二、消えた逗子
二、消えた逗子
逗子は、ひと足早く、厠から出た。周囲には人気が無く、寂しい場所だった。
「逗子ちゃん、居る?」と、珠姫が、右隣の個室から声を震わせながら、問い掛けて来た。
「待って居るから、安心して」と、逗子は、すかさず返事をした。昼間でも、気味が悪いのに、夜ともなると、尚更だからだ。
そこへ、三人の何者かが、歩み寄って来た。間も無く、カーキ色の身形の男達だと判った。
逗子は、用足しなのだと思い、厠が見通せる所まで、移動した。しかし、三人組が、まっしぐらに、迫った。そして、取り囲まれてしまった。
「やっと、見付けたぜ」と、正面の男が、にこやかに、口にした。
「模罹田さん、本当に、メリケンへ渡すんですか?」と、右隣の男が、尋ねた。
「当たり前だ。100だぞ、100!」と、模罹田が、語気を荒らげた。そして、「灰吉、さっさと袋を被せろ!」と、指示した。
その直後、左側の男が、袋を被せて来た。
逗子は、為す術もなく、包まれて、担ぎ上げられてしまった。
「いっちょ上がり!」と、模罹田が、嬉々とした。
「さっさとずらかりましょう!」と、右隣の男が、促した。
「二人共、手伝って下さいよぉ〜。腰の調子が…」と、灰吉が、要請した。
「灰吉さん、仕方無いですねぇ〜」と、右隣の男が、溜め息を吐いた。
「念の為に! おりゃ!」と、模罹田の声がした。
その直後、逗子は、下腹部に強い衝撃を受けた。そして、「ぐっ…!」と、痛みのあまりに、声を出せなかった。次第に、意識が遠退いた。間も無く、ぐったりとなるのだった。