五、気がつけば…
五、気がつけば…
「う…ん…」と、逗子は、薄暗い場所で目を覚ました。そして、記憶を整理した。腹パンチを受けたところから、しばらく担がれ、坂道を下る感覚までは、憶えていたからだ。間も無く、「うっ…」と、腹部の痛みに、顔を顰めた。そして、「夢じゃないんだ…」と、呟いた。昨夜の出来事は、全て、現実なのだと認識させられたからだ。
そこへ、「メリケン兵は、何時頃、来る予定だ?」と、離れた場所から、模罹田の声がした。
「灰吉さんの家を更地にした駐車場の管理小屋に、お昼頃とか…」と、名前の判らない男が、回答した。
「なるほど。あそこなら、メリケン兵の車の出入りが、多いから、取り引き場所としては、最適だな」と、模罹田が、嬉々とした。そして、「昨夜の女子供は、どうして居る?」と、尋ねた。
「さっき、扉の隙間から覗いたのですが、起きて居る風は、なかったですね」と、名前の判らない男が、回答した。
「腹パンチが、効き過ぎたか…」と、模罹田が、口にした。そして、「まあ、金さえ貰えれば、生きて居ようが、死んでいようが、どちらでも構わんがな」と、言葉を続けた。
「そうですね。このご時世、孤児が、一人居なくなったところで、誰も気にしないですからね」と、名前の判らない男も、同調した。
「おい! あんまり、ここで、軽々しく口にするな!」と、模罹田が、怒鳴った。
「は、はい…」と、名前の判らない男が、萎縮した。
「さあ、開店準備に取り掛かるとしよう」と、模罹田が、意気揚々と言った。
「そうですね!」と、名前の判らない男も、相槌を打った。
程無くして、二人の足音が、遠ざかって行った。
逗子は、体力の温存の為、動かない事にした。灰吉の駐車場ならば、人目に付きそうだからだ。なので、今は、もう一眠りするのだった。