三、神隠し
三、神隠し
美根我は、壁の柱時計を見やった。程無くして、10時過ぎたのを視認した。そして、「遅いですねぇ」と、心配した。子供が出歩くのには、遅い時間だからだ。
そこへ、三人の少年少女が、深刻な表情で、現れた。
「美根我さん、逗子は、帰ってませんか?」と、頬に、火傷の痕の在る少年が、開口一番に、問うた。
「逗子は、まだ帰ってないよ」と、美根我は、返答した。そして、「逗子が、どうかしたのですか?」と、尋ねた。只事ではないと、ざわついたからだ。
「実は…」と、瓶底眼鏡のお下げ髪の少女が、半べそで、経緯を語り始めた。
しばらくして、「まるで、神隠しみたいな話ですねぇ」と、美根我は、眉根を寄せた。そして、「君達は、こんな時間まで、逗子を捜してくれて居たのですね」と、理解を示した。理由が、判明したからだ。
「美根我さん、年長の俺が、別行動を取ったばかりに…」と、火傷の痕の在る少年が、自責の念にかられながら、項垂れた。
「私が、一人で行ってたら、こんな事には…」と、瓶底眼鏡のお下げ髪の少女が、両手で、顔を覆った。
「逗子、無事だと良いんだけど…」と、坊主頭の少年も、渋い顔をした。
「そうですね。でも、今晩は、遅いですから、お家へ帰って下さい」と、美根我は、やんわりと促した。三人の保護者達が、心配して居る筈だからだ。
「美根我さん。今晩は、ここへ泊めて貰えないかな?」と、火傷の痕の在る少年が、申し入れた。
「僕らが、こんな時間に出歩いて居るとなると、お巡りさんに、補導されちゃうだろうからね」と、坊主頭の少年が、口添えした。
「私も、逗子ちゃんが心配で、今晩は、家になんて居られないわ」と、瓶底眼鏡のお下げ髪の少女も、口にした。
「分かりました。私も、仕事が有りますし、あなた方を送るのは、難しいですからね」と、美根我も、聞き入れた。三人が、不安と責任を感じて居るのを察したからだ。そして、「もしも、逗子が、戻って来なければ、居なくなった場所へ、明日、行ってみましょう」と、提案した。何かしらの痕跡が、残されて居るかも知れないからだ。
「そうだね。明るくなってから、厠の周りを調べた方が良いかも知れないね」と、火傷の痕の在る少年も、賛同した。
「へへ、まるで、探偵になった気分だね」と、坊主頭の少年が、戯けた。
瓶底眼鏡のお下げ髪の少女が、両手を除けるなり、「あ、遊びじゃないのよ!」と、語気を荒らげた。
「な、何だよ!」と、坊主頭の少年が、口を尖らせた。
「まあまあ。心配なのは、皆一緒なんだから、落ち着きましょう」と、美根我は、宥めた。正直、自分が、最も心中穏やかではないのだが、大人である以上、取り乱す訳にもいかないからだ。
「二人共、美根我さんを困らせんなよ! 逗子から目を離したのは、俺も、同罪なんだからよ!」と、廉が、口を挟んだ。
「皆さんが、気に病む事は有りませんよ。逗子は、きっと無事だと思います。暗いから、何処かで、じっとして居るのかも知れませんよ」と、美根我は、明るく振る舞った。何かしらの事故に遭って、動けない状態なのかも知れないからだ。
「そうだな。明るくなったら、逗子を迎えに行こうぜ。あいつは、靄島の焼け野原を生き抜いて来たんだからよ!」と、廉が、力強く言った。
その直後、「うん!」と、珠姫と黄休も、頷き合った。
「今日の所は、お休みなさい。あなた達は、寝る時間ですよ」と、美根我は、促した。就寝時間を過ぎているからだ。
「はーい」と、三人が、揃って、返事をするのだった。