七、美根我、奮い立つ!
七、美根我、奮い立つ!
「美根我さん! 珠姫から、合図が有りました!」と、廉が、宿直室に駆け込んで来た。
「そうですか。で、行き先は?」と、美根我は、尋ねた。合図次第では、行き先が、変更になるからだ。
「光を三回遮ったから、団松山の登り口の駐車場で、間違い無いよ!」と、廉が、力強く答えた。
「じゃあ、私達も、向かいましょう!」と、美根我も、意気込んだ。逗子を取り戻す機会は、逃せないからだ。
「走れば、先回り出来ますね!」と、廉が、口元を綻ばせた。
「そうですね。しかし、現場を押さえたとしても、あいつらは、メリケン兵と結託していると思われますから、逆に、牢屋へぶち込まれるかも知れませんね」と、美根我は、懸念した。下手すると、メリケン兵の闇商売に触れる事になるからだ。
「美根我さん、日和ってんじゃねぇよ! 街を焼かれた上に、こんな人さらいまでも、許せるかってんだ!」と、廉が、語気を荒らげた。
「確かに、メリケン兵にびびって居ては、逗子を見殺しにするのと同じですね」と、美根我も、頷いた。妻と娘を奪われた上に、逗子までも、連れて行かれる訳にはいかないからだ。そして、「私は、逗子の父親ですからねぇ!」と、鼓舞した。逗子の為ならば、全てを投げ打っても構わないからだ。
「美根我さん、俺だって、逗子の事を、妹みたいに思って居るぜ。だからこそ、金銭目当てで、逗子をさらったのが、許せないんだ!」と、廉も、怒りを露わにした。
「ですね。まあ、今回の目的は、逗子の奪還が、最優先ですからね。正直、連れ去った奴らを張り倒したいところなんですけどね」と、美根我は、気持ちを静めた。冷静さを欠いては、まともな判断が出来ないからだ。
「そうですね。メリケン兵は、拳銃を持って居るだろうからね」と、廉も、冷静さを取り戻した。
その瞬間、美根我の腹が、空腹を知らせた。
「あ…。もう、お昼ですね…」と、美根我は、はっとなった。そして、「ひょっとすると、あまり、人目に付かないかも知れませんね」と、口にした。昼食目的で、駐車に来ると考えれば、駐車場に、あまり人気が無いと推察したからだ。
「なるほど。昼飯を食べないで、戻るのは、不自然だもんな」と、廉も、理解を示した。そして、「じゃあ、昼飯の時を狙うって事だね」と、含み笑いをした。
「ええ。けれど、私の推測ですけどね」と、美根我は、表情を曇らせた。自分の思う通りに、動くかどうか、判らないからだ。
「美根我さん、あれこれ考えても、仕方無いですよ。後は、着いてから、考えましょう」と、廉が、あっけらかんと言った。
「そうですね」と、美根我は、相槌を打った。確かに、現地へ行ってから、考えた方が良いからだ。
間も無く、二人は、宿直室を後にするのだった。