そして、「靄島(もやしま)食糧(しょう)と書かれた麻袋の口を開けた。

 その直後、紐で拘束された逗子の足を視認した。

「美根我さん、これを使いな」と、廉が、短刀を差し出した。

 美根我は、それを受け取るなり、紐を切断した。

 その間に、廉も、麻袋を取り除いた。

 美根我は、逗子の顔を見るなり、「逗子…」と、言葉を詰らせた。見付けられて感極まったからだ。

「美根我さん、感動するのは後にしようぜ」と、廉が、指摘した。

「ははは…」と、美根我は、苦笑した。確かに、のんびりは出来ないからだ。そして、「逗子、歩けるかい?」と、気遣った。

「うん」と、逗子が、力強く頷いた。

 間も無く、三人は、荷台を、小屋から見えない位置へ下りた。

 その間に、珠姫と黄休も、回り込んで居た。

「逗子、お腹は、大丈夫かい?」と、美根我は、尋ねた。かなり痛そうだったからだ。

「ズキズキする…」と、逗子が、告げた。

「あの野郎、絶対に許さねえ!」と、廉が、憤った。

「落とし前を付けらせるのは、後回しにしましょう」と、美根我は、淡々と言った。今は、場内を抜け出す事が、先決だからだ。

「あ! メリケンの兵隊さん達が、戻って来たよ!」と、黄休が、にこやかに告げた。

 間も無く、小屋の窓口が、再び、メリケン兵達で、ごった返しになった。

「今ですね」と、美根我は、トラックの陰から、先立って歩き始めた。この機を逃す訳にはいかないからだ。

 少し後れて、逗子達も、続いた。

 一同は、何事も無く、小屋の前を素通りして、通りに出た。そして、帰路に就くのだった。

 

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